第61話 素晴らしいモノは称賛される

 董卓の大宴会が終わった明くる日の夜。

 寝静まる董卓軍に一軍が迫っていた。


 軍を率いているのは丁原の将である呂布。

 彼は主君である丁原の下知を受け、董卓軍に夜襲を仕掛けるべく、軍を率いて夜の荒野を駆けてきたのだ。


「全軍突撃ぃーー!!」


 呂布は雄叫びを上げ、丁原軍を率いて20万の董卓軍に突撃した。


 打ち鳴らされるドラや太鼓の音を聞いて董卓軍は驚き、全員が急ぎ布団から飛び起きた。


「何や!何や!何や!何や!何事や!!」


 熟睡していた董卓は眠気眼をこすりながら、彼を起こしに来た李儒に尋ねた。


「と、董卓様!大変です!丁原軍が夜襲を仕掛けてきました!」


「何やて李儒!糞ぉぉぉぉ!丁原のアホがーーー!!」


 董卓は憤慨しながら鎧を身につけ陣頭(=軍の先頭)に赴くと、そこでは鬼神が演武をしていた。


 兜についている2本の触覚のような翎子りんずをなびかせ、馬上にて獲物を振り回し、董卓軍の兵たちをズタズタに斬り裂いていた。

 血に塗れ、月の光で美しく照らされる彼の得物の名は方天画戟ほうてんがげき

 方天画戟とは槍の刃の片側に「月牙」と呼ばれる三日月状の刃がついている武器である。

 この武器の特徴は突く、払う、薙ぐなど幅広い戦い方が出来る点にある。


 呂布は方天画戟を縦横無尽に振り回して、董卓軍の兵たちの喉を突き、払い飛ばし、薙ぎ倒し、戦場に血の雨を降らせていた。

 そんな呂布を止めるべく武に自信のある勇敢なる者が、彼方より名乗りを上げて彼に近づこうとした。

 呂布はその勇敢なる者を見て一笑すると、背負っていた弓を手に取り、狙いを定めて矢を放った。

 矢は勇敢なる者の喉に突き刺さり、彼は絶命した。


(いやいやいや!それは反則だろ!白兵戦(=近接戦)だけでなく弓まで無双なのか!)


 呂布は弓の腕も超一流で、彼方にいる董卓兵の主力たちを弓にてほふっていた。


 方天画戟と弓にて鬼神のごとき戦ぶりをする呂布に対し、董卓は恐れながらも目を奪われていた。


(何と言う恐るべき強さ!これが天下無双か!欲しい!是非とも我が軍に加えたい!!)


 この日、董卓軍は完敗したが、董卓は自陣にて呂布の武勇を褒め称えていた。

 それは敗戦した悔しさからの弁舌ではなく、一武人としての純粋な尊敬の念を込めての弁舌であった。

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