第17話 新国家 コンタクト

 はじまり

 

 その惑星には、神様がいた。

 

 神様は人間に問題を与えた。


「私達の大切なものを盗めたら、新たな神様にしてあげましょう」と。

 

 人として知らぬ者のいないその問題に、多くの人間が挑んでいった。

 

 だが、今まで誰一人、神様の場所に辿り着くことすらできなかった。

 

 やがて人々が諦め、問題を知っていても無視するようになった時代。

 

 一人の女の子が問題を解いてしまった。

 

 しかも、神が一人死んでしまった。

 

 人々も、神様も揺れた。割れた。驚いた。

 

 なぜか――その女の子が事実を一切明かさずに姿をくらませたから。

 

 出会った人々は納得し、憧れるものはあとを絶たない。

 

 そんな女の子にあやかれる、新国家が樹立されたから。

 

 これは、それを知りつつ旅をする一人の女の子の物語。



 何処かの島の何処かの町の何処でも良さそうなレストラン。

 其処に、神様達60名が昼間っから店を貸切にして宴会中。其処は飲めや笑えやの桃源郷。決して酒池肉林等ではないのが大事な処である。常識は無くても良識の有る神様達は自らの保有する神格を自分で貶めることは無いのだ。ミコ=R=フローレセンスというたった一人の例外が絡まぬ限り。

 女神達の仲良しグループが幾つもの机の一つを占拠し小さな輪を作り、乙女トークに華を咲かせているかと思えば、其の直ぐ隣では大から小まで体格図鑑の男神連中が輪を作り、此の間セフポリスでミコを巻き込んで起ったハローリターン事件、その最期にミコから『処分』を任された時の感動と処分対象であった殺し屋タワーの上げた良い悲鳴談義に熱くなっていたり、他にも男神と女神で集団を作り飲んだり食べたり話したりと、女と男で水と油の様に相容れなさそうな神様連中。然し其の更に外側では小さな集団を男女混合の大きな輪で以て微笑ましく酒の肴にする男神様女神様の集団が在る。派閥に属さない大らかな心持ちの神様群。其れは全ての神様達が須く持っている物だが、何しろ俗世には誘惑が多い。遊びに気を取られて飛び出した神様達が先の小さな集団であり、此の見守っている神様達は比較的『毒されてない』、『神様っぽい』神様達なのであった。勿論同じ神様仲間、小さな輪で談義する神様達の心の高鳴りと昂りは誰よりもよく理解している。神様達は喧嘩などしない。なぜなら“神様”とは平和と優しさの理想郷に生きる者達を指す詞だからだ。

 そんな理想の神物達だが、集団の頭数が二つ足りていないのが目下共通の問題認識。

 一人はミコに出会って消えた嘘の神泉=ハート。もうどうなったのかはミコ自身から聞いているので完全に欠員扱い、いなくて当然との認識。

 もう一人は何かを企み消えた友の神零=ファクタ。昔っから単独行動を好む神様で其の心中には光など無いとまで底の無さで知られた神。何を考えているのかまるでわからない、それでいて仲間意識は誰よりも強く持っていた……矛盾の体現、両方取り、選べない男などとも云われた神様。其の行方がアパートを出てからというもの、全く掴めていない問題。

 そんな零の話題が静かに冷静に酒を飲み語らう神様達の中から出るのは決して不思議な事では無かった。大きな外周の輪と云うか、乱数配置にも等しい混沌とした位置に陣取る情報の神、紫=ミュージアムと其処に群がる女神様男神様の一団が、実際零の事を話していたのである。

「しっかし零の奴何処に行っちゃったんだろーね。ワタシ達が俗世に降りてからもう随分経つけどさあ、全く便りが無いんだから。困ったもんだよ……ぱっはーっ!」

「……そうね」零の孤独傾向に文句を付ける形で話を進め、麦酒をかっ込み自身に酔う紫の詞に、グラスの中の氷塊と蒸留酒を混ぜながらくいっと一杯呷った印の神、透=パーソナルスペースが相槌を打つ。グラスを揺らして中の氷塊でメロディを奏でる透は自分の番を演出して静かに詞を紡ぐ。

「『便りが無いのは元気の証』って魚ちゃんは云うけどね……正直『逃げたから便りが無い』とも思っちゃうわよね……うん、分るわ紫ちゃん。私達も一年近くこの俗世に居る訳だけど全く気配を感じ無いって云うのは“ゼロ”である零君の特徴だからまだしも、最低でも半月に一回送ってきていた連絡が全く音沙汰無しって云うのは不安を掻立てる事実よね。なんせ彼は友の神。孤独故に友情に飢えた神物だもの。其の彼がって、思っちゃうのよね」

「そうだね。気になるよ」「俺僕と友の誓いを立てたのになあ」「進、そりゃ俺達全員だ」

 透の話が友の神である零の神物面に向けられると、周りに群がっていた男神様三人、食の神禊=ハレルヤ、進化の神進=スターマイン、突込みを入れる切札の神剣=スペードが友である零の事を想って夫々詞を口にする。そして其れを肴に茶やら牛乳やら飲むのである。

 口ではこんなにも零の事を心配しているようではあるが、同時に神様達は其れとは矛盾する認識も持っていた。即ち、零は元気でやっている。魚の言うことが正しいとも。

 なぜ背反する考えを共存させられるのか、答えは簡単。

 零=ファクタが神様最強の一角であるからだ。本当に。

 特に物量系の闘いは彼の最も得意とする処。其れ故彼との闘いは「戦争」の規模で語られる位の話。だから心配しようがないのだ。ぶっちゃけ滅茶苦茶強いから。今迄も此れからも、零の安全を心配する奴なんて一人もいやしないのである。

 そんな感じで宴会中の一過程一つの話題に収まっていた零の話、場を盛り上げる繋ぎの積りで取り上げただけで終われば善かったのだが……終わらなかった。

 盛り上がる宴会場に相応しくない、不吉な発言が出たからだ。

 発信源は、引いた態度の女神、㬢=ミルキィウェイ。

「嫌な予感がします。近い未来わたし達の前に零さんがボロボロになって現れそうな気が」

 刹那、全員揃って固まった。皆動きが止まったのだ。

 其の場に似合わぬ発言に。其の場を凍らせる発言に。

 視線は発信源である㬢に集中する。彼女は事此処に至って漸く我に帰った様子で、慌てて先の発言を否定した。

「やだ……わたしったら何を言っているのかしら。ごめんなさい皆さん。忘れてください。捨ててください。こんなわたしの当てにならない勘なんか」

 急造で取り繕うような㬢の詞。皆同意を心に抱く。予言じみた占いがよく当たる茂の其れに比べれば、㬢の物など本人が言う通り『当たらない勘』である。気にせず宴の再会へと興じるのが無難であり鉄板であった。

 然し、神様達は㬢の詞に何か引っかかる物を感じていた。「勘だろうけど勘とも思えない」、「なんか嫌な予感が自分もする」と云った具合に元も子もない不安が伝染拡散し始めていたのだ。

 そんな時を見計らったかの様に、貸切にしていたレストランのドアベルが鳴る。

 皆ギョッとしてドアの方を向く。遅れて木製のドアを押す、低い音が鳴り響く。

 そうして現れたのは他でもない誰でもない、よれよれの服を自慢気に着て荷物や装飾品は一切持たない姿で知られた零=ファクタ当人だった。本当に現れやがった――その姿を確認した神様仲間達は更に顔を引き攣らせる。

 何故なら、視界に写る零の姿は継ぎ接ぎだらけのボロ雑巾の様に傷だらけで、見るからに弱っていたからだ。とても設計図持ちとは思えない、やられっぷりに皆がショックを受けたのである。何があった?――然う聞く前に零は身体毎倒れ気絶した。大慌てで友たる神様仲間達は零の元へ駆け寄る。宴会が変わる。飲めや食えやから治療加療へと。

 だが其れは此れから始まる或る騒動の一報目でしかなかった事を、神様達は思い知る事になる……。



「……よし。状態、落ち着いたわ。会話も問題なし。もう喋れるはずよ」

 レストランの奥座敷部屋。ボロボロになった零を治療した変異の神、巴=フラッグシップが口を開く。周りには親戚よりも遥かに多い神様仲間達59名が距離を取りつつも必死に覗き込む姿勢。其の緊張が巴の詞でプッツリ切れる。丁度巴が喋ると同時に零も自ら口を動かして「ああ、回復できた、喋れるな」と巴の発言を裏付ける。すると紫を始めとして大半の神様達は堰を切ったように零に群がり質問の嵐。一度に46を聞き分けるのが限界の零は思わず冷や汗を一筋流すが、話す内容は一つで善かった。即ち、自分の俗世での経緯を包み隠さず話せば善いと云う事に気付いたのである。そうなら実はこっちのものと、零は手を突き出して質問を遮ると「では、話そう」と何様神様のつもりで皆を静止し、語ろうとしたのだが――。

 

 その前に魚にアールで引っ叩かれた。

 

 完全に隙を突いた行動、云わば不意打ちだったので、誰もが皆又固まってしまった。其れは魚の弟子である、哉と祝も例外では無かった。師匠の突込み一閃を呆気に取られた顔して見るだけ。というか何故魚ともあろう神様が怒っているのかが、全員本気で分らなかった。すると空気を読んだ魚は先手をとって理由を話す。

「“トモダチ”に心配と迷惑かけた分4割、“トモダチ”から離れていた分5割、そして“トモダチ”に詫びも陳謝も入れずに何喰わぬ顔で話を主導しようとした分6割。計15割分のつっこみをさせてもらったわよ。どさくさに紛れて煙に巻こうとしてないで、先ずは少しでも反省しなさーい!」

 痛い一言良薬の如し。云われた零はハッとなり、床に両手を着いて頭を垂れ、「済まんこってした!」と彼なりの詫びを入れる。そしたら魚は「早く話してよ」と掌返した様に話を促す。其の切替振りには誰もついていけない。正に魚=ブラックナチュラルの独壇場。

 やっぱり魚は『最強』の一角だな――零はしみじみ思い直すとオホンと露払いの咳払いをして、やっと得々語り出した。

「オレにとって泉の歌が特別だったのはみんな知ってるだろう? あの清澄な歌声。心地いいメロディ。心躍るリズム。全てが“完成”されていた成功品の一曲は何時迄も色褪せない、永遠の娯楽だった。だから小さなレインに消えたって云われた時思ったよ。『嗚呼、とうとうこの日が来たか』ってな」

「何よ。じゃあ零は最初から泉の行き先に心当たりがあったってこと?」

「なんとなくだけどな。ただ祭、オマエの言う通り『もう会えない』ってことは其の場で分ったよ。だから最初は只呆然として……次いで沸き起ってきた気持ちは堪え性の無い小さなミコへの鬱憤だった。アイツの所為じゃ無いのは分ってた。でもアイツが問題を解いてアパートに来て泉に会った事が切欠なのもまた事実。だから八つ当りの矛先はアイツにしか向けられなかったのさ。本当、面倒くさい性格だよなオレ。で、“事実”に気付いていないオマエ達じゃ人手にもならないと思っていつもの単独行動よ。だから俗世に降りて八つ当り……つまりは嫌がらせの“手段”として考え得る限り最高のプロを雇ったのさ」

「プロだと……誰だ?」

 神様の中では(殺しの)『プロ』と云われる暗殺の神、極=セキュリティホールが零に問いを掛ける。零は極を一瞥すると、「オマエと同じ、殺し屋さ」と前置きしてから其の名を明かした。

 

 サンダー。

 

 其の名前を聞いた神様仲間達は又も固まり、60の顔を引き攣らせた。何故なら其の名を持つ人物は、俗世に於いて或る意味ミコより“危険”な男だったからだ。

「サンダー? 元気象一族で史上最悪の殺し屋を現役でやっているあの男と手を組んだの、零?」

 粋の神希=ニックネームが何時もの仮面を取去った裸の表情で嶮しい目と詞を投げかける。すると零は、引き攣った空気には場違いな明るさで「ああ」と返事し話を続ける。

「八つ当りから嫌がらせ、やるなら俗世もアパートも含め最悪最強の面子でやらなきゃと最初から思っていたぜ。此の中じゃ選べるのは事実を知るオレ一人だったし、少数精鋭の腹積りだったから俗世からリクルートする奴も出来れば一人が好ましかった。だからサンダーを選んだのさ。殺し屋ながら善も悪も行い、只々過大な騒動を起すにはアイツは打ってつけの人材だった。で、俗世に降りてサンダーと接触。金払って依頼し雇う形で手を結んだって訳よ。んで二人して何が小さなミコへの最も効果的な嫌がらせになるかって考えた。その結果辿り着いた結論はアイツを神様にすることだった」

