第74話 運命は読めない

 曹操は捕まりました。

 はい。捕まりました

 董卓の発した人相書により、あっという間に捕まりました。

 特に見どころもなく捕まりました。



 曹操は洛陽から離れ、東へ東へと逃げていた。

 そして、中牟県ちゅうぼうけん付近の関門に差し掛かかった時、関所の守備兵に捕らえられたのだ。


「うえっへへへ!これで俺らも大名だ!」


「いやいや、大名なんて面倒だ!首を刎ねて千金にしようぜ!」


「まぁまぁ落ち着けよ!それは今夜ゆっくり相談しよう!」


「そうしよう!そうしよう!」


「「ひゃははははは!」」


 関所の守備兵たちは大笑いをして、捕らえた曹操を檻車の檻へと放り込んだ。

 そして守備兵たちは前祝として酒を飲み、馬鹿騒ぎを始めたのであった。


 数刻が経ち、日暮れになると馬鹿騒ぎも終わり、関門を閉じて守備兵たちはグースカピ~と眠り始めた。


(これはまいったな。・・・さてどうなるかな。)


 曹操は暴れることなく静かに目を閉じて、檻の鉄柱に寄りかかり、風の音に耳を澄ませていた。

 さわさわとさやさやと、時にヒューヒューと強い風の音が聞こえている。


(心地よい音だ。希望の見えぬ今宵の夜の子守歌としては最適だな。・・・むっ!)


 時は既に真夜中。

 夜風の音を楽しんでいた曹操のもとに足音が近づく。


「曹操殿、起きておられるか?曹操殿?」


 近づいてきた者は曹操に小声で尋ね、さらに鉄柱をカンッカンッと微かに打ち鳴らした。


「起きているなら幸運で、起きてないなら不幸である。私の声が聞こえるならば善であり、聞こえてないなら悪とする。運命か?落命か?今宵はあなたにとって選択の日。命を運ぶか、命を落とすかはあなた次第。果たして返答やいかに?」


「・・・ふっ。中二病のような発言をして私に問いかける貴公は何者であるかな?」


「おっと、おふざけが過ぎましたね。乱世の奸雄と称された曹操殿にはこう言った趣向の方が楽しいかと思いましてな。・・・では改めまして、わたくし、この部隊の隊長を務めております陳宮ちんきゅう、字を公台こうだいといいます。」


「名乗って頂いたのだから名乗り返すのが礼儀というもの。私は曹操、字は孟徳と申す。・・・して貴公はこんな時間に私に何か用でもあるのかな?」


「その問いに対する答えは単純明快。曹操殿。お主をこの檻から出してしんぜようと此処に訪れた次第です。」


「おやおや、それはありがたい。ではでは、助けて頂きましょう。理由は後で聞くとしますので。」


「結構、結構。十分です。それでは鍵を外します。」


 そう言って陳宮と名乗った男はゆるりと檻の鍵を外したのであった。

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