第190話 曹嵩の死

 時は真夜中。

 寺人たちは眠りこけ、雨音以外は聞こえない。

 寺は静けさで「無無無!」となっていた。

 しかし、その静けさは悪しき心を持つ輩共にて、突如として破られることとなる。


「殺せー!殺せ殺せー!殺殺殺殺殺せーーー!」


「キルキルキルキルキルキルキルキルキルキル!!」


「盗んで、くすねて、掻っ払う!不法に取得の泥棒生活!自由気ままにハンティング!!」


 キャッキャキャー!ワッワワー!チャッチャチャー!と、突然、寺の周りで喚声が上がった。


 寺をも震わすその轟声に、曹嵩の隣の部屋で寝ていた曹操の実弟の『曹徳そうとく』は、寝巻のままに廊下へ飛び出した。


「何事か!誰か!誰かおらぬか!!」


 曹徳が叫んでいると、騒ぎの首謀者である張闓が剣を持って彼の背後に近づいた。


「死ねぇ!くたばれ!即斬、即斬、即斬斬ッ!!」


 張闓は剣を振り下ろし、曹徳を斬り殺した。


「ぐわあああああ!のおおおおおおお!ぶぎゃぎゃーーーーー!!」


 曹徳の断末魔は寺中に響いた。

 その断末魔は老父の曹嵩の耳にも届いた。

 曹嵩は牀より飛び起きると、部屋の近くにあった厠へと逃げ込んだ。


 叫喚が耳をつんざき、血の臭いが鼻をつらぬく。


 厠にてガタガタと震えて隠れていた曹嵩であったが、張闓の手下たちにすぐに発見された。

 曹嵩は厠より引きずり出されて、彼の寝ていた寝室へと放り出された。


「お、お前たち!自分たちが何をやっているのか分かっておるのか!わしを誰だと思っておる!!こんなことをして、わしの息子が黙っていないぞ!!!」


 曹操の父という立場を盾にして、曹嵩は張闓の手下たちを怒鳴りつけた。

 しかし、彼らはヘラヘラと笑い、臆することなく曹嵩に対して刃を向けた。


「ははは!余計な心配はご無用ですぞ、御老公!あんたを殺して金を奪ったら、すぐにとんずらこいて安全な地まで逃げらぁ!だから安心してくたばりやがれ!!」


「ぬわーーっっ!!」


 手下たちは曹嵩をズタズタに斬り殺し、その他の家族や召使いたちを全て血祭りに上げた。

 そして、全てのことを終えた張闓たちは、金銀財宝を持って、雨の降りしきる夜の闇へと消えて行った。



 こうして曹操の父である曹嵩は息子の出世した姿を見ることなくこの世を去ったのである。

 そして、この事件が再び戦乱を巻き起こすことになるのであった。

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