「神様? 泥棒ミコさんは設計図も持っているから確かに神様とも云えそうなものだけど……」

「そうじゃないよ翠。零はミコを信仰の対象に祭り上げようとしたってこと。そうでしょ、零」

 違和感を表明した遊戯の神翠=ミュージックに寓話の神で魚の愛弟子哉=アリバイがフォローを入れる。軽い口調でとんでもない事を言ってのけた哉の発言に、周りは俄に騒ぎ出すが、振るより早く零は「ああ、哉の云う通り」と自分の企みが然う云う物であると認めたのである。其の回答を受けて騒ぎ出していた神様達は一斉にどよめく。此の俗世此の惑星に於いて、“信仰”は他ならぬ人々の手に因って完全に滅び去った産廃物だったからだ。人々が一度捨てた物を再利用しようなんて思い付き、此の神様仲間達には及びもつかない事だったのである。だからゲーム勝負が精一杯だったとも云える。

 周りの空気が変わる。零の作戦に感嘆し評価する方向へと。神様連中に興味を持たせた“ミコの神格化”、零は更に話す。

「小さなミコが『信じる』って詞を滅法嫌っているのは皆知っているだろう? そりゃ誰も何も信じない懐疑主義者は居るけどよ、アイツのは度を越してる。『毛嫌いしている』と云っても良い位だ。そんだけ嫌っている物を持ち出せば、きっと嫌がらせとしては十分だろうと閃いたのさ。其れは信仰を嫌がった小さなミコが自分から向かって来るように仕向けるための誘導罠にも発展すると確信した。で、オレとサンダーはミコに関する情報を調べ上げたあと、アイツが最後に滅ぼした国の跡地に計画的術式稼働都市を作って小さな信仰布教活動を初めコツコツ地道に水面下で小さなミコの凄さを語り、小さなミコに肖らないかと俗世の人々を誑かした。気付かれないようにコッソリとだ。そして信者を徐々に増やし、最後の国の跡地に住まわせ国家としての体を為す様体裁を整えた。新国家信仰国家の設立だな。勿論トップはサンダーの奴だ。提唱した『契約教』の教義や利得設定はアイツに一任していたからな。神様のオレが前に出る訳にもいかなかったしな。でも、愈新国家設立の宣言まであと2日ってとこの昨日、アイツおっそろしい事云いやがったんだよ。小さなミコがやってきて勝負になった場合“信じる力”で負かしたら、力の要素である新国家の民には用済みとして死んでもらうって……如何にも殺し屋が云いそうな事抜かしやがったんだ。オレは当然反対したさ。国民候補の数は既に30万人を越えてた。ソイツ等から力抜き取って借りといて其れを仇で返すのかってな。でもオレはアイツを見誤った……んだろうな、結局説得できずじまいに実力行使の戦闘になっちまったんだけど、先見ての通り、ボロ負けだよ。“善い電気”と“悪い電気”、更にオレとアイツで構築した“信じる力”を一方的に利用された事で神様の癖に惨敗だった。問題は解けないくせに勝つ事なら出来る奴は此の俗世にゴロゴロいるんだって、思い知ったよ。で、今此処にオレが居る理由。力を貸して欲しい。己の不始末をオマエ達に頼むのがお門違いだって事は分ってる。でも今のサンダー相手には神様61名の総力が必要なんだ。頼む、オレと一緒に新国家へ乗り込んでくれ。このままじゃ軽い気持ちで呼寄せた30万の民がアイツに殺されちまうんだ!」

 永い永い零の告白。其れは中々衝撃的で、図太い神経の持ち主である神様仲間達をも少なからず動揺させた。妙手ながらも此の俗世から“やっと”滅ぼした信仰という物を再び持ち上げたのは零の失敗汚点とさえ思えた。何しろ“信じる力”は零の云う様にミコが嫌い、そして彼女に匹敵する強力な力。が、古代から其れは『強力過ぎた』為に何度も此の俗世に生きる人間達を思い上らせ、調子に乗らせ、そして災いとなってきた曰く付きの代物でもあった。常に歴史を回してきた“信じる力”。その正体は神様の問題など解けようも無い無才で卑屈な一般市民達が自分達で生み出した『神様』にして『信仰対象』への思い込み。本物の神様からしたらとても容認できない代物。故に問題の神告宣下と並行して神様達は信仰に対して神罰を行使してきた歴史を持つ。それだけ神様達も嫌っていたし怖れていた。無限に強くなる“信じる力”の厄介さを、誰よりもミコよりも認識していたから。

 だからこそ零が其れを持ち出した事には少なからず反発するのが神様仲間達当然の反応だった。然し其の一方で“信じる力”を利用しようとした事、自分達では及びもつかなかったアイディアへの評価も少しはあった。そうで無ければとっくに零は神様連中から追放されて当然だからだ。でもそうはならないのが神様達の友情クオリティ、嫌った物滅んだ物を再利用してやろうという意気込みは、俗世の人間達が早くに失った覇気そのもの。そんな零が眩しくて、友情も消えはしないから、見捨てる事なんて出来ずにいる。

 故に神様達は全員一致団結して、零の求めに応じるのだ。

 そうと決まれば直ぐに作戦会議。皆テキパキと良く動く。

 零から提供される情報、紫が調べ上げる情報を吟味する。

 特に皆が腐心したのが、サンダーのいる神殿の内部構造。

 突入経路。陽動適地。皆の役割と時間割が決まっていく。

 然うして決まったプランを秘めて、神様達は去って行く。

 レストランを後にして、新たに現れんとす、新国家へと。



 神様達が全員集結し動いた翌日、俗世中に衝撃が走った。

 あらゆる情報媒体をジャックし、横断大陸フィムパルク王国跡地に新国家、コンタクトの樹立が宣言されたからである。神様の問題を解きし英傑ミコ=R=フローレセンスを崇め、その力にあやかろうという『契約教』を信仰する信仰国家の誕生は、俗世中の管理層支配層に大きなショックを与えた。人類の総意として冬夏戦国時代に全ての信仰勢力を滅ぼし、徹底的な法整備で後の芽を摘み取った時から僅か数年で反逆ともいえる新教義が出てきたことに動揺し、浮き足立つ。この日、高照の月の8日に発せられた『新国家建国宣言』はそれほどの衝撃を全俗世に与えたのである。

 そして、その余波は村、町、都だけでなく秘境や里にまで達していた。特に気象一族の里では国家元首が抜けた元仲間であるサンダーという発表内容に一族全員が度肝を抜かれた。気象一族トップの『三頂老』をはじめ、里を運営している実力者達が円卓会議に集結した。その中にはかつてミコに呼ばれ神様達と闘ったカーレントがいたし、ミコに邪な片恋慕の情を抱いているシャインとクラウドの姿もあった。他にも数々の強者達(気象一族内での話)が円卓に集結し、席に着く。全員揃ったところで三頂老が三人で一人の掛け合いのように音頭をとって会議が始まった。

「では皆の衆、円卓会議を始めるよん。皆新聞や放送受信機で知っての通り、かつて38代目レインと一緒に我等が気象一族を出奔したサンダーがこともあろうに信仰国家なんて作っちゃったんだよん。今は懐かしき冬夏戦国時代に人類の総意を改造してまで滅ぼした信仰を復活させ、悪事善事は問わず、己が為そしてレインを貶めようとせんが為に利用しようということは明白。気象一族としては断固とした対応を取るべきだと思うのよん。誰か反対する人いる?」

 三頂老の一人、顎髭の似合う逞しき御老体スモッグが話を切り出し状況説明も簡潔にいきなり決議を求めてくる。普通なら議論とかありそうなものなのだろうが、気象一族はかなり特殊。皆すんなり受け入れて、すぐに決議に入ってしまうのだ。勿論全員意見は「異議なし」一色。結論はすぐに可決され、円卓会議は作戦会議に移行する。

 そこからの事務作業はスモッグに代わって同じ三頂老の一人である気象一族の『ご隠居』、ミラージュが仕切る。「まずはメンバーの選抜からじゃな。行きたい奴を立候補させればおそらく全員『行く!』と言うじゃろう。よって立候補は禁止、選抜の詞通りチームの面子は我々の協議で決める。よいな?」

 厳格と風格を感じさせるミラージュの物言い、かなり勝手かつ強引な進め方であったが、反対する者は一人もおらず、粛々とリストが出来上がっていく。

 そして仕上がったリストに上げられたメンバーに思話通信で号令がかかる。里にいる者外に出てる者含め、リストに名の有る者全員に『新国家壊滅作戦』への参加と現地集合の旨が伝えられたのだ。思話通信を受けた者達、無論全員参加を表明。それぞれ勝手に動き出した。目的地である新国家コンタクトに向かって。

 全ての手続きが終わり、手筈が整うと三頂老最後の一人、ほどよく老けた紅一点、豊齢線がチャーミングなミスト婆さんが唐突でもなく自然な流れで会議の閉幕を告げたのだ。

「はい。これで会議はお終いよ。選ばれた子達で里にいる子達は速やかに荷作りして30分後に里の門に集合すること。いいかい、遅れるんじゃないよ。現地集合の子達もだよ」

 静かな口ぶり。でもどことなく迫力のある底知れぬ口調で会議に集まった幹部達に重ねて要件を言い含める。同時にその詞をもって会議は終了皆解散、あっという間に会議室から人気は消えた。

 そしてぴったり30分後、気象一族里の門から出て行く一団の姿があった。

 その中にはミコを見つけ、最初に追いついた若輩メンバー、スノウの姿もあった。

 同じような子供があと2人、スノウと若輩者集団を作って大人達に連れられ里を出た。

 そうして気象一族の里からの出発組は、新国家にいるサンダーを叩きのめすべく、里を後にしたのである。

 

 一方で、里から遠く離れたところで思話通信による招集を受信したウィンドも、行先を新国家へと変更し現地集合するべく風に乗って飛ぶ。他にも俗世各地で趣味や仕事に当たりながらも招集指令を受けた気象一族の端末達は皆一様一律に歩の進め先を新国家コンタクトに変えて動き出す。

 

 こうして思惑と理由は違えど、神様達と気象一族、俗世に幾多にも並ぶ巨大勢力のうちふたつが、元気象一族で神様零=ファクタを撃退したという殺し屋サンダーを倒すべく彼が勝手に樹立宣言した新国家コンタクトに集まろうとしていた。

 

 そしてその動きは、当のサンダーに筒抜けであった。“善い電気”と“悪い電気”を飼い慣らす電気使いのサンダーにとって通信・通神なんてものは声に出ている町の喧騒と同列、すなわち勝手に聞こえてくる類だからだ。

 神様陣営と気象一族陣営の動きを把握しているサンダーはコンタクトの首都プロマイズの神殿にてどこにも逃げず待っている。何もせずに待っている。

 その本心にあるのは油断か、それとも余裕なのか……。



「ようこそおいでくださいました。我等新国家コンタクトの国民一同、皆様を歓迎致します」

 コンタクト首都、プロマイズの検問を通り抜けた神様連中61名は門を潜り、プロマイズの町へと進む。道は決して狭くはないが、何せ61名もの集団なので横一列は無理がある。先頭1名後ろに3名、以下3,4,5名の集団で縦列となって行動せざるを得なかった。

 逸そ集団ごとにバラバラ分散移動すれば怪しまれる事も無いのだが、其処は神様のプライド、『本物の信仰対象である自分達神様がコソコソ動くなんてみっともない』という、合理性の欠片も無い感情論が優先されたのである。疚しい事が無いとは言え、堂々とし過ぎている上悪目立ちしている感が否めない神様達の行動であったが、自覚はあったらしい。61名の集団は送迎の神学=エヴォリューションと道の神翔=スリースピードの手に因って、人目の合間を縫う毎に、道を左右に曲がる毎に、徐々にその数を減らしていった。61名の集団が、作戦決行の夜迄を、学の神業で作る“トンネル”の中で待機するべく、怪しまれない様極々自然を装って“トンネル”の中へと隠れていく。

