第57話 勢いは大事

 近づいて来る大軍に皆が驚く中、さすがは袁紹。

 彼は颯爽と馬に乗ると、大軍の前に馬を進め、大軍に向かい大声で叫んだ。


「止まれ!止まれ!お主たちはどこの軍であるか!」


 袁紹の大喝を聞いた大軍はすぐに停止した。


「止まれぇ!止まれぇ!止まらんかぁ!止まれぇぇぇぇぇぇ!!」


((いや、だから言われた通り停止したじゃん。あと何なのこの人のテンション。))


 袁紹は徹夜のせいで思考力が低下しており、また深夜テンションになっているためか、彼は呂律ろれつが回らず空まわっていた。

 ギャーギャーと訳の分からんことを叫びまくっている袁紹のもとに大軍の大将が近づいた。


「おう!わしじゃボケナス!!」


 荒っぽい口調と共に袁紹に近づいた大将は董卓であった。


 董卓は洛陽には入城せず、城外から宮中の様子を観察していた狡猾な男で、帝が野を彷徨さまよっているという報を聞き、帝を手中に収めるべく大軍を率いて帝を探していたのであった。


「お主に用はない!帝はどこじゃ!ボケナス!!」


 用はないと言いながら董卓は袁紹に帝の所在を尋ねた。

 その傲慢な態度にムカついたのか、袁紹はさらにギャーギャーと騒ぎまくり、2人は口論を始めた。


 袁紹と董卓が口論をしていると、若い帝王2人が彼らのもとに近づいた。


「静まらんか2人とも!帝の前であるぞ!!」


 威厳のある透き通るような陳留王の声に袁紹と董卓は即座に口論を止めた。

 口論を止めた董卓は陳留王の方を向き、彼を睨みつけ叫んだ。


「わしを黙らすとはお主何者だっ!」


「黙れ!糞ゴミデブ虫!お前こそ名を名乗れ!」


「何だと小僧!!」


「名を尋ねる時はまず自分からとママンに教わらなかったのか!あと本小説の四話目のタイトルを読み返して来い!このバカチンが!!」


 董卓は陳留王の抜群のキレを誇る罵声に思わずたじろいだ。

 しかし、怪物董卓はすぐに気持ちを立て直し、威風堂々、自分の名を叫んだ。


「わしの名は董卓!泣く子も黙る西涼の董卓とはわしのことよーーー!」


「それがどうした!私は陳留王だーーーー!!」


 袁紹の深夜テンションに当てられたのか、2人は荒野に響くほどの大声で互いに名乗った。

 自分を罵倒している子供が帝の弟の陳留王だと知った董卓は大変驚き、またしても大声で叫んだ。


「何だとーーー!帝の弟の陳留王だとーーー!うおぉぉぉぉぉ!ごめんなさーーーい!!」


 董卓は馬から降り、地面に膝をつけて陳留王に謝罪した。


「わかればよろしいーーーー!では董卓とやらぁぁぁぁ!しっかりと洛陽まで案内せよーーー!!」


「ははぁぁぁぁ!!」


 董卓は馬に乗り、すぐに軍に指示を出して、帝一行を護衛しながら洛陽へと歩を進めた。



 その道中、董卓はこう思った。


(あれが陳留王か。・・・見事だ。それに比べて新帝のなんて情けないことだ。・・・これは今の帝を廃して、陳留王を帝にした方が良いのではないか?・・・ふふふ。面白くなってきた。)



 蒼天たちは帰還した。

 しかし、それと同時に新たな脅威が訪れたのであった。


 今この時より、蒼天は紅く染り始める。


第三章 完

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