第280話 とにかく自信を持つこと

『鉄壁と信じていた防御線の一の砦である牛渚が半日で破られた!』


 牛渚陥落の報を聞いた劉繇は愕然とし、色を失った。

 そこへ張英が、敗走の兵を連れて霊陵城れいりょうじょうへと逃げ込んできたのだから、彼の怒りはハイヴォルテージに膨れ上がった。


「死ね!お前はもう死ね!くたばれ!顔も見たくない!消え失せろ!消滅しろ!木端微塵に砕け散れ!地獄に落ちろ!泣いてあの世でわび続けろ!!」


 張英に向かい罵詈雑言を投げかける劉繇。

 その様子を周囲で見ていた諸臣たちは、張英を不憫に思い、劉繇をなだめ、ようやく彼の命を救った。


 しかし、動揺は甚だしい。


 そこで劉繇は、霊陵城の防備を固め直し、自ら陣中に加わり、神亭山しんていざんの南に司令部を置いた。



 一方此方は孫策軍。

 彼らは軍を進め、神亭山の北側へと移動した。

 そこに駐軍してから数日後、孫策は、


「今から敵陣の様子を探ってくる。」


 と、周囲の者に一言言うと、護衛も付けずに一人で勝手に山に登り、山の南側へと向かった。

 事情を聞いた周瑜は、


「はぁ!? あいつ馬鹿じゃねぇの!皆の者!すぐに追いかけるぞ!!」


 と、呆れ言葉を吐き出した。

 この常軌を逸した孫策の行動に、諸将たちは慌てて馬を呼び、山へと登った彼を追いかけて行った。



「――――申し上げます!申し上げます!申し上げまぁす!!孫策らしい大将が、ただ一騎ですぐそこまで来ていまぁす!!」


 劉繇の斥候は中軍―――すなわち司令部へ駆けこんで急報した。


「馬鹿な!そんなはずはない!!」


 劉繇は信じなかった。


『敵の大将が護衛も付けずに自軍の近くに散歩しに来た。』


 こんな報告を誰が信じようか?


「もし仮に本物だとしても罠に違いない!皆の者!無視だ無視!敵の謀略に嵌る必要はない!!」


 話を信じるどころか、彼は増々疑った。

 彼の配下の幕将たちも同意見。

 超絶絶好の機会を逃そうとする劉繇たち。

 しかしそんな中、年若い一人の将校だけが斥候からの報告をよく聞いていた。


(斥候の話を聞くに、これは絶好のチャンスだ!今ここで孫策を討たずして、いつ討つというのだ!!)


 報を聞いて辛抱堪らなくなった彼は、諸将たちの前に躍り出て叫んだ。


「天の時は今が時!この機を逃せば時は落ち!夕暮逆さま一直線!今こそ私にご命令・・・プリーーーーズ!!」


 言葉の意味はわからんが、とにかく凄い自信を見せる武将の名は『太史慈たいしじ』。

 彼は孫策の首を刎ねるため、劉繇に出兵の許可を求めたのであった。

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