 其れは正しく奇を衒った王道。群衆心理の裏をかく奇策。

 程なく誰にも気にされることなく、神様達は町に消えた。



「ようこそおいでくださいました。我等新国家コンタクトの国民一同、皆様を歓迎致します」

 コンタクトの首都、プロマイズの検問を通り抜けた気象一族12人は門を潜り、プロマイズの町へと進む。道を進む中目に入るのは、ちょっと変わった、異様な光景。

 それは――人間だけでなく、詞を話す動物達や精霊妖精にいたる生命体までもがコンタクトの国民として、この町にいるという混沌とした状況のこと。

 そして、多数の住民の中にかつてレインへの使い魔契約を申し出て断られたものたちがいることに、レインをよく知る気象一族の面々は目敏く気付いていた。今ミコと名乗っている39代目レインは使い魔契約の類を一切しなかったことでも有名であった。かつてレインがはるばる尋ねてきた動物さんや妖精さんたちの申し出をことごとく却下するのをウィンドやカーレント、シャインにクラウドもよく目撃しており、その結果断られて落胆した顔と同じ顔した生き物たちがいることに、この新国家と契約教の強烈な引力を感じ取り、同時に警戒心を強める。思っていた以上に危険な匂いを気象一族全員が嗅ぎ取ったのだ。レインを慕い憧れた俗物たちを種類問わず集めきっている点が怖い。正直に恐ろしいと告白できる。そんな連中がこれだけの数いれば、“信じる力”はさぞかし絶大なパワーをサンダーに与えることだろう。契約教なんてインチキ能力伝授で俗物どもに与える小市民的な力もきっと、サンダーが“信じる力”を集め利用するためのシステム端末というのが本当のところだろうと予想もついていた。だからなおさら怖いのだ。そんな『嘘』を匂わせもせず、これほどの数を集めてみせたサンダーの底力に。いったい何が奴をそこまで動かしたのか。気象一族からの派遣使節メンバーに当然入っていたサンダーと同世代の三頂老が言葉を漏らす。

「妙だよん。この町この国この信仰。あの喧嘩っ早かったサンダーがこんな地道な活動に終始して成果を上げるだなんて。俄には信じ難い」

「確かに。だがこう考えてみたらどうじゃスモッグ。『サンダーには協力者がいた』とな。ハッハッハ」

 スモッグの謎掛けに即座に答えたミラージュの回答はスモッグ、ミストを含む選抜メンバー達に少なからず衝撃を与えた。すぐにミスト婆さんが「アイツに協力者? 殺し屋も慈善活動も個人事業と言い触らしていたサンダーがかい? それこそ唐突過ぎて信じ難いよアタシは」と反応し、周りのサンダーを知る大人達も「そうだそうだ」と頷く。

 一方で頷かない者達もいた。サンダーとの面識が無い子供達――スノウ、サイクロン、トルネードの三人とレインの同期、ウィンドとカーレントである。冷静無比なカーレントがミスト婆さんの疑惑吹っ掛けを払拭しにかかる。

「別に協力者はいなくてもいいじゃない。サンダーって基本雇われの殺し屋でしょ? つまりクライアントがいて、そいつと布教活動していたって考えればいいじゃないのさ。性格だけ見ていたら確かに協力者なんてあり得ない話だけど、仕事への姿勢を考えれば十分納得はできるなあ」

 カーレントの鋭い指摘、頷いていた奴等は目から鱗が落ちているって感じの顔をして固まる。一方自身の回答を論理補強してもらったミラージュは俄然気分が良くなったようで、話し相手を三頂老仲間からカーレントたちに変えて議論を進める。

「成る程、誰かに雇われてここまで至ったか……悪くない推理じゃなカーレント。そうなると元の雇い主が誰かも合わせて訊き出す必要がありそうじゃのう」

「だって。ウィンド〜」

「はいはい。風識感覚で神殿内部の構造は把握済みよ。神殿の中に警備の者はほとんどいないわね。その分“善い電気”と“悪い電気”で作ったトラップ仕掛けてあるんでしょうね、きっと」

「違いない。彼奴はそういう奴じゃ。ほれ、ちゃんと孤独傾向は見えておろう? 彼奴はどこまで行っても個人事業主じゃよ。ただ、目的の為なら他人とも組む。何にも変わっておらんよ、ハッハッハ」

 派遣使節のメンバーの中でプラネットスケールの実力者であるカーレントとウィンドを上手く使って、ミラージュじいさんは得意の事務作業を愉快に進める。既にこの会話の中でウィンドにさりげなく神殿の構造を調べさせ、戦略目的も明示する手腕は正しく『ご隠居』の持つ老獪さであった。気象一族一の事務プロフェッショナルであるミラージュに引率される形で、気象一族の派遣使節突入作戦もとりあえずの本拠地となる宿屋に着くまでに9割方が仕上がった。残る1割こそ作戦の機密にして要。気象一族12人は予約していた宿の一番奥、神殿がよく見える眺めのいい部屋にこもってなにやらヒソヒソ話し込むのであった。



 建国宣言から一夜明けたコンタクトの首都プロマイズの中核、神殿。

 そこには契約教の開祖にして“先達者”の称号をもつ完全なるトップ、サンダーがいた。

 彼は一人神殿の最深部、“深奥の間”にいて椅子に座りよりかかったまま瞑想を通してプロマイズの情報を詳細膨大に受信していた。もちろん彼は神様連中と気象一族の企みに気付いている。情報媒体として電気を使っているサンダーは、情報戦ではこの惑星一の実力者だからだ。

 そんな彼のいる部屋に、諜報員の声が届く。

「先達者様、先程プロマイズの町に『報告級』の警戒対象が73名現れました。内61名は町から程なく消え、残る12名が『湖畔荘』に宿を取ったようです」

 諜報員からの報告、そんなの既に分かっていることだが、あえて知らない振りをして、サンダーは詞を発して話をする。

「そうか……御苦労だったね。建国宣言から一夜、我輩は今宵瞑想に耽るつもり故警護の者を神殿の外周に配備しておくよう取り計らってくれ」

「はっ、かしこまりました。全て先達者様の仰せのままに」

 その応答とともに諜報員の気配は消え、深奥の間にいるのは再びサンダー一人となる。

 瞼を閉じ、意識を外界へ広げると、案の定いる。自分の噂をする神様連中と人間達が。

 その事実に安堵しつつ、サンダーは一人不敵に笑う。

「早く来るといい。お前達もすぐに知ることになる。あの女が捨てた力の凄まじさをな」

 息を吐く程度の音量で「フ……フフフフフフ」と笑い声を零すサンダー。

 誰も見てない領域の中、彼は一人静かに、笑い声を響かせるのであった。



 赤い太陽と白い月が地平線の向こうに沈み、代わりに星々が黒い空を光で照らし始め出す頃、気象一族の作戦が開始されようとしていた。

 湖畔荘のベランダに陣取り各々思い思いに準備運動を始めていた気象一族の選抜メンバー達はウォーミングアップを終えるとさらに乗り出し、全員がベランダの手すりの上に飛び乗り足を置き立ち上がる。ベランダ、手すりの上に大人と子供と老人が12人、横一列に並び正面に神殿を見据える。人工の湖で周囲角約300度を覆う水は、レインのいない気象一族派遣使節にとっては明確に障害でしかなかったが、それだけに中にいるサンダーを戸惑わせると確信していた。湖の水は使わず、堂々と上から空から侵入する。それが気象一族の立てた計画である。

 しばらくただただ立ち尽くし、神殿に向かうための心の準備を整えた気象一族のメンバー達、遂に行動を起こしにかかる。

「ウィンド、やれ!」

「了解しました! 『開風発破』、連打連射連発よ!」

 ウィンドが活き活きと三頂老の命令に応え開風発破と自らの技の名を叫び、手を翳して勢いよく横に振りきる。すると神殿周囲の湖面が次から次へと爆発し、水が残る神殿門前の大地や神殿そのものに飛沫となって飛び込んでくる。れっきとした『襲撃』だ。

 

「警備長、敵襲です!」「湖の霊水を穢すつもりのようです!」「爆発が止まりません!」

「犯人の姿は?」その爆破近辺、神殿外周で報告を受けた警備長は間髪容れずに狩るべき原因の在り処を問い質す。

 しかし、部下達も警備長自身も含めて視認できるのは止まらない湖での爆発だけで、下手人犯人らしき姿は何処彼処にも見当たらない。その事実に警備長は苛立つが、諜報員から受け取っていた要注意人物達の仕業であることは看破していた。そのリストは73人分と数こそ多いものの、特徴的な上、なにより全員コンタクトの国民ではない部外者である。先達者に授けてもらった“区別する力”でその気配を漠然ではあるが感じ取っていた。

 と、突然その余所者気配が自分達の警護している神殿外周を通り越して神殿内部に現れたことに警備長と警備員達は気付く。どういう手かは知らないが突破された――警備長の決断は早かった。身を翻して神殿を指差し、「総員突入! 不審者を確保せよ!」と号令を発し、警備員達はその通りに神殿の中へと駆け出したのであった。

 

「善し……侵入成功也。皆、出て来ていいぞ」

 其の詞と同時に神殿内部に現れたのは今の今まで“トンネル”に隠れていた神様達、其の“トンネル”の造り主こと学=エヴォリューションだった。神殿内部の廊下から飛び出すように現れる学と翔のツアーガイドコンビに続き、“トンネル”の中で待機していた神様連中59名が61名の刺客と成る可く、次から次へと神殿の回廊に現れる。程なくして全員が廊下へと出現し、役目を終えた“トンネル”は学の手で消えて無くなった。

 余にも簡単過ぎる侵入成功振りに、『軍師様』の愛称で呼ばれることもある爆発の神哲=ヘヴィワークがこんな詞を洩らす始末。

「某の爆発で神殿外周に注意を惹き付けておき、その隙に“トンネル”の出口を神殿内部に設定し悠々と神殿内部に侵入する。全く俗世の人間と言う者は、簡単な思考回路だから騙し易い」

「同感」と哲の発言に賛同する神様達がちらりほらりと現れる。一方で哲の詞に同調しない者達も居る。撤収の神刀=クロックを中心とした女神様団体だ。

 そう、哲の詞に同感していたのは、男神ばかりだったのである。

「そんなに甘く見ない方がいいんじゃない? 敵は“信じる力”を使ったとは云え零をも負かす相手よ。無為無策とは程遠いはず、此処で油断させといて此の先に仕掛けた罠にドボン――なんてことにならないようにしてよ?」

 冷ややかに水をさし、注意を喚起する刀の詞。其れは調子に乗っていた男神様連中の心と頭を見事に冷ます。先まで息巻いていた男神連中はすっかり刀の詞に染まって、大胆且つ慎重派へと変質したのである。此の変わり様こそ、“神がかっている”の体現だろう。

 其の変質は、自分の手柄を堂々と誇示していた哲と云えど例外では無い。彼は神様仲間達の誰よりも早く瞬時に気配察知の行動に出て、次の作戦進行に関して重要な情報を齎した。

「神殿正門から雑兵共がこっちに向かっているぞ。数は凡そ80か。どうする、迎え撃つか?」

「その必要も無いでしょうよ。私が廊下を“変異”させてあげるわ」

 哲の情報に対応したのは変異の神こと巴=フラッグシップ。サササッと進み出て廊下の壁に手を当てると、「変異突発!」と神業を起動する呪文を唱える。すると神殿内部の回廊が突然構造変異を起こし、廊下の形状が組み替えられたのである。すると神様達の感知している警備員80の内、68を足止めする事に成功したのを神様仲間達全員が感じ取った。

「流石だね。変異の神の通称は伊達じゃないか」

 数日前まで此処にいた側の零が友たる巴に素直な賛辞を贈る。得意がる巴と親友の萌を後に哲が再び口を開く。

「残る12は元々別方向から遣って来る別働隊だ。巴の“変異”で足止め出来ていない事実からして此方が精鋭なのは間違いない。此の侭だと何れ進んだ先で出くわすが……ん?」

 流れる様に話していた哲の口が止まった。其の理由は単純明快にして残る神様仲間達全員が共有して分かる事――12の存在が放つ気配が消えたのだ。「どうやらくたばったようだな」という改訂された哲の詞に皆が一度は同意する。これで障害は取除かれた。道の神である翔が纏めの文句を言放つ。

「巴のお陰で障害物オールクリアだ。零、前に出ろ。お前が先頭切って案内しろよ」

「分かっているよ。こっちだ!」

 哲と翔からバトンを渡された零が61名神様連中の一番前に踊り出て、複雑な神殿回廊を駆け出し進む。仲間の神様達が其れに続く。神様連中61名、今進む道を遮る者無く、絶好調の滑り出しを魅せていた……。

 

(『疾風舞装・透過迷彩』から『誤認存在』に迷彩移行。まじない、正常稼働中。さあみんな、もう大丈夫。ステルス化は完璧。一気にサンダーのところまで行きましょう!)

 ウィンドの十八番『開風発破』で爆発を起こした気象一族は、警備員達が混乱している1分の間に、ウィンドに続けて風による迷彩、『疾風舞装・透過迷彩』を施させ、各々が司る気象現象に因んだ羽根を展開し、透明人間の要領で意気揚々と空を飛び、湖を抜けて空から神殿の中へと侵入を成功させた。そこまではよかったのだが、バルコニーから廊下へ駆けた瞬間、同じように神殿内部に入ってきた警備員達の気配を二方向から129人分も感じ取ったのだ。しかも警備員達はサンダーから与えられた力を使ったらしく、廊下の構造を作り替えられてしまう有様。サンダーの気配は深奥の間から動いていないが、61の気配がそこに向かって動いているのを感じた。先を越されたら厄介だ――その認識で全員が一致団結した気象一族は、気象一族の技や秘術とはまた違う『まじない』のひとつ、7級から1級まであるまじないの3級に分類されるステルス化のまじない――『誤認存在』を一人一人が各々使い、自らの身体を「周囲に同化し認識されぬ存在」へと作りかえていく。程なくして気象一族の面々は、他人からは一切感知できない「存在」へと変身したのであった。声も環境音に化けてしまうので、会話も思話通信でしか手段がない。

 そうして最初のウィンドの台詞に繋がるわけである。無論誰も反対はしない。全員がウィンドの掛け声に応じる。もっともウィンドがリーダー……と言うわけでもない。指揮する者は別にいる。三頂老の一人、音頭取りのスモッグじいさんが再度号令をかけ、みんなはそれに応じる。

(よし。頃合い見計らい、いい状態へとなってるよん。老いも若きも儂等に続けい!)

