第34話 宇宙の姿
みかとシャリュウ。二人の放った魔法と技は激しい衝撃となってぶつかり合い、光と魂の輝きとなって瞬く間に周囲を包み込んでいく。
そして、どれほどの時が経っただろう。
みかは気がつくと、不思議な感覚の流れの中にいた。
みかの放った白い光とシャリュウの放った緑の魂の力が混ざり合い、二人の周囲に特殊な空間を形成していた。
「これは何なの? シャリュウ!」
「それはこちらの聞きたいことですわ。みかさんのその力。どうやらただの攻撃魔法というわけではないようですわね」
「そうか……」
その言葉にみかは何かを含む笑いをした。
「何がおかしいんですの?」
そんなみかの不遜な態度に、シャリュウは怪訝そうに眉をひそめる。
「あんたでも分からないことがあるんだと思って」
みかの歯に着せぬ物言いにシャリュウは少しむっとした表情を見せた。みかの話は続く。
「わたしはあんたは何でも知ってると思ってた。永遠を生きる完璧な大師様なんだって。でも、違ったんだ。あんたは少し強くて賢くて長生きだけど、わたし達と同じこの宇宙の生き物なんだ」
「馬鹿なことを……」
軽く呟き、シャリュウは片手で鎌を強く振り下ろす。先端が地に刺さり、光の中でわずかに土煙を巻き上げた。
「わたくしをあんなつまらない生き物と一緒にするなんて。みかさん、あなたは酷い思い違いをしているようですわね」
静かでありながらも強い意思がこめられた視線にも、みかはもう動じなかった。
シャリュウは呆れたようにため息をついた。
「まあいいでしょう。愚かなみかさんには口で言うよりも目で見せた方が早いというもの。あなたにこの宇宙に生きる者達を、この宇宙の姿をお見せしましょう」
「宇宙の姿を!?」
みかが思わず興味津津と目を輝かせたのを見て、シャリュウは機嫌良さそうにほくそ笑み、大きく両手を広げて演説ぶった。
「そうです! あなたがちっぽけな夢に思い描いてきた宇宙の姿をこのわたくしが見せてさしあげましょう!」
そう宣言して、シャリュウが鎌を振り上げると、周囲を舞う光の渦からそこへ魂の輝きが集まっていった。
「この死神の鎌は魂を操ることができるのは前に話した通りです」
シャリュウはまるで物知らずな生徒を前にした先生のように話し始める。みかは警戒しながらもその話に耳を傾けた。
「そして、この鎌によって操り集めたこれらの魂には、宇宙の古き時代から存在するものもあり、そこには宇宙の記憶がこめられているのです。わたくしはこれらの魂の情報から宇宙の姿を知りました」
集められた魂から光が広がり、そこから彼らが生きていた頃であろう様々な時代、様々な場所の景色が映し出されていく。
それは時に憎しみあい、争いながらも平和に笑いあう宇宙人達の姿。魂に刻まれた宇宙の記憶。
それらの映像は姿や文明を様々にしながらも、今の地球人と変わらないようにみかには思えた。その口から正直な気持ちがこぼれ落ちる。
「あまり変わらないんだ。わたし達と」
「そう、変わらないのです! そう知った時のわたくしの絶望があなたに分かりますか!?」
「何が言いたいの?」
みかには大師の言いたいことが理解できなかった。だが、彼女には深い思いがあるようだった。彼女らしくもなく興奮した様子でまくし立てる。
「変わらない世界など無いものと変わらない! 永遠を生きるわたくしにはそれが耐えられませんの!」
シャリュウが再び鎌を振るう。映し出されていた宇宙の記憶がかき消されるように消えていった。
「この宇宙には面白いものも見るべき価値のあるものもほとんどありはしなかった。一部の光る物もあるにはありましたが、それすら時が押し流していく。あなたもくだらない夢を見ることはやめなさい」
みかには分からないこともあった。でも、言うべきことはあった。それはここにあったから。だから、自信を持って答えることが出来る。
「わたしにはあったよ。たくさんのことが」
「なんですって?」
「友達と出会えて、一緒に遊んで、とても楽しかった。あんたはみんなと心から仲良くしようとしないから、その楽しさが理解できないんだ!」
「くっ、知った風な口を。しょせんはすぐに死ぬ弱い生き物と仲良くしたところで、それが何の役に立つというのです? わたくしの糧に欠片ほども貢献しはしないのです。そのような行為は無駄なのですわ」
「そうとしか思えないならあんたは悲しい人だよ。あんたを愛して慕ってた人だってたくさんいたのに!」
みかの持つ杖にこめられた魔道士達の想い。そこには確かに愛があった。
そして、シャリュウのことを母と言い、自分の前にたちはだかったゆうなにも。
だが、シャリュウはそれを平然として踏みにじる。
「しょせんは不必要になった者達ですわ。そして、この宇宙ですらわたくしにとっては不要な物となりつつある。これを見なさい。平口みか!」
シャリュウが声を上げると、二人の足元の空間に黒い染みが広がっていき、地面に宇宙の映像が映し出される。
「今度は何をするつもり?」
みかは警戒する。シャリュウの声は落ち着いたものだった。だが、みかは何か言い知れぬ不穏のような物を感じていた。
「この宇宙は神様が作ったものということを、みかさんはご存知でしょうか」
「神様が?」
「そうです。わたくしも自分で見たわけではありませんが、宇宙にある情報を集めるとそうなっているようです。そこでわたくしは気づきましたの」
シャリュウが黒い宇宙となった地面を軽くつく。
映し出されている宇宙の星々が縮小していき、限りなく広範囲な宇宙の縮図となっていく。
