鏑木君には少々デリカシーが足りない
あれだけうじうじしていたのに、気付いたら芙美が矢島と一緒にいる事が増えた。テスト勉強するとか、夏休みもどこかで一緒に遊べないかと話をしていると言うのを聞いた。
何故かあいつは女子にもてるし、一部からはやけに格好いいと噂されてるから、何だあいつ女だったのかと俺は思った。
「もう、健斗そんなんだから女子にモテないのよ」
「別にモテたくねえっつうの」
「あんた、そんな事ばっかり言ってて、ちゃんとあんたが好きな子できた時に嫌われても知らないからね」
「おま……女みたいな事言えたんだな」
それは失礼! と頬を膨らませる芙美は、やっぱり人が言うような大和撫子ともイケメン女子とも違う生物のような気がした。俺がそんなん分からねえせいか?
早朝でも風はちっとも涼しくないし、蝉がけたたましくてやかましい。一体ボトルがどん位なくなるんだろうと、額の汗をとりあえず拭った。
芙美とは更衣室で別れ、俺はグラウンドに向かう。陸上部は既に走っているし、バスケ部やバレー部も体育館の練習前に走り込みをしているのが見えた。
「おーい、鏑木! 次の練習試合決まったって先生言ってた!」
「おっ、マジか」
俺の方にジャージズボンにシャツの奴が走ってきた。うちのマネジだ。マネジはボードを見せながら頷く。
「うん、あのワカガク」
「マジでか」
「嬉しいか、サッカー馬鹿」
「地区大会じゃないと当たらねえと思ってたし」
「ほいじゃあ、そろそろミーティング始まるから、さっさと着いてよ、キャプテン」
「うっす」
俺はマネジに促されて、さっさと集合場所に走る。ミーティングは練習試合の日程や合宿のスケジュールの確認。その後は準備運動とグラウンドの走り込みをして、練習が始まる。
監督や顧問があれこれやっているのを見つつ、マネジが俺らの休憩用の準備をしているのを横目に、シュート練習を手伝う。ゴールキーパーだし、誰かがボールをゴールポストまで蹴り入れないと練習にならない。汗を垂らしながらキーパー練習をしていると、ようやく休憩時間が来た。
「はい、お疲れ―」
他の部が言うには、マネジをゲットするのは大変らしい。きついし、選手は練習していればいい所を少人数で選手全員分の面倒を見ないといけないし、買い出しをするのは大変だから、らしい。そうかー、とうちのマネジを見て思う。あいつが嫌な顔してるのは見た事ないから、それが普通なのかと思っていた。前に芙美に言ってみたら、心底冷たい目で「だからあんたはデリカシーがないって言われるのよ」と言われた。俺、お前以外に言われた事ないけどな。
そう思いつつマネジが用意してくれたおにぎりを食べる。この所は腐らないようにと梅おにぎりばっかりだったのが、今日は珍しく梅おかかに進化していた。
「ん、何。珍しい」
「何がよ」
「梅おかかなの、今日は」
「あんたじゃない、梅ばっかで飽きたって言ったの。本当は他の具にしたげたいけど、今日なんて無茶苦茶暑いのに、腐るじゃん」
そうかあ。
俺はそう思いながらおにぎりを頬張った。もうちょっと練習したら昼飯で、その後また練習だな。今日はあっついし、またマネジにスポドリ頼んでおこう。俺がそう思いながらべとついた手を舐めていたら、マネジにじっと顔を見られた。
「あん? 何だよ」
「まずかった? おにぎり。眉間の皺深いじゃん」
「んな事言ってねえだろ?」
「じゃあ美味しかった?」
「普通ー」
「ぎぃー!!」
何故かすねを蹴られてトレイを持って逃げられてしまった。……サッカーやってる奴の脚蹴るとか、馬鹿じゃねえの。俺が思わずムッと眉間の皺を深めたら、他の奴からまで白い目で見られた。
「んだよ」
「いや、今のは鏑木が悪い」
「何で?」
いや、マジで分からん。
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