(えいえい、おー)

 掛け声受けて意気揚々、気象一族の派遣使節団は組み替えられた道順を気にすることもなく、消えた身体と気配を駆使して自由に自在に回廊を走り回る。自由奔放疾風怒濤、好き勝手に人様の神殿の中を蹂躙していく気象一族使節団。目指すサンダーの気配のする場所までかなり近付いたところで、走りながらも一同の顔つきが真剣味を帯びたものに変わる。結局先を越し損ねた61の警備員達とこの先の十字路で鉢合わせる演算結果が使節団全員の脳味噌に共通認識として叩き込まれた。移動速度を考慮しても、こちらが止まってやり過ごさない限り十時ポイントでの邂逅は必須と出会い算が言っている。しかしそこは『誤認存在』のまじないで姿を隠している気象一族、構わず全速で進み続けた。悩む事などなにもない、なぜなら自分達の姿は『誤認』されるから。このまじないを看過するのはそれこそサンダーやレイン、そして神様連中でもない限り無理絶対。だからこのまま気付かれぬままそいつらの顔だけ見て先を行こうと――そう考えていた気象一族の皆さんだったのだが……。

 考えが甘かったと、自惚れていたのだと思い知らされた。

 だってまじないが解けて、相手に見られてしまったから。

 そうでなくともこの一言、「あれ? ウィンド達じゃん」

 見えているのか千里眼、泥棒の神こと扉からのこの一言。

 見知った顔からの詞に、まじないが自然に解けてしまう。

 それどころかその空気は、残る面子のまじないも解かす。

 露になった気象一族の姿。それを見やるは群れた神様達。

 なんでここにいるんだと、お互い訊きたい気まずい空気。

 でも互いにすぐ理解する。理由は多分自分達と同じだと。

 それが分かっているから、ピタリと停まって牽制しあう。

 先に行くのはこっちだと、主張と対抗心が交錯する現場。

 あまりに重い空間と時間。このままぐるぐる堂々巡りか。

 

 ――と、姿を現した気象一族使節団に神様陣営の硬直状態がず〜っと続くかと思われたのだが、そうは問屋が卸さなかった。お互い「警備員」と誤認していた両陣営は、自分達に近付いてくる気配を感じ取ったことが状況打破の切っ掛けとなった。そう、今度こそ本物の「警備員達」がこっちに向かってきていたのである。ただでさえ予想だにしなかった厄介者達に出会ってお互い迷惑しているのに、これ以上事情も知らない第三者群に現れられたら完全に足止めを食らってしまう。それだけは避けなければならないこと。

 気象一族にとっても。

 神様連中にとっても。

 だから警備員達の気配を感じ取ったことをスイッチに、両陣営は再び動き出したのだ。

 そしてその再起動戦で先手を取ったのは、神様達ではなく、気象一族の方だった。ダンディな中年の美丈夫。ヒストリークラス・ローカルスケール契約型端末のボルケーノが仲間達を先へと押し出した後背中を向け、「行け! ここはオレ様が足止めしとく!」と言い放ち、右手左手両手を廊下に着けて「噴火招来!」と叫ぶ。

 すると神様陣営やそのはるか後方警備員達の行く手を遮るかのごとく、廊下の床が溶け、溶岩が噴火した時のように飛び出してきたのだ。この噴火能力こそ、ボルケーノの真骨頂であった。マグマを呼び出し自在に吹き出し動かすことのできる、封印型端末と比べても遜色ない危険度の自然災厄を操る男、それがボルケーノなのであった。

 ボルケーノに押し出された気象一族のメンバー達はその漢気に押される形で「任せた!」と後事を託す詞をかけて、サンダーの気配がある深奥の間へと走り出す。それを見ていた神様連中に警備員達は、すぐさま後を追おうとするが、ボルケーノは呼び寄せた溶岩を使って多数の巨大人形を造り出す。ボルケーノの得意技、溶岩芸術のひとつ『溶固傀儡・第四師団』だ。生み出された多数の傀儡達は意外なほど機敏に動き、神様達及び警備員達を通さないための壁となる。この行動に先を越された神様達はかなり御立腹のようで、61名が各自武装や道具を取り出して、全面戦争の構えすら感じさせる闘気を身体に漲らせていた。だがそこもボルケーノの計算内。彼は初めから神様全員を相手に勝つつもりなど更々ない。これは足止めであり、戦略目的としては「時間稼ぎ」こそ正解正答。たとえ自分が負けようと殺されようと、気象一族使節団の目的さえ果たせればよい――ボルケーノ一流の覚悟と漢気であった。覚悟を決めた目で神様達を見据えるボルケーノ。すると眼差しを向けられた神様達が不敵にニヤリと笑う。視線の応酬が終わると両軍戦闘体勢に入り程なくして闘いが始まった。気象一族と神様陣営、サンダーへの挑戦権を賭けた戦闘の火蓋が切って落とされたのだ。



「サンダー! いるか!」

 神殿の最深部、深奥の間と回廊を隔てる扉をシャインとクラウドが破壊し、中に突入した気象一族11名。その代表としてサンダーと面識のある三頂老の一人、スモッグじいさんが姿を確認するよりも先に啖呵を切った。返事は無かった。だが「kkk……」と擦れそうな音量で笑う声が静かな深奥の間に響く。それと同時に気象一族の使節団は目的の人物を視界に捉えた。こちらに背中を向けて床に座ったまま笑っている男、サンダーの姿を。

 サンダーはひとしきり笑い終わると、気象一族の面々の方へと首を回し、横顔を見せ、横目でその姿を見やる。その目には何の感慨も興味も抱いていないことが、目の色目の形で十分に伝わってきた。それだけに気象一族のみんなは腹が立つ。自分達がここにいるのはボルケーノが身を挺して邪魔な神様達を足止めしてくれたおかげ。ボルケーノが切り開いてくれた道を進み辿り着いたという経緯くらい察しろ――なんて誰も思わない。そんな反応誰も期待しちゃいない。だが理性と感情は並び立つ別物の生命要素。こっちが伝えるまでもなくとうに全てを知ってるくせに白々しく鼻で笑われたら怒らないなんておかしい、そういう話である。元々この新国家の壊滅を目的としている気象一族使節団(に神様集団)、昔から頭が切れることで知られたサンダーならこちらの来訪理由なんてとっくに見抜いているはずなのだ。その上で笑われたのだから頭にくるというものだろう。皆、すぐにでも殴り掛かりたい衝動に駆られる。

 が、そこは気象一族。闘いにおいても鉄の規律を遵守するいい子ちゃん達。全員一緒に飛びかかるのではなく、チームに別れて小分けの出陣。なぜなら今回は年代別の波状攻撃と、突入前の井戸端会議の時引いたあみだくじで決まったからだ。なのでまずはサンダーと同世代、三頂老のジジババ三人が前に出る。ちなみにこの出撃順番もくじで決めたものだ。遊び心を忘れないのが気象一族のモットーである。

 後ろに後を未来を担う若者達を待機させ、一歩一歩間合いを詰めていく三頂老ことスモッグ、ミラージュ、ミスト。サンダーの方もそれを受けてようやく体全体を回転させ立ち上がり、重苦しそうな軽々しそうな儀式装束を靡かせて悠然と構えてこっちに振り向く。三頂老もその時点で立ち止まり、軽い緊張状態となる。と同時に訪れる短い硬直状態、その均衡を破り先に詞を口にしたのは三頂老の方だった。スモッグがいつもの口癖を止めて、えらく真剣な口調で口を開いたのだ。

「久方ぶりだな、サンダー。最後にその顔見た時からもう200年近く経ったか……時の流れとは早いものよ。お互いこうして生き存えたが未だに後継者を見つけられずに現役なのだから、重ねた月日に意味も価値もなかったようだな。お前の面の皮も、あの頃と何ら変わらない、電気は通っていても元気の無い顔のままじゃないか」

「そうだろうな。そうだろうよ。我輩は形も姿も変わってはおらんさ。外面は昔と一切変わらん、美しき時のままを保っている。だがそれは外面の話、我輩の中身まで変わってないと思ったら大間違いだ。まあ、察しているようだから良しとしよう。なら訊き返すがお前達はどうなのだ三頂老、外見からしてえらく老けたようだがな」

 スモッグじいさんの社交辞令も中々攻撃的だったが、サンダーはそれを上回る痛烈な皮肉で返してきた。言われたら確実に立腹ものの発言、しかしスモッグじいさんをはじめとして、老けた老体三頂老、そこは流石の老獪さ。顔色一つ変えることなく、飄々とした態度で受け流す。だが、ご隠居ミラージュが手に力を入れて指をコキコキと鳴らし掌底に近づけた拳の形を作るなど、戦闘準備は着々と整いつつあった。もうじき闘いが始まる――その様子を後ろのウィンドやカーレント、シャインにクラウドにスノウ、サイクロン、トルネードの子供トリオ、そして気象一族最終兵器のメテオが一様に息を飲む。

 そしてその時は訪れた。一瞬の間で立ち位置から消え去った四人は互いに間合いを侵略し、出会い頭に技を出す。三頂老はミラージュを軸にスモッグはミラージュの上に飛びミラージュの頭を起点に得意の足技踵落としの構え、そしてミストは『人間兵器』としてピンと背筋を伸ばした体勢で足首をミラージュに掴まれて『人間棍棒』になり、その石頭から爪の先まで固い鈍器として振り回され、サンダーへと振り回されていた。一方のサンダーは、右手左手両腕に電気を纏わせ放電の構え。右手には白い電“善い電気”、左手には黒い雷“悪い電気”を放出し武器扱いのミストと上から仕掛けているスモッグ、そして中心のミラージュに向けて帯電した手と同じく帯電した両目を向ける。その時サンダーは小声だが確かに呟いた。『雷電戦技・許容崩壊』と。

 その詞を聞いた直後、勝敗は決した。

「ぬお……やられた」

 脚本通りのお約束、雑魚キャラがやられる際の定型句とも言える断末魔を言い残して三頂老は床に倒れ置物となった。サンダーの技に肉体の強度と神経系をズタボロにされたのである。しばらくどころかもはや動くことさえ叶わないだろう。治療しようとしても、自分では動けないので自己修復が出来ないのである。助けるには残っているウィンド達が治療を施してやるしかない。必然的に次の相手がサンダーの前に出ることになった。

 状況の暗転を受けて非常時の指揮権を任されていたウィンドとカーレントが集団から一歩前に踏み出す。詳細不明の技で倒れた三頂老を見て少し緊張、もしくは怯えた様子の子供使節団ことスノウ、サイクロン、トルネードを庇うように前に立ち塞がる。その上で二人は子供達を奮い立たせるため、詞をかけるのだ。

「緒戦はこっちの負けね……子供達、見えたかしら?」

「み、見えなかったわウィンド姉さん。じいさん達が倒れた理由はわかるけど……いつ、それを引き起こしたかまでは……」

「わたしも、そこまでは……」「男として悔しいけど、同じく」

 スノウが回答するのに続いて、「子供達」とひとくくりにされていたサイクロンとトルネードも自分の把握している範囲を嘘偽りなく報告する。その回答を聞いたウィンドとカーレントはサンダーの謎を紐解きにかかる。

「サンダーの奴が使った技、あの技に限らずサンダーの攻撃アクションの発動タイミングは実際の所こちらが仕掛ける時とほぼ同時、所謂カウンターさね。でもね、技の規模が問題。あいつはどんな技でも戦略兵器並みの規模として使うのさ。言うならば一対一のガンマンの決闘、こっちがリボルバーのシングルアクションなのに対して相手は大砲かミサイルをぶっ放しているような感じなんだなあ。過剰すぎる戦力差が一方的な戦果の差を生むってこと。サンダーの奴の『雷電戦技』と『戦闘百科』は基本少人数相手の“戦闘”じゃなく、大量数相手の“戦争”用の技ってこと。つまりこっちも最初から戦争技を使えばあそこの三バカ頂老みたいにすぐやられはしないっさね」

