第49話 交わした約束は忘れない
暗殺された董太皇の死体は洛陽へと運ばれた。
民たちは董太皇の死を悲しみ、大葬をもってその死を悔やんだ。
しかし、民たちが悲しみに暮れる中、何進は董太皇の大葬に参加せずに1人自宅の寝室に籠っていた。
何進は小心者なだけでなく、向こう見ずな男でもあった。
・怒りに任せて王宮に侵攻したこと。
・甥の弁を皇帝にするために霊帝の母である董太皇を暗殺したこと。
自分が仕出かした2つの事を後悔し、自責の念に駆られていた。
非情になれない小物の何進は世間体を気にして自宅に籠るしかなかった。
(私は悪くない・・・悪くないんだ・・・。)
何進が1人で自分の行動を後悔していると、袁紹が彼の屋敷を訪れた。
袁紹は屋敷に着くとすぐに何進のいる寝室に向かった。
「何進将軍!大変です!」
「なんじゃ?どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたもありません!『何進将軍が董太皇を暗殺した』という噂が都中に広まっていますよ!!」
「何だとっ!!」
何進は袁紹の報告を聞き、布団から飛び起きると袁紹の方へ姿勢を正した。
「誰がそんな噂を流しておる!」
「調査したところ、十常侍たちが将軍を陥れるために噂を流しているとのこと。」
袁紹が噂の出所を述べると、何進は「ぬぬぬ」と怒りの声を上げた。
その様子を見た袁紹はため息が出るのを抑えることが出来なかった。
「・・・将軍。だから私はあの時、奴らを根絶やしにするよう進言したのです。私の言葉をキチンと受け入れて下さっていれば、こんな事にはなりませんでしたのに・・・はぁ。」
名門出身で自分の最も信頼する家臣である袁紹のため息を聞き、自身の情けなさと憤りも相まって、何進はまたもや短絡的思考をした。
「あの糞虫どもめぇーーー!許せん!奴らを粉微塵にしてやる!袁紹!すぐに兵を集めるのだ!」
「御意!!」
袁紹はすぐに兵たちの召集を始めた。
「十常侍様ーーー!大変であります!何進があなた方を討とうと、再び兵を集めております!」
「な、なんだとっ!そりゃいかんのう・・・せや!!」
『悪い噂を流して何進の評判を落とす』という子供が考えたようなアホな策が露見した十常侍は、再度何后のもとを訪れた。
「何后様~~~!どうか我らをお助け下さいまし~~~!!」
十常侍はスライディング土下座を決め、何后に事情を説明した。
プライドを捨て命乞いする十常侍を見て同情したのか、はたまた恩を忘れていなかったのか、何后は彼らに対してこう宣言した。
「確かに今の私が宮殿に住んでいられるのはあなたたちのおかげですものね。・・・わかりました。兄を説得しましょう。」
「おおっ!感謝感激雨あられです何后様!」
「これぐらい容易たやすいことです。兄は私の言うことをよく聞いてくれますのでご安心を。では早速説得するとしましょう。」
何后はそう言うと侍女を呼び、宮殿に来るように何進に使いを出すよう命令した。
妹からの使いを受け、何進は宮殿に赴き何后と面会した。
「妹よ。なぜ私を呼んだのだ?」
「兄さんをなだめるために呼んだのよ。」
「私をなだめるためだと?」
「そうよ。兄さん・・・十常侍たちを許して下さらない?」
「なに、奴らを許せだと。妹よ、それは出来ん。奴らは私を陥れようとしたのだぞ。生かしておくわけにはいかん。」
「ええ、兄さんの怒りはごもっともだわ。でも宮中の内務を司るのは十常侍の役目。そんな彼らを憎んだり、殺したりするのは漢王朝の伝統を破ることも同義。それは死んだ帝に対して失礼ではありませんか?」
「し、しかし・・・」
「それに今の私たちの地位だって十常侍が与えてくれたモノよ。彼らに恩を返す意味でもここは大人しく黙っておいて下さらないかしら。それに・・・それに、私はもうこれ以上無駄な血が流れるのは嫌だわ・・・。」
そう言って何后は悲しげな表情を浮かべた。
もちろん、そんなものは演技であったのだが、何進は鵜呑みにしてしまい、十常侍を根絶やしにしないことを決意した。
「う、うむ。わかった妹よ。軍の召集は止めるとしよう。失礼は良くないな、失礼はな。」
何進はそう言って何后に十常侍を見逃すよう約束し、宮殿を後にした。
『十常侍』、『何進』、『何后』。
ハッキリ言ってこいつらはアホである。
コントのようなことを行い、同じ話をループさせる糞野郎どもである。
こんな奴らに何話も費やしている筆者の苦労も考えてほしいモノである。
何よりこの小説を読んでくださっている読者の気持ちを察して欲しいモノである。
長くなったので今回はここまでにします。
次話より事態が動き出しますのでご期待ください。
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