第30話 妖術なんて怖くない

「ふぁいと!」


「一発!」


 先に崖を登りきった張飛は関羽に手を差し出し、上腕二頭筋を膨らませながら関羽を引っ張り上げた。関羽もまた逞しい上腕二頭筋を膨らませながら張飛の手をガッシリと握りしめていた。


「疲れたぜ。アミノエチルスルホン酸を摂取したくなるな。」


「まったくだ。そのためにもさっさと奴らを蹴散らすとしよう。・・・おっと。その前に彼らも引っ張り上げてやらんとな。」


 そう言って関羽と張飛は登ってくる劉備兵たちの手伝いを始めた。

 登ってくるのは劉備の兵と少数の朱儁の兵だけであった。

 温室育ちの朱儁の兵たちの大半は妖術に完全にビビってしまったのと、『崖なんて登れな~~い!』という情けない理由で崖下に待機となった。

 とはいえ、そのまま崖下で放置させておくわけにはいかないので、鉄門峡の傍でドラなどを鳴らし、黄巾賊の注意を引かせる仕事を与えた。



「よし!全員無事に登りきったな!皆ご苦労であった!」


 劉備は登りきった兵たちを労った。

 こういうちょっとした気の掛け方で部下たちは喜ぶものである。

 ブラック企業の上司は見習ってほしいものである。


「少し休んだ後、全軍突撃するぞ!・・・っと言いたいところだが、その前にやりたいことがある。」


 そう言って劉備は家宝の剣を腰から抜き、天へと掲げた。


「よいか皆の者!これより魔除けの歌をお前たちに教える!これを歌えば張宝の妖術を打ち破ることが出来る!皆心して聞くがいい!!」


(・・・いや、そんな歌があるならさっさと崖下で教えろよ。)と兵たちは皆そう思ったが、口には出さずに劉備の歌に耳を傾けることにした。


 劉備はオホンッ!とわざとらしく咳払いすると魔除けの歌を歌い始めた。


「妖術なんてないさー♪そんなもの嘘さー♪怖くなんてないさー♪・・・♪」


 劉備はとても奇妙な魔除けの歌を披露した。

 兵たちは皆、その歌の歌詞やリズムは幼少に聞いた歌にそっくりに感じられた。というよりも丸パクリのように感じられた。

 この歌の歌詞が著作権に引っかからないことを作者は必死に願うしかないだろう。

 ここはどうか一つ大目に見てやって欲しいものである。・・・本当にマジで見逃してください。お願いします。


「よーし!皆聞いたな!これが魔除けの歌である!皆も一緒に歌うのだ!」


((えっ!?まじかよ・・・こんな恥ずかしい歌、いい年して歌いたくないぞ。))


 劉備兵たちは完璧にドン引いたが、劉備の考えもわかるので反論しなかった。

 張宝の妖術に完敗した劉備は、兵たちの妖術に対する恐怖心を除く方法を必死に考えた。

 そして、考えた結果が自作の魔除けの歌であったのだ。


「よーし!じゃあいくぞ!さん、はい!!」


「「よ、妖術なんてないさー・・・♪そ、そんなもの・・・嘘さー・・・♪こ、怖くなんてないさー・・・♪」」


「皆声が小さい!もっと大きく叫ぶんだ!もう一度初めからだ!いくぞ!さん、はい!!」


「「よ、妖術なんてないさー♪そんなもの嘘さー♪こ、怖くなんてないさー♪・・・♪」」


「もっと大きく!心の底から!魂の声を開放するんだ!!」


「「妖術なんてないさー♪そんなもの嘘さー♪怖くなんてないさー♪・・・♪」」


「いいぞいいぞ!皆その調子だ!これで張宝の妖術は完全に無力化された!全軍このまま突撃するぞ!!」


 魔除けの歌を歌いながら劉備軍は黄巾賊に突撃していった。

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