「でもだったらなぜ、三バカ頂老様は……一番そのことを知っていようものですが」

 サイクロンが指摘する当然の疑問。それに対しウィンドとカーレントは呆れたような仕草を魅せて答えた。

「単なるボケよ。長年前線から離れていたから身に着けたはずの経験も知っているはずの対応策もぜーんぶ目先の相手に対する戦闘欲で塗り潰されちゃったわけ。まあ、200年ぶりに再会した元お仲間だからね、無理もないってことよ」

「うわーバカだー」

 ウィンドはサイクロンの問いに三頂老を立てる形で敗北原因を解説するが、それを横で聞いていた現実主義者の少年トルネードが無情にも辛辣な口調で痛烈な評価を下す。確かにバカと言えなくもない。弁護側に立ってみたウィンドとカーレントも諦めたように頭を掻きながら溜息をつく。やっぱりバカやった三バカ頂老の弁護はできない。無理難題どころか未解決問題ものの難問。そもそもトルネードの言う通り、庇いようがないのだからしょうがない。人生諦めも肝心である。

 そんな感じにサンダーの攻撃情報を共有した気象一族の残りメンバーは各々が戦争用規模の技の用意をする。すると奇妙なことに気付く。「レインLOVE」の残念な傑物シャインとクラウドがなにも行動を起こさないのである。というより気配すら死んでいた。そのことに気付いたウィンドとカーレントに子供トリオが二人の方を振り向くと、シャインとクラウドの背後にいたメテオが静かに首を振り、固まっていたシャインとクラウドの背中を指一本でちょんと押す。したらばシャインとクラウドは「無念……」と三バカ頂老よりも情け無い末期の詞を残して押されるままに倒れたのである。「どうやらサンダーの攻撃はこの二人にも照準が合わさっていたみたいだね」とメテオが簡潔に解説すると、ウィンドは踵を返してサンダーに向き直り、「あなた、なんてことしてくれるのよ!」と轟々に非難するが、サンダーは澄ました顔して素知らぬ様子。そのとぼけぶりがウィンドとカーレントの癇癪玉を刺激する。破裂寸前となった癇癪玉を抱えた二人はその爆発の勢いそのままにピエロ三番手となってしまいそうになったが――。

 後ろにいたメテオが二人を遮るように最前線に移動したことで、二人は急停止するとともに理性を取り戻して急速に落ち着いていく。

 ウィンドとカーレントはなにも言えず。むしろこの反応を蚊帳の外から見ていたスノウ、サイクロン、トルネードの子供三人がメテオに向かって声を投げる。

「メテオ兄さん、やる気なの……?」と。

 すると呼ばれたメテオという名の優男は、少し後ろを向いて結んだままの口で笑みを魅せるとサンダーの方に顔を戻し、「もちろんやる気さ」と前置きして続ける。

「これは説得でも戦闘でもない、戦争なんだ。なら気象一族最終兵器と呼ばれたボクさんが出るべきだろうよ。ねえ? ウィンド、カーレント?」

「道理ではあるけど……ねえ?」

「そうさねー、巻き添えが怖い」

 戦争に乗り気であるメテオの詞に対し、彼の事をよくわかっているウィンドとカーレントは彼の戦争がもたらす被害を受ける前から怖れていた。しかし既に戦闘から戦争へとカテゴリージャンプが起こってしまった事態を鑑みるに、それしかないのも事実だった。二人の女は「しょうがないかー」と嘆息した後、メテオに次を任せて後ろに下がり、子供達の方に合流する。まるでサンダーではなく、メテオから子供達を護ろうとしているかのように陣取る。スノウ達三人の子供組はそんなウィンドとカーレントの間からメテオの背中をじっと見守る。その視線を追い風に、メテオは不敵な微笑みを崩さず、サンダーに話しかけるのだ。

「初手から五人も失うとはね……気象一族も墜ちたもんだね。それとも相手にしている200年前の脱退者が強すぎるのかな? まあ、どっちに採ってもいいことだね。どっちにしろ……そう、そのお陰でボクさんはこうして闘いの舞台に立てるのだから」

「ほう……次の相手にはヒストリークラス・プラネットスケールの封印型端末である君が出てきてくれるのか1044代目のメテオよ。これは期待を上回る選択だな。どうやら今日の我輩はことごとく神の、ミコ様の加護を得ているようだ。フフフ……とっても気分がいい、そして胸が高鳴るぜ」

「神――ですって?」サンダーの戯言そして許されざる暴言にメテオの後ろにいたウィンドが過敏に反応する。レインを勝手に神様なんて崇めて、挙句の果てにこんなに信者を集めといて――ミコを、レインのことを俗世で一番よく見てきた親友だからこそ、レインがもっとも嫌うことをやっておいてしたり顔をするサンダーに過剰な敵意が湧いて出た。再び飛び出しそうになるが、メテオが出した手に阻まれてすんでのところで思いとどまる。

「メテオ、あなた……」

「まあ、ここはボクさんにやらせてよ――死ぬ前に一度くらい見ておきたいんだ。ボクさんの中にある隕石が、空を割る景色をね」

 そう言ってメテオはウィンドの前に出した手をそのまま持ち上げ、人差し指一本を上に突き出す。

 来るか隕石――味方のウィンド達に敵のサンダーもメテオが指差す天井を見上げた。そしたら――。

 なんと屋根を破ることなく屋根の内側天井直下にメテオが封じていた隕石の一部が召喚されすぐさま爆散したのである。メテオの大技の一つ、『隕石伝技・直落爆砕』であった。天井下で起こされた爆発、10メートルも離れていない距離で起こされた爆発。ウィンド達も敵のサンダーも反射神経で防御に入った。

 そしてほぼ同時に、メテオ達のいる神殿深奥の間は内側からの爆発と大量に飛び散った隕石の衝突貫通により原型を留めないほど崩れ去った。それどころが、壁を突き破った隕石はとても大気圏から放たれたとは思えない、宇宙からの落下速度に匹敵する速度そのままに神殿の壁を次々破り遂には地面をも抉って湖の霊水を異物と熱で穢すのであった。当然神殿は建っている状態を保てず、程なくして神殿全てが崩壊した。

「ぷっはぁ! みんな、生きてるわね?」

 ほとんど零秒反射で防御を行ったウィンド、彼女の風殺空獄に同じく風属性であるサイクロンの「旋風」とトルネードの「回転風射」が合わさり、即興の風属性三重合体技でもってメテオを除く5人はその身を隕石や瓦礫から守っていた。メテオはこの防護境界の中に入っていなかったが術者本人なので問題はない。自分に当たる分は自分の身体に最封してしまえるから。

 なのでメテオの心配はせず、攻撃対象であるサンダーがどう対処したかが目下の焦点関心事。粉塵舞い踊り曇る視界の中、ウィンド達気象一族のメンバーは前線のメテオ同様、消えない気配を放っている砂塵の中の一点を凝視する。煙が晴れ出したその一点から、経度のように“善い電気”を並べ、それと並行緯度のように“悪い電気”を横に回し、惑星儀の半球でも描くかのように雷電防護境界・絶界円蓋を展開するサンダーの姿が見えた。メテオの爆散させた小隕石を全て電気の持つ斥力でもって弾いていたのだろう、全くダメージを受けていない様子だ。不敵に笑うその姿にウィンド達は腹が立つが、この惨状を引き起こしておいて唯一なんの防御もしなかったメテオだけはその様子を注意深く観察していた。少しの猶予で考えていたのだ。自身に対して相性の良さそうなサンダー相手に次はどう攻めるかを。僅かな時間、迫りくるプレッシャー、しかしメテオは結論を出した。

 すぐさまメテオはもう一度手を天に翳す。そして今度は口でブツブツ、呪文を唱え出したのだ。

「我は星の蔵なる者。現世に地獄を敷く者。空を紅に染める者なり。我が身我が蔵に在りし星の欠片よ、その身を魔法で輝かせ理の敵対者を打ち砕け!」

 呪文を唱え終わると同時に、既に暗く夜の漆黒に染まっていた空が夕焼けに逆光したかのように赤く塗り潰されていく。その赤い空の中心から、屋内での展開故に小さめのサイズだったさっきの隕石とは桁違いの大きさを誇る第二の隕石が赤い空気摩擦を突き破るかのように加速し続け、ここに向かって高速で落ちてきていた。「デカっ!」とカーレント達気象一族の仲間達が叫ぶほどの代物。神殿どころか、神殿のある湖をも潰してしまいかねない巨大な隕石を使ったことに結構動揺させられる。こりゃ防御より回避を選択する他に手段はないと感じ足を落として「跳ぶ」用意をする。一方サンダーはあくまで絶界円蓋で防御の構えを崩さない――と思いきや、足を屈めて全力跳躍し、壊れた屋根も通り越して、自ら隕石に向かっていったのである。その行動を見ていたスノウが、驚きを隠さずに口を開く。

「あいつ、メテオ兄さんの隕石を空中で押し返すつもりなの? そんなこと、できるわけないのにぃ……」

「いいえスノウ、あいつが“信じる力”をその身に纏い電気を強化すればあの隕石を再度衛星軌道上に持ち上げることだってできるはずよ。ただ今のところは“信じる力”を纏ってはいないわ。雷電戦技と戦闘百科だけでなんとかできると思っているんでしょうけど、メテオの隕石伝技は質も量もケタが違うわよ!」

 幼いスノウの心配を年長者のウィンドが懸念混じりとはいえ、払拭させようと詞を紡ぐ。同時に術者であるメテオがこっちにやってきて、「そろそろ皆ボクさんのところへ」と囁く。ウィンドとカーレントは間髪容れずに同意肯定したが、そのときだった。

 ハッと見上を見上げたスノウが、サンダーの動きを察知して声を張り上げたのである。

「見て! あれ、街中から見えない力がサンダーに集まってるよぉ!」

 その詞に術者のメテオ、引率者役のウィンドにカーレント、そして残る子供仲間のサイクロンとトルネードが総員一斉に空を見上げる。そこには今にも落下接触しそうな位置で隕石の真下で宙に浮いているサンダーの姿があった。ただここにいた時と明確に違うのはスノウも言っていた通り、見えざる力がサンダー一点に集約されているということにあった。それがサンダーのばら撒いた“信じる力”だと気付いた時には手遅れだった。空中へ飛び立ったサンダーは絶界円蓋を絶界気球へと変え、その球体の中に“信じる力”のエネルギーを無尽蔵に貯め込んでいく。雷電防護境界が星のように輝く。そして奴はそのまま落下して来る隕石に向かって突撃し、衝突し、止めたのだ。それを見て一番驚いたのは、他ならぬ術者であるメテオだった。

「バカな! 雷電戦技を無効化するためにヒヒイロカネの特徴を『絶縁金属』に変えたんだぞ。“信じる力”でブーストしたとしても電気戦術は通じないはず!」

 感情余って叫び声を出してしまうメテオ。彼の選択は間違っていない。では間違っているのは何か? 答えはサンダーに対する認識。

 つまりサンダーの採った主砲手段を誤認していたというのが正しい。そのことに気付かせてくれたのはなんと、ボルケーノの足止めを突破した神様達の一団だった。姿を現すやメテオ達気象一族に「あいや待ってよ!」と見得切った女神様がこちらを向いて解説を始めた。

「メテオの戦略間違いに非ずよ。ただただ敵もさる者なわけ。まだまだな私らの仇敵サンダー、善いも悪いも一纏めに使う電気を其の身に使い、電磁相転移を起して身体を頑丈にしたってことよ! 落下中の隕石を止めたのは“信じる力”の加算された筋力、それだけね。全く厄介な奴よ奴等よ、敵のサンダーも、まだまだな私らを足止めしてみせたあなたたち気象一族もね! 然し此処からが舞台の本番、主役の神様此処に参上! さあ、華麗に優雅に決めるわよ。まずは漬物石にはでか過ぎる隕石の処理ね、焰!」

「はいよー華。私の準備は万全だよ。そんじゃ行くよ、“引装壊発”!」

 遠い天辺見えない場所からウィンドとカーレントが聴いたことあるノリの良い声が響く。

 その直後、メテオの落とそうとしてサンダーに受け止められてしまったヒヒイロカネ鉱石の隕石は木っ端微塵に砕け散った。隕石の上辺に「着地」していたあの傍迷惑な女神様、ガデニアの夜では確か瓦礫を纏ってコスモスと闘っていたという……焰とか言った女神様が、拳一つで宇宙最高級の金属ヒヒイロカネの大鉱石を無尽蔵の破片に砕いたのだ。そしてやっぱりあの日と変わらず、砕いた破片を引寄せてその身に纏って瓦礫の巨神兵と変貌したのであった。今回は「材料」に使った隕石が大きかったので、あの上空に頭部がありながら脚部は湖の底に着くという巨体ぶりである。メビウス・ラウンズの時よりも10倍以上は大きいだろう。まさに圧巻と言うべき神業だった。

