一人目の私

わたし

ねぇ

ちょっと考えてみたんだけど

私のどこが嫌いだったのかな

きつい話になるかも

だけど聞いてくれるとありがたいな

私引っ越す前の地方が大好きだったんだ

引っ越した後に気付いたんだから馬鹿な話だけど

大好きな地方と新しい土地の情報交換がしたかったんだけれど

私の話した事があまりにいい加減で

馬鹿にされたように感じたらしい

(私も見栄を捨てられない所があったので

そこは申し訳ないと思う……だけど。)

いつしか私に積極的に声を掛ける……もとい

愛想笑いさえされなくなったんだ

〈なんだか墓穴でも掘っている気がする〉

それどころか

通りすがりざまに私にだけ聞こえるように罵声を浴びせる

あれは参ったね

よく考えたものだ

例え七メートル半径以内に人が沢山居ても私にしか聞こえない

例え一人くらいに聞かれても証拠がない

勿論抵抗したさ

(私は負けず嫌いだったし、

それよりなにより見える敵だったからね。)

最初は我慢したさ

真正面からこんなことは嫌いだと言ったし

先生にも親にも訴えかけた

先生は冷静だよ、張本人が否定しその上私の言い掛かりだ

引っ越してきたばかりだからと言うとその言葉を正しいとし

私には君の言葉には証拠が無いといった

私は失敗した

私の発言が、私の訴え自体が証拠になってしまった

(多少言葉遣いが荒かったのかもしれない)

ノートの切れ端に表を作って何週間もかけて

罵声の数と種類を記録し

(記録していることを先方は途中で気付いたんだね、

途中でぱったりと途絶えたよ)

証拠として先生に提出した

才能の無駄遣いだと言われたよ

褒めていたのかどうか

もう私には分からないが

私にとってはショックだった

救いようがない、と言われたことと同じだったからね

それからしばらくは

先生をそういう名の付いた制度としか考えてなかったな

教室会議で彼らが謝るべきだと多数決したクラスの人たちは

私が開くたびに減っていき

ついには誰も手を挙げなくなった

勝利を悟った彼らの顔は喜びにひきつっていたな

私は渇いた目で泣いていたよ

もう涙は出なかった

きらい、か

なるほど、私のいい加減さ(悪い加減の意)に愛想を尽かしたのか

私は悪に見られていたのかもね。

「悪いことをしていないので、私は正義だ」

なんて安直なことを掲げているから

私は悪だとされていると気付けなかったんだ

空想だけでは詮無いか

今となってはただの被害妄想だな

心の傷は時が癒してくれると言うが、その通りだ

人の忘却が生む、偶然であり必然というものなんだろう

私はこの記憶をすぐにでも忘れ去れるよう

読書、統計学的占い、風水、雑学、絵画、工作、運動、登山

などなど、多様なものを取り入れた

のめりこんだ

そんな生活ができるのなんて、小学生の時だけだったろうな

私は六年暗い記憶と戦った

今では安定はしたものの心を刺す言葉は

この世界から消えるものではない

そんな私が、日本の言葉を愛せる時が

くるなんて思わなかったから

私は、生きている

たとえ

明日しんでしまっても

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