第63話 武将は良い馬を欲する

 丁原軍の幕舎にて呂布は一人酒を煽っていた。


「はぁ~~~。」


 呂布はため息を吐いていた。

 先日の董卓軍をコテンパンにすることでストレスを発散したつもりでいたが、彼の気は晴れなかった。


(ほんにつまらん。こんな人生でわしゃよかろうか?・・・いや、それはアカンって!どげんかせんといかんばい!)


 呂布は憂鬱であった。

 訳の分からん方言を交えた愚痴を頭の中でこぼすほど、彼は憂鬱だった。


 丁原という小物のもとで働く自分にウンザリしていた。

 どうせこの戦いも中途半端に終わらせ、自分が漢王朝の忠臣であるというアピールをするだけで終わるのだろうと呂布は思っていた。


 「そんなに嫌なら丁原のもとを離れればいいじゃん?」と思った読者の皆様。それは甘いですぞ。

 丁原は呂布を本当の息子のように可愛がり、彼が今の地位についているのは全て丁原のおかげであるからだ。

 武勇に優れた自分を高く評価してくれたからこその今の立場である。

 呂布はその恩義に縛られ、丁原のもとを離れられずにいた。


(義父も昔は勇猛で良かったんだが、今は・・・。はぁ~~~~。)


 今後の事を考え憂鬱になっている呂布のもとに1人の人物が名馬と金銀財宝を携え、訪問してきた。


「呂布将軍。お客様がお見えになっておりますが、如何なさいますか?」


「お客だと?誰だ?」


「董卓軍の李粛という者ですが、お知り合いでしょうか?」


「李粛・・・。同郷の李粛か?まぁよい、会ってみるとしよう。」


 呂布は幕舎を出て、訪問しに来た人物に会いに行った。



「おお!やはり貴公か!久しぶりだな!!」


「久しぶりだな呂布!元気にしておったか!」


「本当に久しぶりだ!まぁ立ち話も何だから中に入って酒でも・・・こ、これは!!」


 李粛を幕舎に迎え入れようとした呂布であったが、李粛が連れてきた名馬『赤兎馬』を見て、呂布は驚嘆した。


「なんと素晴らしい馬だ!この馬は・・・赤兎馬か!!」


「ご名答。これが稀代の名馬と名高い赤兎馬だ。」


「ううむ、やはりそうか。噂に違わぬ見事な馬だ。・・・しかし、何故この馬を我が陣に連れてきたのだ?」


「お前への贈り物だ。」


「何っ!本当か!!」


「本当だとも。お前のような豪傑にこそ相応しい名馬だ。大事に乗るがよい。」


「おおっ!勿論だとも!感謝する!!・・・しかし、こんな良い馬を貰っても俺はお前に報いるモノが何もない。」


「気にするな。・・・それよりも外は冷える。中に入っていいか?」


「ああ。でも先に入っててくれ。すまないがもう少しだけこの馬を見ていたい。」


「構わんよ。では失礼する。」


 そう言って李粛は1人呂布の幕舎へと入って行った。


 1人残った呂布は、武将なら誰でも夢見る赤兎馬を手に入れたことに大いに喜び、赤兎馬の背を撫でまわしたのであった。

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