 しかし敵役であるサンダーは隕石を奪い取られて巨神兵が現れてもさほど動じた様子を見せなかった。空中から壊れた神殿の壁の上に着地し、巨神兵の方を見据えて呟く。

「ふん……引装壊発か。我輩達の崇めるミコ様と花一族のコスモスに破られた業で我輩に挑むとは……後から出てきた神様だからか、少々おつむが足りなく見えるぜ」

 オブラートに包むこともせず、単刀直入に挑発的な台詞を浴びせかけるサンダーに対し、神様達は怒り心頭瞬時にぷんすか怒り顔を見せるが、すぐに元の表情に戻って次はなんだか不敵に笑う。

「神様は死なない。負けることは在るけどな。そして神様だって変われる。もう昔の神様じゃない。もう俺達はお前の知ってる俺達じゃないぜサンダーさんよ。大体此の俺士=インフィニティループ達留守番組の実力なんて知らないだろう? 何故なら今日が俺達の暴れ記念日だからなあ!」

 士=インフィニティループと名乗った男神がサンダーに向かってそう宣言すると、そうだそうだと神様達が同意の唱和。10名余りにしてはやたらと大きい声――そのときウィンドはハッと気が付き、気配の穴場に視線をずらすと――いた。

 ボロボロになったボルケーノを抱えた、神様連中の残り全員が深奥の間に駆けつけていたのだ。そしてその中の中心、メビウス・ラウンズで最後ウィンドとカーレントを気絶させた2名の少女女神を横に控えさせている女神様――後ろ髪を束ねて持ち上げ、紙袋に入れているめっちゃ特徴的なその女神様は、唱和し終わると視線をこちらに向け、やたらとフレンドリーな眼差しでアイコンタクトを送ってくると、こちら気象一族の面々の返事や許可より先に、集団率いて気象一族の元へと合流してきたのであった。

「お久しぶりねウィンドちゃん、カーレントちゃん。はじめましてね、スノウちゃん、サイクロンちゃん、トルネードくん。わたしの名前は魚=ブラックナチュラル。通称旅の神なんて呼ばれている者よ。よろしくね」

「た、旅の神! あなたが、ですか……?」

 トルネードが俄には信じられないと言った体の反応を示す。それはあの時レインに呼ばれずに留守番していた少年ならもっともの反応であり対応。魚と名乗った女神様もそれを分かっているようで、嫌な顔ひとつせず詞を受け止め返事をしてくれるのであった。

「ええ。わたしが旅の神です。とは言っても別にご利益はありません。わたしの通称が旅なのは単にわたしが旅好きだからって理由なのですよ。さて、わたしの話はここまで。単刀直入に要請するね。このサンダーとの闘い、わたしたち神様陣営と気象一族で手を組みましょう。既にメテオくんの隕石をわたしたち陣営の焰ちゃんが引装壊発で使っているでしょう? 成り行きとでも結果論とでもどう言っても善いからね、既に協力関係は構築されていると思うの。大事なことだからもう一度言うね。“信じる力”相手にいがみ合っていても負けて全滅するだけだから手を組みましょ。ね?」

 善意の塊みたいな詞の羅列のはずなのに、どこか腑に落ちないものを思い起こさせる魚の提案。その要旨は所謂共闘の提案。ボルケーノの犠牲でもって「先」を取った気象一族の面々としては正直すんなり受け入れ難いものがある。しかしその手の「拘り・意固地さ」が今の状況を決して好転させないことも十分にも十二分にも理解していた。今やサンダーは“信じる力”を身に纏いメテオの巨大隕石を腕の力だけで受け止めてしまう怪物である。勝つためには他に選択肢がないことも痛感していた。なぜなら気象一族の戦力は、既に半減していたからだ。なら申し出を受ける他ない。問いかけられた気象一族の男と女、少年少女達は皆一斉に魚に向かって頷いた。「いいでしょう。その提案、受けます」の詞と一緒に。

 それを受け止めた魚さん、両手を合わせて飛び跳ねるほど喜んでくれた。状況におよそ似合わないそのはしゃぎぶりに両隣にいる2名の少女女神達や後ろにぞろぞろ群れている残りの神様連中も「魚さん、はしゃぎすぎっス」と冷めたコメントを弾幕連打。それでも魚さんは止まらない。首のネックレスに着けているキーホルダーふたつを手に取り着脱させるとそれらを術で元に戻す。左右魚さんの両手に現れたのは羽根ペン改め羽根の部分が巨大化し刀となった武器としての羽根ペンに、逆の手手の甲外側の手首下腕部分に革紐と謎の力で盾のように接続された本だった。くるくると軽快に回転する本は魚さんのテンションに連動しているのか、魚さん自身も軽やかなステップで一歩前へとサンダーへとその間合いを詰める。そして魚さんの武装が終わるや否や他の神様達も各々の武装神器をあれやこれやと身に着け手に持ち身に纏い、魚の後に続いたのだ。

 その様子を見ていたウィンド達気象一族の残存メンバーも無言で仲間達の顔を見やりこくりと頷く。そしてメテオと魚達神様達がいる最前線にウィンド、カーレント、スノウ、サイクロン、トルネードが横一列に整列する。それは、皆でサンダーに挑むという、この上なく分かりやすい意思表示だ。

 敵であるサンダーは崩れた神殿の壁の上に立ったまま動かない。これを逃すほどウィンド達も魚さん達もアホじゃない。全員最大出力での同時攻撃に打って出た。

「サイクロン、トルネード、風属性三人、合体攻撃よ!」「了解。ウィンドお姉様」「手出ししてもいいんですね? ウィンドさん」「スノウ、わたしが水を属性回帰させて海から来た分操るからそれを媒介に凍結させなさい」「カーレント姉さん……わっかりましたぁ!」

 気象一族は風系のウィンド、サイクロン、トルネードと水系のカーレントとスノウと言った具合に二組に別れて攻撃・拘束の準備にかかる。一人残されたメテオは、神様である魚から直々の申し出を受けて、焰が纏った隕石の属性調節係を務めることになった。



 其の準備光景を魚は祝、哉と共に微笑ましく見守る。既に自分達は準備完了。気象一族の出方を見て、準備が整い次第又リードする腹積りだったのだ。勿論指揮を執るのは魚である。指揮だけなら祝や哉、絵&迷に幽と失、極に哲、刀に零でも特段問題無いのだが、今は特段気を配らねばならない状況。そんな極限状態に対応出来るのは、あらゆる面に対応しきる魚=ブラックナチュラルだけなのである。

「それじゃあ一斉攻撃で一気に落とすよ。皆は自分達のできる攻撃準備に入ってて」

「了解!」

「いくよー。フィール展開。座標目標敵T! 幻視画拘束開始!」

 魚は左腕に接続した本・フィールを開き、今自分達の居るプロマイズの町の風景を立体映像のような幻視画にして見開いたページの上に表示する。そして其処に映っていたサンダーの幻視画に、右手に持っていた羽根剣及び羽根ペンのアールで小突いたりさらっと秘文字を書き出した。其れは“幻因結実”と呼ばれる魚の得意業。フィールに映した対象の幻にちょっかいをかけるとそのちょっかいは現実の対象にも効果を及ぼす。正に勝手し放題、神様の持つ特権を象徴する様な業なのである。この幻因結実で魚がちょっかいをかけているのは当然敵であるサンダーだ。幻視画越しに魚は、サンダーの動きを封じ込めにかかっていたのだ。そして其の効果は早くも現実に現れていた。

「ムッ? くっ……身体が、どうしたのだ、我輩の身体が、思い通りにならぬ、だと……」

「カーレントちゃん! スノウちゃん!」

「了解よ、女神様!」「行きますよっ!」

 魚に促されて、気象一族のカーレントとスノウが夫々片手両手を幻因結実で動けなくなっているサンダーに向けて翳し、術を発動させた。狙いはサンダーの身体の中を流れる血液を始めとした体液全て。属性回帰でサンダーの体液から『海水』の頃を呼び覚まし、カーレントとスノウの能力対象とする。先ずカーレントが海流操作の能力でサンダーの体液を超高速循環させ、剰え血液と他の体液をごちゃ混ぜにする暴挙ぶり。当然サンダー、苦しみ出す。腕振り腰振り悶え出す。

 其処にスノウが凍結能力をサンダーの体液全てを対象に行使。サンダーも一応は人間、身体の6割〜7割が水分だ。其れを一挙に凍らされて、敵たるサンダー、悶え途中の姿で止まり、冷たい氷像擬きに成って固まってしまった。其れこそ魚が望んだ状況――神様達気象一族が全力の攻撃を無防備なサンダーに打つけられる、願ってもない、願った瞬間。

 時は来たりよ。ものども、かかれーっ!――魚の印象に似合わない大声飛び声叫び声が神殿湖プロマイズに響き渡ると、残っていた神様達と気象一族で攻撃準備をしていたウィンド達が一斉に「おおおおおっ!」と掛け声を上げ、思い思いの攻撃を我が先よと繰り出し始める。尤も、衝動的な攻撃群にも秩序は在った。先ずは最速一番手、近接攻撃をメインとする神様達が動けぬサンダーの零距離に群がり包囲し埋め尽くし、徹底的に打ちのめし始めた。順番に己が神業を披露する形で。

 失の“機能双失”。

 幽の“幽具”攻撃。

 完の“無神拳”。

 極の“暗殺術”。

 葵の“神母格闘術”。

 巡の“非対称棒術”。

 禊の“戦闘包丁”。

 湊の“短槍神技”。

 萌の“服飾演武”。

 颯の“修身体技”。

 帳の“刀髪の舞”。

 語の“言霊兵士”。

 “円盤”使いの天。

 “神器”使いの宝。

 “空中殺法”の羅。

 “海賊戦法”の礎。

 “最終兵器”使いの華。

 “神海星剣”を使う剣。

 近接戦闘に長けた神様仲間達が夫々の得意業――俗に神業と迄呼ばれる程昇華させた絶対の個性をサンダーに喰らわせ、打つけ、叩きつける。

 其の近接戦闘の披露中、気象一族と共に床に足を着け視界の上辺に今正に闘っている仲間達の姿を捉えていた神様達が、各々の神業を使って補助なり中遠距離攻撃で波状攻撃の第二波と成る可く、術を起動させる。先ずは補助・特殊系の神業で下準備。

 翠が“カード”でサンダーを拘束し。

 暁が“動力配分”で仲間達の力を調節。

 刀の“底上げ発見秘めたる力”で仲間達の力を高め。

 要の“条件操作”で環境を攻撃に最も適した状態にし。

 学が“トンネル”で一部の射撃を空間跳躍系にしたり。

 直が“射撃矯正術”でこれから撃つ仲間達の弾道を調整。

 雅の“体型類型集”がサンダーの身体をガチガチに固め。

 扉が“神眼・千里眼”で付入る隙を探っては見つけ出す。

 其の身体を巴の“変異突発”で突然変異させ。

 味方の身体には透の“透き通る捺印”を施し。

 更に進の“素質覚醒”でポテンシャルを上げ。

 治も“超越機関”でもって皆の出力を上げる。

 その上彰の“個性伸長”で皆の個性を強化し。

 羽の“標識”で敵味方の行動を規制かつ助長。

 敵のサンダーには翔の“過負荷重ね”も追加。

 仕舞いには整もあの“狂活字獄”を発動させ。

 老神始も“作戦資料”で攻撃作戦を調整する。

 以上攻撃よりも補助や仲間の強化を得意とする神様達が近距離攻撃を援護しつつ、サンダーへの締付けを一層強化し、且つ此れから出番を迎える中遠距離攻撃を担う神様仲間達の戦力増強を着々と進めていた。

 そして遂に其の「時」が来た。近接戦闘中だった神様達が一斉に飛散しサンダーから離れる。固められているだけに血の一滴も流さずに不動の構えのサンダーだが、魚の本・フィールが映し出す幻視画にはちゃんとダメージ蓄積の情報がUPされていた。これを好機と捉えた魚さん、接近戦を挑んでいた仲間達には「撤退」の合図を。補助に回っていた仲間達には「集中」の合図を。そして最後中遠距離、アウトレンジ攻撃を担う神様達には「実行」の合図を送る。神様限定の通神術ではない。気象一族にも通じる思話通信でだ。

