3
「10話 『穴だらけの加工品』」
パシャ、パシャ、と、心地よきシャッター音が響く。
何度聴いてもいいものだ。
真実とは加工品だ。
つまらないものをおもしろおかしく加工過程があるからこそ、世に出した時に輝きだす。
輝きの強さは、加工する者の手腕にかかっている。
もちろん、一流である自分の手にかかれば、最高純度の真実が造り上げられる。
その実感がシャッターを押すたびに、耳から、手から、全身から伝わってくる。
この瞬間、たまらない。
「くはははは」
遠望レンズを使って潜伏しているとはいえ、笑い声はまずい。
被写体に決して見つかるはずはないが、それでも念には念をいれなければならない。
だが、嬉しすぎるのだ。
人間が死ぬ姿を写真に写せるのは。
「プリズンの燃え上がる死体……。いいぞ、いいぞおお。こんないい絵が撮れるなんて思わなかった」
プリズンが燃えている。
どんな状況なのかは知らない。
だが、ある程度予測はついていた。
奴がきっと五年前の真犯人だったのだろう。
プリズンか、フリシキ。
そのどちらかが事件の揉み消しをやっていた可能性が高かった。
あれから五年――。
ようやく事件は進展した。
そのおかげでこんな金になる写真を撮れる。
そのおぜん立てをしたのは自分だ。
自分が、グレイスを引きつきておいたおかげで、コミットは殺されたのだ。
天才だからこそ。
自分だからこそ。
こうやって至福の時を得ることができた。
「もっとだ、もっと苦痛に満ちた顔を撮ってやる。同情を誘うような顔を映して、俺はかえり咲いて見せる。あの時のような快感をまた――」
楽しい。
楽しすぎるから――
背後に立たれていることに気がつかなかった。
胸に衝撃が奔る。
痛い、なんてもんじゃない。
「…………あ? あああああああああああっ!!」
立っていられないぐらい痛い。
胸に手を当てる。
だが、感触が――ない。
胸がどこかにいってしまったと認識したと同時に、地面に倒れこむ。
「胸に穴……が…………?」
ない。
ない。
どこにも、胸がない。
空洞になっている。
だが、そのへんの散らばっているだけならば、まだフィルム化して繋ぐことができる。まだ助かる。
そのためにはまず、眼前の男の写真を撮って動きを封じなければならない。
「くそっ――」
カメラを構えるが、
ドギュッンッ!! とその腕にまた穴が開く。
「ぎいやあああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
撃たれた?
拳銃なんかじゃない。
腕がくりぬかれてしまった。
一体、どんな『スペシャリテ』なんだ。
そして、男は近づいてくる。
それでようやく雨雲の影から現れた男の人相が判明する。
そいつは、よく知る男だった。
「何故……あんたが……!? 五年前に……死んだ……はず……」
また、ドギュッンッ!!
と、穴が開く。
その絶望的な音をもって、頭ごとこの世から消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます