第150話 薄命の魔女

 宴が終わり、百官たちは疲れた顔を見せながら自宅へと帰って行った。

 中でも漢王朝への忠誠心が厚い王允おういんは、家に帰る道中に董卓の悪行や朝廷の乱れを憂いていた。


 ※王允って誰?と思った読者の皆様!

  本小説の六十九話と七十話を見ましょう!いいね!!


 王允の憂い方は尋常ではなく、家に帰ってもなお、


「はぁ・・・ああ・・・あああ・・・あああああ・・・・あーーーーーーー!!」


 とため息ばかりを洩らしていた。


 「このままではいかん!!」と、彼は気分転換に屋敷の庭に出て、夜空に浮かぶ月を眺めたが、彼の気は晴れなかった。

 さらなる気分転換として杖をついて庭を散歩したが、彼の気は一向に晴れなかった。

 むしろ逆効果だったようで、王允は草陰に蹲り、今日飲んだ酒を全て吐き出してしまった。


「オロロロロローーーーー!!」


 と王允が盛大に吐瀉物としゃぶつを草陰にまき散らしていると、どこからか、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。


「しく、しくしく!ぐすっ、ぐすぐすっ!えーんえーん!うぇーんうぇーん!ああーーん!!」


 この美しくも品のある女性の泣き声を聞いた王允はスッと立ち上がり、あたりを見渡した。


「誰かいるのか?」


 王允の問いかけに応えは無し。

 王允は致し方なしと泣き声のする方へと足を運んだ。


 王允の庭には牡丹亭ぼたんていという名のていがある。

 女性の泣き声はそこから発しているとわかった王允は牡丹亭へと近づいた。

 牡丹亭には、朧月に照らされながら、目頭を手でそっと拭っている1人の女性がいた。


 彼女の名は『貂蝉ちょうせん』。齢は18。

 彼女は『絶世の美女』であり、彼女の前では芙蓉ふようの花も桃の花も「これは敵いませぬ!」と恥じらうほどの美貌であった。


 そんな貂蝉であるが、彼女は両親の顔を知らない。

 乳飲み子の頃、彼女は奴隷として市場に売られたのである。

 奴隷として売られていた貂蝉を王允が買い取り、王允は彼女を実の娘の様に大事に育てた。

 また、王允は貂蝉を育てるに当たり、諸芸を仕込んで女楽じょがくとした。


 ※女楽とは酒宴の席に出て、音楽に合わせて舞を披露する女性のことです。

  決して助平な意味ではありません。

  そう思った人は異世界にでも転生して下さい。


 美人薄命な貂蝉はその恩をよく知っていた。

 彼女は容姿端麗であり聡明でもある才色兼備な女性であった。


 そして今、そんな彼女は恩ある王允のために魔女になろうとしていたのであった。

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