第55話 身分を偽らない

『道なき道を進む』


 前話の最後に書いた言葉だが、これを一般人が実践したならゲームオーバーは確実である。

 だが2人は一般人ではない。

 この中国全土を支配した帝王の末裔である。

 ゲームオーバーなどなるはずもなく、エンディングへと進んでいた。



 新帝と陳留王の2人が洛陽を脱出してから一夜明けた。

 2人は寄り添うように眠り、寒さをしのいでいた。

 そんな2人に1人の男が近づき、眠っている2人の肩を揺らした。


「もしもし。大丈夫ですかな?」


「う~む。・・・・何じゃお主は?」


 新帝は眠気眼をこすりながら男に尋ねた。


「ここいらに住む者なのですが・・・身なりから察するに。かなりの身分の者とお見受けいたします。何故このような場所におられるのですかな?」


 素性も知らぬ人物に話しかけられ怯えたのか、新帝は陳留王の後ろに隠れた。

 そのため、陳留王が新帝に代わり、男に対して返答をした。


「私の後ろにおられるお方は、先日ご即位されたばかりの新帝である。十常侍の乱により洛陽を離れたのはよいが、道に迷ってしまい今に至るというわけです。」


 陳留王の威厳溢れる振舞いとその返答内容に男は仰天した。


「げっ!!こ、皇帝様であらせられるか!!し、してあなた様は?」


「帝の弟。陳留王である!!」


「げーーーっ!!陳留王!!」


 男はすぐに一歩後ろに下がり平伏して、自身の素性を話し始めた。


「私の名前は崔毅さいきと申します。宮中で仕えていたのですが十常侍の悪政に嫌気がさし、宮中を離れ、今は1人野で隠れて暮らしております。」


 崔毅は自身の素性を述べると、新帝たちを家へと招待した。



「ささっ!どうぞ帝様!」


 崔毅は新帝たちに食事を振舞った。

 いつも宮中で出される立派な御馳走ではなかったが、今の2人にとっては何よりの御馳走であった。

 新帝たちが食事を楽しんでいる間、崔毅は家の外に出て、庭掃除をする振りをしながら見張りをした。


 崔毅が見張りをしていると、一頭の馬の蹄の音が聞こえてきた。

 崔毅はドキドキしながらも庭掃除をする振りを続け、音が鳴る方へと注意を向けた。

 音が鳴る方を見ると、1人の兵が馬に乗ってこちらに近づいてきているのが見えた。


(うわ~~!こっちに来るなよ!頼むからあっちに・・・うわぁ。)


 崔毅は兵の姿を見てドン引いた。

 兵の乗っている馬のくらに生首が2つ綱で結いつけてあったのだ。

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