 其の合図を受けて、先ずは残る神様連中が一斉にサンダー目掛けて射撃砲撃中遠距離攻撃を始めた。

 愛がロケットチョークを“八卦の式”で投げつけ。

 茂は“水晶球破”で生成した水晶球を投げ飛ばし。

 環がボールを“蹴るも投げるも運次第”で連打し。

 巧は構えた弓矢を“弓道砲”の威力で撃ち抜いた。

 㬢は“万物使い”宜敷く、万物を操って攻撃させ。

 牙が“受け継がれし旋律”で音楽攻撃を奏で放つ。

 遥も又“指鉄砲”、“指射撃”でサンダーを撃ち。

 情報の神である紫は“大気拳”を相手に押し込む。

 贅沢な守は杖“律破”を“御日式流杖術”で打ち。

 整の自称弟分士は“鉄式布術”で大砲を作り撃つ。

 哲は得意分野の“空爆”でサンダー付近を爆破し。

 務が“機蟲重来”で機製蟲の大群を敵に向かわせ。

 落も又“式神艦隊”を発動させ己の式神達を派遣。

 戦は“声無き声”で無意識への干渉を請け負って。

 サンダーと同業の雷が“雷価暴騰”で電気を操作。

 身体が電磁波の球は“波浪放送”で波動を荒らす。 

 その上祭の“祭典大音声”で強化された“指鳴子”を希が鳴らし。

 挙句熱の“業火炎装”で燃盛っている“引装壊発・巨神兵”で焰が燃える豪腕を落す。

 そしてサンダーに利用された零が“現想発声”でサンダー周囲の空間を「弾丸・爆弾」に成り得る物質を創造する事で埋め尽くし、発射せんとす。既に近距離攻撃を行っていた神様仲間達は撤退済みだが、其れより危険な状況にサンダーを追い込んだのだ。

 其れから其処に極め付け。残る祝と哉の「魚の弟子コンビ」に迷と絵、そして魚の「神業らしいものしかないトリオ」が其の身から極限の業を繰り出す。

 祝が両手から金属爪をサンダーに発射し、十指最高最強の“どの道選べず指示の数”で連絡系統を総攻撃し、次いで哉が取って置きの箱ならぬ“匣”を6個祝と同じようにサンダーに向かって飛ばし、取り囲む様に配置すると、間髪容れず全てを中央サンダーの位置で重ねる様操り、匣を一体化させる。付加していた特殊効果による空間歪曲でサンダーを空間毎圧迫させるのが狙いだ。

 二名の女神の個性性格が色濃く彩る二つの神業。其れに続き、迷、絵、そして魚も動く。

 三名の女神の、型に嵌らない、説明し難い攻性の業。通称。

 迷の“詳細不明”。

 絵の“一切不明”。

 そして魚が刀と成った羽根ペン“R”で繰り出す斬撃一閃、“名称不明”。

 是等三つの技が先の二つの神業に見事に合わさり、サンダーを傷付ける。

 そして、其の感触を確かめた魚が待機していた気象一族風属性の三人に最後の「声」を贈る。振向き目で確認する迄も無く、風属性の三人は準備万端。目には目を。声には声をの論理で「声」で以て返して来てくれた。

「了解です魚さん。気象一族風属性の切札、浄破風線、発射ぁ!」

「うおりゃーあっ!」

 ウィンド、サイクロン、トルネードの声が重なり、巨大な叫びと成って技を繰り出すトリガーとなる。浄破風線――然う呼ばれた光線成らぬ風の線は其れ迄の攻撃全てを不過視に隠して照準サンダーへと到達。然し其処も通過点と云わんばかりに其の勢いの侭上空宇宙へと光にも負けない速度で伸びて行った。渦中のサンダーは身体を風の摩擦で焼き消され、不過視どころか物理的に消えた。素粒子レベルでの完全なる消滅。其の為に神様達とカーレント&スノウの気象一族水属性が一致団結して何重にもサンダーを拘束制限、抵抗も押さえ付けていたのであるから、此れくらいの結果は要求の範囲内である。魚の頭の中にはサンダーが耐え切る可能性も49分の1くらいの割合で残っていたが、浄破風線を見て、その不安も消し飛んだ。要求通り……いいや要求以上の仕事をした神様仲間達に気象一族の御友達達、其の仕事ぶりが魚から不安を取除き、代わりに小さな安堵を齎してくれた。敵の気配――サンダーの気配は完全に消えている。此れ即ち勝利の証拠。魚同様に気配の消滅を感じていた神様仲間達と気象一族の面々は一斉に勝鬨と雄叫びを上げる。神様達は零の不手際の後始末ができたことに喜び、気象一族の皆はミコを信仰対象とする巫山戯た宗教を解体する第一歩が教祖サンダーの抹殺で以て踏み出せた事に安堵する。お互いの作戦目標が達成された――魚でさえ然う思っていた。其の筈だった……。

 が、次の瞬間!

 魚の脳裏に只ならぬ直感悪寒が走ると同時に、左腕接続で浮かせてあったフィールの幻視画に、未知なる人影が現れたのだ。其れも、サンダーを攻撃していた位置に。

 フィールが映し出した人影の構成素材は未知の素材らしく悠久の時を経て情報を収録していたフィールの索引にも引っ掛からない新情報。魚の直感が直ぐに告げた。「これはマズい」と――魚はすぐに動いた。

「全員防護境界張って防御に専念しなさい!」と声を荒げて叫び呼びかけると共に、自らは愛弟子の祝と哉を術で引寄せて手元に置くと、“R”で“feel”にコマンドを入力し、自分達3体の周りを特殊加工した防護境界を五重に張って事に備えた。“五重の層”と呼ばれる得意技かつ魚が出来る限りの最大級の防御技で以て防御に専念する魚を見て、只ならぬ事が在るとだけ他の神様達や気象一族の者達も頭より先に身体で理解した様子で、各々防護境界を張ったりしようとした矢先だった。

 サンダーの居た場所――皆で攻撃していた場所から光が溢れ出し、全方位に光が届き満ちる。そして其の光が触れた途端、防護境界は破砕され、且つ防御の構えを取っていた魚達全員の身体が中から、焼け焦げたのだ。

「ぐうっ!」

 唇を閉じ歯を噛み締めて、其れでも悲鳴は出てしまった。神経系と血管系と循環器系と……詰る所身体の全てで感じた何かが走って攻撃された感覚。全身が痙攣し悲鳴を上げて機能停止に追い込まれ、身動きが取れなくなる。一人一体、又一体と仲間達が倒れて行く。

 そんな中にあって魚は咄嗟に“feel”を開き、中に映る自分と祝、哉の幻視画に“R”で細工する事で環境其の物をパラメータ変化させて光の攻撃を減衰し、かろうじて身体の自由と直立姿勢を維持していた。然しダメージは酷いもので、節々に痛みがビリビリ走る。これほどの痛み、神様になる前ですら感じたことはないだろうと、走馬灯の様に一瞬神生を思い返す。

 でも直ぐに魚は現実に帰る。周囲を見回してみると其処に在るのは死屍累々。防御が間に合わず立つ事叶わず回復も遅々として進まず倒れている神様仲間達と気象一族の面々だった。立っているのは自分だけ。信じ難い事だが、迷と絵迄も倒れていた。そして魚が最優先で助けようとした祝と哉は、倒れてこそいなかったが腰を下して地面に座り込んでいた。おそらくは其れが精一杯なのだろう。

「ぐ……うっ!」

 魚も又再度何度と倒れそうになる身体を“R”を地面に突き刺す事で漸く支え、取り敢えず設計図による足の回復に努めた。其の時後ろから愛弟子達の「師匠……」と云う半泣き声が届く。正直後ろを振向いていられない魚は苦肉の詞だけ吐き出す様に話す。

「哉ちゃんも祝ちゃんも……痛いよね? わたしも同じ。今がとってもキツくてしょうがない。手も“feel”も使えないから、自分達の持っている設計図の回復作用でなんとか保たせて。わたしは……あの“正体不明”くんの相手をしてあげ……ないと、ね……」

 振向かず前から目を逸らさず然う言った魚の眼が毅然と捉えていたのは――。

 

 サンダー? いや違う。身体がスリムに然も若々しくなっている等の差異が有る、端的に云うと「サンダーを素体とした別物」、であった。



「“正体不明”?」――魚の発言を受けた哉と祝が魚の背中で然う呟くと、魚は「ええ」と肯定し、回復させた右手でサンダーだった筈の男を指差し、再度指摘する。

「この男はサンダーじゃないわ。なにせ使っている電気が“善い電気”でも“悪い電気”でもないからね」

 其の通りだった。件の男が使役し纏っていた電気は光や風の様に透明で、視線を偏向させる事とバチバチという電気音でしか存在を勘付かせぬ今迄に無い電気だった。

 すると魚の追及を受けた男は「フッ、ヘヘヘ……」と笑い、驚愕の自己紹介をしたのであった。

「その通り。オレの名は『狂気』エレクトロ。サンダーと“両電気”から生まれその全てを乗っ取った人間深層意識と自然意思の混血児さ。使う電気も善いとか悪いとかじゃない。これまで存在しなかった電気――“新しい電気”こと“シーミィ”がオレの相棒だ」

「“新しい電気”?」「“シーミィ”ですって?」

 祝と哉がエレクトロの発言に鋭く反応を見せると、エレクトロは「おう」と肯定する。

「オレが生まれたのはこの身体の持ち主――親であるサンダーがお前達の仲間である零=ファクタからミコを嵌める依頼を受けたときだ。相手は神様の問題を解いた女。更に幻の身体能力を会得した俗世最強の怪物だ。そいつに絡むと親が決めた時、親の心の奥底にあった『ミコと勝負したい』って無意識の狂気と“善い電気”“悪い電気”の電気意思が反応して生まれたのが親達の『狂気』であるオレなのよ。そしてオレに付随する形でオレ専用の電気である“シーミィ”も同時に誕生した。ただな、オレ達は自分達が生まれたてのガキだってことも十二分に理解していたからすぐに乗っ取ることはしなかったのよ。親と零の布教活動の間気付かれねえように潜伏し“シーミィ”を使いこなすための時間と身体を完璧に乗っ取るための準備に充てた。そしてこの新国家コンタクトの建国宣言前に準備は整った。親の意識も心も“シーミィ”で殺し、『サンダー』に成り済ましたオレは零を追い出して“信じる力”を独占することに成功した。後はオレの生まれた理由であるミコを誘い込み倒せばそれでいい。お前らはいい練習台だったぞ。おかげで“信じる力”と“シーミィ”の使用熟練度が大幅に上がったからな。こんな感じに、なっ!」

 喋り終わると同時にエレクトロは腕を振り払って透明な電気――“新しい電気”こと“シーミィ”を魚、哉、祝の三女神目掛けて投げ飛ばす。敵の攻撃を受けた魚は“feel”を閉じて両手で“R”を持ち上げ天に掲げる。すると天から翠とも蒼とも見れる光の粒が魚の翳した“R”に集まり収束していく。羽根の羽毛に触れた光は其の侭刀状態の“R”を更に強化成長させ、巨大な輝く刀と成る。魚は其れを一閃、“feel”で一度読み取った事で感じ取れるようになった“シーミィ”を相殺すべく、横薙ぎの斬撃を放つ。打つかる電気と光、魚の考えでは両方本質は電磁波なので重なっている間干渉し合って、多少なりとも影響を与えエレクトロが狙う攻撃としての機能を失う筈だった……が。

 予想は儚く脆くも崩れ、“シーミィ”は光の刀と成った“R”を知らぬが如くと擦り抜けて、魚に直撃したのである。予想が外れた時の為に身体に防御用の境界膜も張っていた魚だったが、“シーミィ”は其れすらも簡単に打ち破る。直撃を受けた魚は、エレクトロが“シーミィ”に“信じる力”を配合し擦り抜け効果を付与していた事を理解するが時既に遅し、愛用神器である“R”こそ握ったまま放さなかったが、遂に立っていられなくなった魚は、祝と哉の面前で膝を崩し、横向きに倒れてしまった。

「師匠!」魚の防護境界に護られ、且つ自分達の設計図効果で漸く回復を終えた哉と祝が立ち上がって駆け寄ろうとするが、そんな二人を見ていたエレクトロが手をサッと上げたのを倒れながらも意識はまだあった魚が目撃し、口を開いて警告する。

「ふたりとも! 後ろに気をつけて――」然う魚が言い終るより、鳴り響いた二発の銃声の方が早かった。其れ即ち、愛弟子である祝と哉が銃撃を受けた残酷な現実。祝と哉はその後方に駆付けていた警備員達に銃を構えられ狙われ発砲され、命中させられて倒れたのである。瓦礫の床を鈍く鳴らして、哉と祝は魚同様戦闘力を失い、俯せに倒れたのだ。

「し、師匠……」

「哉ちゃん! 祝ちゃん!」

 自分を呼ぶ掻き消えそうな、泣きそうな、とても弱々しい声に魚は何とか寝返りを打ってエレクトロに背を向けてでも倒れている祝と哉の方へじりじり遅々と匍匐前進で向かおうとしていた。然し其れよりも早く警備長と多数の警備員達が各自神様仲間達や気象一族のメンバー達の元へ駆け寄り、腹を足をそして背を踏付けて、動きを止めてくるのであった。魚、哉、祝も例外では無く、背中を踏付けられて動きを止められた。先の銃撃といい、“信じる力”による出力増長がエレクトロに因って為されているのだろう。

