第5話:「そういうところが嫌い」「負けない」



「もうこなくてもいいんだよ」


 そう告げると君は怒ったように花瓶に花を突っ込む。

 ああ、かわいそうだろう?

 花が。


「なんで、んなこと言うんだよ!」


 だって、ここは完全介護だから。

 君が私という重荷を背負う必要はないんだ。

 私が君にしてあげられることはもう何もないのだから。


「嫌いだ」


 ああ、君からの嫌いは攻撃力が高いね。

 それでもきっとその方がいいんだろうね。


「だから、もう来なくていいんだよ」


 君は君の人生を歩けばいい。


「そういうところが嫌い」


 だから、嫌い、なんだろう?

 繰り返されるのはちょっと痛いな。

 君はちいさく「負けない」と呟く。

 だから、なにに。と思うけど帰る準備をしはじめた君を見つめる。

 もう来ないだろう君を記憶に焼き付けるために。

 病室のドアを出る寸前、君はひょいっと振り返る。

 困ったような微苦笑。

 最期の記憶は笑顔がいいなぁ。











「また、あした!」





 君は夜明け。


 



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