第9話 恩返し
「すいません、服借りちゃって」
「気にすんな。こちとら、娘を助けてもらったんだ。これぐらい当然さ」
山の頂上で思いのたけをぶつけ終わった俺は頭が冷えた。
急いでアンちゃんの家に戻ると、夫婦2人から温かい目で視られた。だが、気にしない。
その後ホブスさんに聞いて知ったが、ステータスと言う概念はあり、国の一般兵士のレベルはだいたい20~25でHPの平均値がおよそ700とのこと。
人間やめちゃってんなあ、ここまで来ると笑いがこみあげてくる。
種族が新人類だし、HPが700万越えって、しかも運の『????』って何!
どうりで幸運を望んだはずなのに、不運続きなわけだよ、チクショウッ!!
心の中で悪態を吐いた後、自分の化物じみたステータスを気にしないことにした。
断じて現実逃避ではない。
そうこうしている内に着替えが終わる。
腰巻を取り、ホブスさんの若いころの服を着させてもらっている。
「セーイチお兄ちゃん、似合ってるよ」
「そうだな。腰巻なんか止めて、こっちの方がいいぞ」
「ありがとう、アンちゃん。あと、ホブスさんはいつになれば腰巻が俺の趣味じゃないって覚えるの!・・・・・・ところでレダさんは?」
もう1人のボケが来ないと思ったら、いつの間にかレダさんがいない。
さっきまで部屋に居たんだが、着替えている内にどこかに行ってしまったようだ。
そんな俺の疑問にホブスさんが答えた。
「ああ、レダはちょいと具合が悪くてな。治りかけてはいるんだが、悪化しない為にも、寝るようにって俺が言ったんだ。今は寝室で寝ているよ」
「そうなんですか。そんな大変な時にお世話になってすみません」
そう言えば、アンちゃんが山を登ったのは薬草を取るのが目的だったな。
体調が悪かったのに俺を出迎えてくれたのか・・・申し訳ないな。
(残念な人としか思ってなくて、すみませんでした)
誠一は心の中でレダに合掌し、謝るのだった。
しかし、初めて会った俺に服まで借りて、その上、寝る場所まで提供してくれるのだ。
アンちゃんを助けたと言っても、いくらなんでも、これはもらい過ぎである。
何かしないと、自責の念で心苦しい。
そして、誠一は自分にできる事を考え付いた。
意を決した誠一はホブスに声をかける。
「すみません、台所借りてもいいですか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いろんな食材があるね」
「うん、村の皆がお母さんに食べてくれって言ってくれたの」
「良い人達だな・・・しかし、風邪に酒はないだろう、普通」
ホブスさんから許可をもらい、俺はカンテラを手にしたアンちゃんに連れられ、台所の床下に掘られた穴の食料置き場に来ていた。
ホブスさんが入っても余裕があるほどの深さと広さ。
科学が発達していないこの世界には冷蔵庫などの便利な機械が無い。
そのため、涼しい地下で野菜などを保存させているのだろう。
「これが生姜にジャガイモ、長ネギか。形が地球のと全く違うな」
匂いも味はあんまり変わらないけど、と独りごちながらスマホの【God先生】の説明を見ながら、食材を確認する。
他にあるのはシイタケの味をしたキノコに、唐辛子らしき物に、あれは・・・肉の塩漬けか?
塩漬けとは食品の保存法の1つである。
塩は防腐性を持ち、雑菌を抑え組織の軟化を防いでくれる。
岩塩もあったため、塩は豊富なのだろう。
味見をしてみたが、血抜きをしていないのかクセが強い。
後はアンちゃんが持ってきた薬草。
しかし、予想はしていたが米がない。
小麦があり、この地域ではパンが主食なのだろう。
(卵があるし、米があればお粥が作れたんだが)
そう、残念に思いながら見回っていると、壺に入ったモノに誠一の目が奪われた。
誠一は驚愕し、壺に近づく。
「こ、これは、何でここに・・・!」
「あ、それはね、前に商人のおじさんからお父さんが奮発して買ったんだ。高かったけど、全然使ってないんだ」
「・・・よし、メニューは決まった」
誠一は袖をまくり、料理を始めるべく穴を飛び出した。
「セーイチお兄ちゃん、私だけじゃ出れないよー!」
「あ、ごめんごめん」
飛び出したが、アンちゃんを置いて来てしまったのに気付き、すぐに穴に戻った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「う~ん、よく寝た~」
目覚めたレダは体を伸ばし、パキポキと音が鳴る
気づけば、日が沈みかけているのが窓から見える。
「長いこと寝ちゃったのね」
熱も下がり、調子もほとんど良くなっている。
明日には、完治するだろう。
しばらくは呆けていたが、お腹からグ~と可愛らしい音が鳴った。
「そういえば朝からまともに食べてなかったわね」
朝に果物を食べただけで他には水しか口にしていない。
夫と娘は料理が出来ないので、2人もお腹を空かしているだろう。
そう思い少しだるいか自分の身体を起こそうとすると、ある匂いが漂ってきた。
様々な食材の絡み合った匂いが、レダの鼻孔をくすぐる。
今までに嗅いだことがない
「これは・・・・・・」
レダは自分が気付かないうちに寝室を出て、台所に向かっていた。
台所の扉に手をかけ開けると、
「あ、起きたんですか。ちょうど良かった。今できたところで、呼びに行こうと思ってたんですよ」
娘の恩人、セーイチが鍋を持って立っていた。
「#%&@%#*&$!?」
そして、何故かセーイチのそばで、夫が床でのた打ち回っていた。
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