第78話 迷ったら殺すのは止めなさい
曹操と陳宮は馬を走らせた。ただひたすら無言で馬を走らせた。
そして数刻が経過したとき、彼方に名も知らぬ古びた門が見えた。
「陳宮よ。あそこで一夜を過ごすとしよう。よいな?」
「・・・はい。」
曹操と陳宮はその古びた門にて一夜を過ごすことにした。
グーグー、スヤスヤ、ムニャムニャ、スピー!と地面にゴロリと横になって熟睡する曹操。
その傍らで壁に寄りかかり、頭を抱えて後悔する陳宮。
(やってしまったー!マジでやってしまったー!曹操って董卓に匹敵するぐらいの極悪人じゃないっすか!!どういうこと?えっ?これどういうことなの?私、この人の気を引くために中二病のような格好つけたセリフまで吐いたんですけど?それどころか、職を捨て、妻子も捨てたんですけど?What happend?Help me!!)
全てを捨てて曹操を救出した陳宮。
曹操は天下を救う救世主と信じていた陳宮。
曹操と共に茨の道を歩む決意をしていた陳宮。
しかし、曹操は極悪人であった。彼の思っていた人物像とは逆の人物であった。
曹操の正体を見抜いた陳宮の落胆は凄まじかった。
「NO――――――!!」
っと大声で叫べたらどれだけ楽だろう。
それで、この気持ちが晴れるならどれだけ幸せだろう。
陳宮は叫ぶ気持ちを抑えて、その場でジタバタと手足を激しく動かした。
陳宮が後悔の念に苛まれてから数刻が経過した。
(もう殺そう!曹操の奴を殺そう!曹操は天下を救う人物ではない!国を憂う者ではない!天下を奪わんとする大野心家だ!だから殺してもいいはずだ!・・・いや、まて本当にそうか!そうなのか!そうでないのか!・・・止めるべきか!・・・いや、殺そう!・・・いや、やっぱり止めよう!・・・殺そう!・・・止め・・・殺そう!)
陳宮は曹操を殺すべきか否かで悩んでいた。
寝ている曹操に刃を向けては降ろし、向けては降ろしを繰り返していた。
しかし、・・・・
(よし!殺す!殺してやる!!)
陳宮は決意を固め、曹操に刃を向けて彼を一刺ししようとした。
しかし、彼の心の芯が邪魔をした。そして、こうも考えた。
(・・・いや、寝こみを襲うのは卑怯千万。よくないな。うん。よくない。)
(それに・・・それに、今の天下にはこういう人物が必要なのかもしれない。静かで大人しい英雄より、大胆さと情熱をもった奸雄が今の世に必要なのだろう。)
(・・・しかし、私はこの男についていくことはもう出来んな。)
陳宮は剣を収めると馬に乗ってその場を去り、夜の闇を駆けて行った。
「・・・ふふふ。案外肝っ玉の小さい男よ。」
陳宮が去ってしばらくすると、曹操は目を開けた。
曹操はずっと寝たふりをしており、事の成り行きを黙って見守っていたのだ。
「死んだら死んだでそこまで。私の冒険は此処で終わり。それだけだ。」と曹操は割り切ったのだ。
「これでまた一人か・・・静かなもんだ。・・・いや、どうせすぐに騒がしくなるか。それまではゆっくり眠らせてもらおう。」
そういって曹操は狸寝入りではなく、正真正銘、眠ることにしたのであった。
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