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 土曜日は当たり前のように。ソウはパチンコ屋に行くようになった。土曜日の調子が良いと、日曜日にも行ったりした。土曜日は閉店時間まで打っている日が多いけれど、日曜日は夕飯までに帰ってきた。パチンコをしてきた日は外で食べてきて欲しい。ただの家政婦になったような虚しさがあった。


 十月は月末が金曜日だった。リアを保育園に送ってからATMに行った。記帳をしてソウの会社から給料が振り込まれているのを確認した。生活費の一部と来月のソウの小遣いの分を引き出した。土曜日の午前中はリアと公園に出かけた。遊具で遊ぶリアを見守りながら、入園するまでは度々ソウがリアを公園に連れて行っていた事を思い出した。私が月に二、三回寝込むようになってから、少し世界が変わった。本当はもっと前から少しずつ少しずつ変わってきていたのかもしれない。もうすぐ正午だった。パチンコをしているソウに連絡をしようと思って止めた。リアと歩いて帰って一緒にパンケーキを作った。ソウからも連絡はなかった。私は――幸せだよ。小さなエプロンをして粉を頬や鼻に付けながらボウルの中身を混ぜるリアは本当に可愛いかった。どこにも消えていかないもやもやしたものはインスタグラムにぶつけていた。鎌倉や藤沢や茅ヶ崎のユーザーとも数人知り合った。湘南のハッシュタグを付けて海の写真を投稿していたからだ。私は――誰が何と言おうと、ソウを見捨てないだろう。見捨てない、という言い方は上から目線かもしれない。私が捨てられる事もあるかもしれない。ソウがいなければ。何を引き換えにしてでも守りたい存在のリアと、海や公園に行ったり、絵本を読んだり、一緒に絵を描いたり、一緒に料理をしている私はいなかった。出会いがパチンコ屋とか、終わっている要素があったのに私は、ソウとの生活を、授かった命を、愛した。

「今度、葉山に会いに行きますね!」

 鎌倉の猫好き海好きバイク好きのユーザーからコメントが来た。

「人妻をからかわないでくださいよー」

 インスタグラムも潮時かもしれない。私の居場所? やっぱり家族しかない。リアとソウに幸せでいて欲しい。何でもないドライブが、本当に好きだよ。何でパチンコに行くんだよ。何も変えられない。こんな私は馬鹿だろうか。一生懸命のつもりだけれど、きちんとリアのためになっているだろうか。「パチンコはやりたくないからやらないんだろう。煙草は吸いたくないから吸わないんだろう」そんな風に思われたら、つらい。私は必死でやめた。その気持ちは、どうしてもやめられない人には届かない。

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