第215話 暴食は許さない

 『腹が減っては戦ができぬ』


 この諺の意味する通り、人に限らず生物は、お腹がすいては力が出ないモノである。(アン〇ンマン談)


 イナゴの発生により食料を失い、困り果てたのは百姓たちだけではなかった。

 曹操軍、呂布軍、両軍ともに食料が無くなり、戦を続けることが出来なくなってしまっていた。


「・・・兵站長よ。食料は・・・」


「ダメですね。一切手に入りません。米一粒も不可能です。残念ちゃ~ん。」


「・・・即答か。・・・う~む。」


 兵站長の即答に、思わず苦笑いをしてしまう曹操。

 イナゴの発生により、兵糧の価値は以前の倍?十倍?百倍?・・・とにかくとてつもない値段になってしまっているのだ。

 それでも買えるだけマシというモノである。

 とりあえず食糧が手に入らないのだ。


「どうにもならんな。」


 さすがの曹操もこれには策が無く、完全にお手上げとなってしまっていた。

 このままでは戦を続けることが不可能だと判断した彼は、陣地を引き払い、他州に移ることにしたのであった。


「・・・さて、どこへ行こうか?」


 軍議場にて、曹操は家臣一同に問いかけた。

 この問いかけに対して真っ先に手を上げて答えた一人の賢人がいた。

 荀彧じゅんいくである。

 以前にも述べたが、彼は曹操より「貴公は私の張子房ちょうしぼうである。」と称賛された人物であった。


「曹操様。東の地方の『汝南じょなん』へと向かっては如何でしょうか?」


「汝南にはまだ黄巾賊の残党たちが多くおります。その賊たちを討ち取って食料を奪い、兵たちを養うのです。」


「朝廷への聞こえは良し、百姓は喜び、我らも潤う。一石二鳥ならぬ一石三鳥の効果が得られる抜群の一手だと思われます。」


 これ以上は無いであろう荀彧の提案に、曹操を始め、その他の将たちも納得の表情を見せ、満場一致で荀彧の提案は可決した。


「その意見、『可』!皆の者!汝南へと向かうぞ!!」


「「文句も言わず向かいま~す!!」」


 こうして曹操は東の地である『汝南』へと軍を進めたのであった。



 濮陽城にて。

 曹操が陣を解き、東へと軍を進めたとの報を聞いた呂布は納得の表情を浮かべていた。


「やはり奴も困ったか。」


 兵糧問題に困ったのは呂布軍も同じである。


「・・・よいか皆の者。今日より食料は細く長く食べるのだ。贅沢は許さん。」


「はい。当然ですな。兵たちにもキツく言い聞かせておきます。」


「うむ。絶対厳守するのだぞ。」


 呂布は兵站長に厳命して、食料の節制に努めることにしたのであった。



 こうして自然の災害である『イナゴの襲来』により、双方の戦は止んでしまった。

 とはいえ、戦が完全に止んだわけではない。

 今はただの休戦である。

 来るべき時のために互いに身を引いた、静かな戦であった。

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