とりあえず.6

「これ、草むしり大変かも……」

 この庭の手入れは予備費から出るだろう、いや出してもらわねば困る……と私は現実的なことを考えたのだが、二人は別のものを発見したらしく、小声ながらきゃっきゃと喜んでいる。

「なに!?」

 と、別に大声を出したつもりはなかったのだが、しっ!! とこれまた同時に叱られた。


「見てください、あの噴水の近くの陽だまり」

「ね、初めて見ちゃった......あんな風に集まるんだねぇ......」

「なんか別々の方向いてるけど、かわいい......」

 二人がそうやって声を潜めて話す方向をよくよく目を凝らすとそこにいたのは五、六匹の猫達で、いわゆる猫の集会中のようであった。

「あ、ほんとだ、五、六匹の?」

「えっと、そこにもいるんだけど......ほら、あっちとそっちにもいる」

 ざっと数えるところ十二匹ほどの猫がいるようで、どうもその一匹は昨日こちらへ来る途中にマンションの窓から顔を出していたあの黒猫のようである。

「こんなとこまで遊びに来るんだ」

 私は独り言を呟いて、たった昨日の出来事がなんと以前のことのように思われることかと思わずにいられなかった。


 まったく、昨日からなんと刺激的なことが続いていることか。しかし感傷にふける暇も集会中の猫たちに見蕩れている暇もないわけで、もう一度のロマンチックすぎる部屋をよくよく観察するために振り向いた私はギョッとした。

 入室したときには気が付かなかったのだが、入ってきたドアの入口近くには大きな絵が一枚飾られており、それはまるで生きているかのように繊細なタッチで描かれた少女の肖像画なのだ。

 まるで今にも動き出しそう――、とさえ思えるその絵に映り込むのはこの部屋のバルコニーだろう。庭をバックにして椅子に座っているのだろうか、暖かそうなタータンチェックの膝掛けをかけている。

 漆黒の真っ直ぐな黒髪は後ろで一つに束ねられ、真紅のリボンで結ばれているようで、真っ黒なセーターの襟は首まで覆っており、少女のくっきりとした美しさをより際立たせていた。


 日本人離れしたエキゾチックな顔立ちで、どちらかというと南の国を思わせるような顔の娘である。意志の強そうな大きな瞳を持ち、それでいて笑顔を含んで恥じらいを浮かべる表情がなんとも初々しい。恋でもしているのだろうか――そう思わせるような表情であった。

 バックの庭の無彩色に近い情景と、黒の装いのなかで真紅のリボンと膝を覆うタータンチェックの色合いがこの絵を引き締めてる。

 そして彼女の膝掛けの上で同じようにこちらを見つめているのは胸元だけが白い、真っ黒な猫なのだった。こちらも少女に合わせたものか、首に真紅のリボンでおめかしをしている。

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