「きゃっ!」「ふにゅ!」「痛っ! 離せっ、コノ野郎。たかが人間のくせに!」

 踏付けられた事に対し魚と祝は悲鳴を上げただけだったが、哉は踏付けた警備員に対して暴言紛いの文句を吐く。其れでも結果は変わらない。三名とも動けないままだったし、警備員達は余裕の表情を崩さない。魚の目に映った哉に文句を言われた警備員に至ってはこんな詞を云う始末。

「ハッ、神様も大したことねえなあ。お前らの言う人間風情が集まって祈って形成した“信じる力”の前にこうも簡単に屈しやがる。全く、ミコ様々だぜ。神様なんかよりよっぽどご利益があるじゃねえの。ほらほら、悔しかったら反撃してみな!」

「あっ!」「哉ちゃん!」

 図に乗った詞を放って何度も哉を足蹴にする警備員。当然魚と祝は助けようとする――したかったのだが自分達も踏まれていたので動けず哉が痛めつけられている様を暫く見せられる事になった。事の終わりは10秒程経った後、エレクトロが「もういい。さっさと殺せ」等と先達者として指令を出して警備員もいたぶる事を止めた。そして指令通りに魚達を踏付けていた警備員達と他の神様気象一族を抑えていた警備長以下の警備隊員全員が銃を構えて下に向ける。銃口からバレルを通して銃弾に“信じる力”のエネルギィが収束していくのが魚には見えた。此れでは『設計図』の不老不死機能も突破される可能性が高い。一回でも突破されれば其の先に在るのは『死』。神様と雖も例外では無い。抵抗しようにも既に“信じる力”の加重で身体を押さえ付けられている現状。もうダメかも――観念諦めそして覚悟と様々な感情が堂々巡りした死の目前――。

 

『声』が聞こえたのだ。聞き間違えようの無い、懐かしいあの声が。

 

「一体全体何を楽しんでいるの、無象ども。よもやこのまま流れに逆らい救いようのない失敗に身を落とすのが、あなたたちの本望かしら?」

 

 其処まで聞こえた後一発の銃声が響いた。だが其れは警備隊が地面の神様達に対して放った物では無い。逆だ。地面地中から空へ向かって飛び出して来た非殺傷性のボール程もある巨大な銃弾が哉を痛めつけていたあの生意気な警備員の顔面に直撃し爆発、警備員を即転落且つ気絶させたのだ。其の一発を皮切りに、地中から続けて重ねて連続して同じ大きさの銃弾が矢継早に飛び出して来た。混乱する警備員たちを尻目に、『声』は続きを語る。

 

「大体、何故あなたたちはここにいるの? 闘いも力も願いも夢も、あなたたちには全て分不相応でしかなく、すべからく慎ましく生きることだけしか権利を持たぬはずのあなたたちが、どうして国などという愚物に集まる? 縋る? 群がっているのかしら?」

 

「うっ、うわあああああっ!」「たっ、助けてくれぇ!」

 正確無比に警備員達を襲う巨大な銃弾。一回は避けられてもまるで其の逃げ道回避行動を読んでいるかの如く次の弾で仕留められていく警備員達。防御も回避も出来ない、今が正に地獄絵図の彼等は誰でもなく、ただ「助けて」と叫ぶ事と駄目だと分っていても逃げる事しか出来ずにいた。

 其れは同時に押え付けられていた神様達と気象一族が自由になる事を意味する。拘束されていた時間が幸いし、神様達は起動出来ずに充填しているだけだった『設計図』の回復機能を此処で一気に発動させ、身体を急速に治し始める。気象一族の面々も此の機を逃さず、回復能力を使用していた。程なくして一人、又一人と“シーミィ”と“信じる力”に一度敗れ去りし神様達人間達は、足を踏みしめ再び立ち上がっていく。警備員達の妨害は無く、其の原因である地中からの巨大銃弾が妨害してくる事も無かった。雨霰と打上げられる此の銃弾、そしてあの『声』は味方なんだと再認識する。何故か銃弾はエレクトロの方には撃たれていなかったが、其れは「ボスは最後に残しておく」的な戦闘美学の一種だろうと、魚達は認識した。

 其の合間にも警備員達を襲い続ける銃弾。そして『声』は更なる文句を口ずさむ。

 

「門出の日。万物皆全て故郷へと還り、新たなる身体慎ましき心得を得て再び家へと帰らんと走る。そこに悲しみはなく、憐れみもない。ただあるのは希望と絶望が彩る新たに開けし未来のみ。未知なる展望抱くは大望。皆遥か彼方の栄光を手にせんと海に出てはことごとく迷子となる。しかし、そこにはひとつの道標。木より巣立ちし我が身と心が、満天の中残すか消すかを選び取る。その選択を無下に改竄せんとするならば――」

 

 其処迄喋っておいて『声』は途切れた。ひと呼吸おいた――魚は直感で感じ取り同時に地の底に確固たる心の気配も感じ取る。再び立ち上がった神様達と気象一族の一部は地面に気を配り、待望む。そして遂に『彼女』が――『声』の持ち主が現れた。今迄の巨大銃弾より更に大きい、鉄球級の砲弾で瓦礫も地面も吹飛ばし、最後の口上とともに現れる。

 

「見逃すわけにはいかない。覚悟しなさい、あなたたち。その愚かさ極まりし心根をひとつ残らず滅し尽くすまで、安息の吐息さえ一息たりともつけぬものと知りなさい!」

 その締詞を以てして、声の持ち主は現れた。

 

 そう、ミコ=R=フローレセンスが現れたのだ。



 影帽子のがま口チャックを開き、中から黒い腕一本とそれに握らせた無反動砲一本を出した形で、ミコは地中から姿を見せた。漆黒の影帽子に桜色の髪、土の中に居たとは思えない、白く穢れのない上着の長袖を風に靡かせ長ズボンで包んだ足で大地を固く踏みしめている。魚達神様達やウィンドを初めとした気象一族の面々にとって、もう見慣れた(寧ろ見飽きた)も同然の姿であるが、一つだけ決定的に、今迄と違う容姿面の特徴があった。

 

 ミコが、怒った顔をしていたのである――。

 

 何時も柔く笑っている筈のミコが、敵と戦う時でも余裕綽々の態度を崩さないミコが、凡そ其のキャラに似付かわしく無いイライラを隠さず現状に不満げで敵意バリバリの、まるで別人別キャラ別の物語の登場人物のような顔で、普段と真逆180°反対方向を行く顔で頗る面白く無さそうに周囲を見回していたのである。其の誰彼構わず無差別に向けられる敵意と闘気に、ミコの事を「味方」だと思っていた筈の神様達は皆一律一様にゾッと身震いして固まってしまう。魚でさえ例外では無い。背中の首元から氷を入れられブルッときた時の様に凍り付き微動だにしない状態となる。そんな彫像と化した魚を含む神様連中の内6名の背後に気象一族の(何とか)立ち上がったメンバー――ウィンド、カーレント、スノウ、サイクロン、トルネード、そしてメテオの六人が回り込み、「しっかりしてください。すぐに逃げるんです!」と声を掛け、且つ魚達の身体を荒く揺すって力ずくで解してきたのである。御陰で身体の緊張は解れた魚だったが、今度は頭の方がこんがらがって凝り固まってしまう。

(逃げる? どゆこと?)

 気象一族の言っている事がまるで分らず頭がプチパニック状態となる魚だったが、神様でも悩む暇は与えてもらえないらしい。魚の身体をウィンドが横にガクンガクンと揺すり出したのだ。魚達神様達の疑問に対する答と一緒に。

「マズいんです。今のレインちゃんめちゃくちゃ怒ってるんですよ。虫の居所が悪すぎって奴です。今はまだ黒い手を使っているから間に合いますけど多分あと数秒で自分自身の手持ちに切り替えて幻の身体能力を――って、ひゃあっ!」

 ウィンドが其処迄魚に話掛けた所で、説明は終った。何故か――ミコが顔を見せ合い話合っていた魚とウィンドの隙間に威嚇射撃の銃弾を撃ち通してみせたからだ。半ばキスさえ出来る距離、其処迄接近していた魚とウィンドの顔の間を銃弾が掠める――神様人様俺様問わず、ビビってビクッて当たり前である。ゾッと寒気に襲われた魚とミコの事をまだ知っていた分反射的に顔を下げられたウィンドは恐る恐る銃弾が来た方向に振向くと、其処には自身の左手にリボルバー式の特注拳銃を握り、振向き様に冷たい視線を向けていたミコが居たのでした(敬語)。

 ニコリともせず冷笑する事も無くこっちを見ている鋭い眼光がとても怖い。口上以来一切喋らなくなった無口さも相まって、まるで暗黒戦士か死神の様だ。

「み、ミコ……ちゃん」「レインちゃん。あは、あははは……」

 魚とウィンドは共に引き攣った表情の一部、ブルブル震えた唇から辛うじてと云った具合に社交辞令を口にするが、ミコの目付きは険しいままで変わらない。神様気象一族全員、「ダメだ〜」と腰砕けになり瓦礫の上にへたり込みそうになったのだが。

 

「おい! オレを無視するな! こっち向け、バカども!」

 

 ミコの登場以来すっかり皆の認識外となっていたエレクトロが怒鳴り散らしたのである。其れを受けてミコは後方魚達神様達とウィンドを初めとする気象一族の面々に向けていた鋭い視線を漸く逸らして敵の筈であるエレクトロに目を向けてくれた。

(そうそう。この構図で間違っていないはずなのよ)

 詞に出すとどんなとばっちりが来るか分らない為、魚は胸中思うだけにしとく。その後改めて対峙したミコとエレクトロの二人を視界に捉える。

 

 ミコと闘う・勝負する為に生まれたと云っていた、『狂気』エレクトロ。

 信じる事も信じられる事も嫌う俗世最強の女、ミコ=R=フローレセンス。

 

 その二人がこうしてエレクトロの希望通り敵対関係で以て対峙しているのを鑑みると、事態はエレクトロの思う侭になっていると云う懸念が湧いてくる。魚がそんなことを考えていると、実に嫌な事だがエレクトロも同じような台詞を口にしだした。

「フッ……フフフフ、アハハハハ! なにもかもオレの望み通りだな。お前を誘い出す為に国なんて面倒な物を作ったが、建国宣言から一日経っただけでこうして目的が達せられるとは! 我慢するのも善い物だ! さあ俗世最強を誇る怪物ミコ=R=フローレセンス、信じられるのが嫌ならばオレと生命を賭して闘え……グアッ!」

 エレクトロが其れ以上発言する事は無かった。喋っている途中でミコの銃撃を受けたからである。ミコの方に注目すると、ミコは拳銃を持った左手を腕ごとエレクトロに向けていた。何時の間に――周囲皆に然う思わせる程の凄技だった。だがミコの動作はそれだけでは終らなかった。最初に使っていた無反動砲を保持していた、影帽子から伸びた黒い手が其の無反動砲を影帽子のがま口の中に仕舞ったと思ったら、中から別に刀、背心刀と云っていたヒヒイロカネで出来た刀を鞘ごと取出し、そして鞘ごと地面に差し立てたのだ。

 そして役目を終えた黒い腕はなんとこっちにバイバイと手を振ってから影帽子のがま口の中へと戻っていった。正直、腕一本の癖にユーモラス過ぎであると魚は感じた。どんなキャラ付けしたのか気になりはしたがすぐに其の気も失せるのだ。こんな感覚は永い神様神生でも初めてなのである。

 然し、そんな浮気心は消えて正解だったと直ぐに気付かされた。一方的に先制攻撃したミコが、其の行動に負けず劣らず吃驚するような台詞を口にしたのである。

 

「どうにも新人さん電気さんは勘違いしているようね。わたしはね、俗世最強なんじゃなく、最強の俗物ってだけよ。誤った認識のまま死ぬのはかわいそうだし、せいぜい正しい認識を抱いて逝きなさいな。誤った幻想を抱いて死ぬよりよっぽど気持ちいいんだから。あなたも、あなたが作った国も、全部壊す。殺す。熟す。かつての冬夏戦国時代、『国殺しのプロ』と呼ばれたこのわたし、ミコ=R=フローレセンスがね。光栄には思わなくて結構。せいぜい悔しく恨めしく思って死ぬことね」

 

 言い終ると同時にミコから発せられる、圧倒的且つ純粋過ぎる殺気と闘気。

 其れを感じ取った魚達第三の勢力は、此れ迄に無い寒気怖気に震え上がる。

 そして、神様達もコンタクトの国民達もエレクトロも皆、思い知らされる。

 彼女=ミコが隠し封じ秘めたりし秘密。その本当の実力というものを――。

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