「神様に宇宙が作れたのなら、自分でも作れるのではないか。この宇宙が自分にとって必要のないものならば、この宇宙を消し、自分で自分にとって価値のある宇宙を自分の意のままに作ればいいのではないかと」
「何を言っているの……あっ」
その時、みかは気づいた。
広い宇宙の映像だと思っていたものの片隅に、不自然にうごめく青い染みのようなものがあることに。それはゆっくりとだが少しづつ黒い宇宙を侵食していく。
「なん……なのあれ?」
みかは絶句する。それが何かとても恐ろしい存在のように思えて身をすくませる。
「気づきましたか? あれは今ある宇宙を喰らい無へと帰すためにわたくしが作りだした巨大なる獣。混沌の星獣カオスギャラクシアン。永遠の時があればこのような存在を作り出すことも可能なのです」
「どうしてこんなに酷いことを!!」
みかには消されていく宇宙の悲鳴が聞こえるようだった。
シャリュウは足元の映像を消し、その瞳を静かに上げた。
「酷い、ですか? 今のこの宇宙に残しておく価値のあるものなどありますか? 神様の作った宇宙などもういらないではありませんか」
「大きな力をこんなことにしか使えないなんて!」
「力があるからこんなことも出来るのですわ。わたくしは自分のやりたいようにやる。嫌だと言うのならば、何か意義のあることを見せてみなさい」
「わたし達には夢がある! この宇宙で暮らすからこそ見れる未来があるんだ! だから……絶対に守る!!」
みかは杖を振り上げる。この宇宙を守る意思をこめて精神を集中する。周囲を渦巻いていた光と魂がそこへ集まっていく。
「わたしに力を貸してくれるの?」
それはみかにとっても予期していないことだった。シャリュウの集めてきた魂が自分に味方してくれている。
だが、考えてみればそれも当たり前のことだったかもしれない。これらの魂達ももとはこの宇宙に生きてきた者達だったのだから。
「みんなでこの宇宙を守ろう!!」
みかは勇気を胸に、決意を新たにして倒すべき敵の姿を睨みつける。
「みかさん、あなたは全てを一つにするつもりですの? しかし、無駄なことですわ。この大鎌には魂を操る力がある! 逆らうことなど出来るわけもない!」
シャリュウは死神の鎌を振り上げる。
「さあ、再びここに宿り、力となるのです。スピリット・オブ・エルザレム!」
だが、魂を操るはずの死神の大鎌がみかのもとから魂を引き戻せないでいた。シャリュウはわずかに振り上げていた鎌を下ろし、呟いた。
「馬鹿な……」
「みんなこの宇宙を守りたいんだ! この宇宙に生きているから!」
「へらず口を。ならばあなたの魂もろとも全てのものをこの世から刈り取ってあげますわ。デスサイズキル!」
シャリュウの振るう大鎌から死をまとった斬撃波が飛ぶ。だが、それはみかの前面に集まった魂の輝きに阻まれて散っていった。
「みんな、ありがとう!」
「チッ、魂を操る死神の鎌が魂に拒まれるとは。こんなもの、もうただのガラクタですわ!」
魂の操作も出来ず、攻撃の役にも立たなくなった大鎌など、シャリュウにとってはただの邪魔なお荷物でしかなかった。
シャリュウは役に立たなくなったそれをあっさりと投げ捨てた。それを見てみかは悲しい気持ちになった。
「あんたはそうやって何でも捨ててしまうんだね」
「役に立たないんですもの! 捨てて何が悪いというのですか!」
「必要なものだってあったはずだよ!!」
「生意気ですわよ!!」
シャリュウの両手に幾枚ものカードが広げられる。それらを構え、魔力をこめる。
「気づくのが遅かったのかもしれませんわね。この宇宙の何物にも、もはや何の価値もないことに!! もっと早く! 見切りをつけるべきだった!!」
みかに向かって投げつけられる多数のカード。続いてシャリュウの指が魔術の印を切る。
「魔爆風! 疾風剣!」
みかはもう動じない。激しい爆発と切り裂く風の刃となって飛んでくるそれらのカードを、毅然として迎え撃つ。
「わたし達は負けないよ! みんなと一緒に! この宇宙を守ってみせる!」
みかの振り上げる杖の先に光と魂が渦となって集まっていく。吹き荒れる風が魔力を散らし、シャリュウの投げたカードを揺さぶり無力化して落としていく。
風にあおられながら、シャリュウは今まで控えさせていた2体の魔獣を呼んだ。
「セラベイク! デアモート! ここへ来て、わたくしの力となりなさい!!」
2体の魔獣が青い炎と化して、シャリュウの両腕に宿る。シャリュウの赤い瞳に狂気が走った。
「この炎にはわたくしの作り上げた混沌の星獣と同種の力がこめられている。すなわちこれも宇宙を喰らう力! この宇宙より一足先に、消えてしまいなさい!!」
シャリュウの構える手の先に青い炎が凝縮されていく。
「カオスインフェルノ!!」
そして、両腕を振り下ろし放たれるシャリュウの最大の術がみかを襲う。宇宙を喰らうほどのその巨大な青い炎を前に、みかは杖を強く振り抜いた。
「ミカマジカルフラッシュ!!」
光が青い炎と激突する。この宇宙で生きることをあきらめた混沌の力が、生存を望むみか達の希望の光を喰らっていく。喰らいながら大きくなっていく。
「くっ」
みかは苦しさに膝を折りそうになってしまう。
「消えなさい! この宇宙とともに!」
シャリュウの赤い瞳が不気味な輝きを増す。未来が闇に閉ざされていく。
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