第43話 幕間

つぐは俺の手を振り払わず、静かに座る。

ゆっくりと膝立ちで俺のほうににじり寄って、俺の頭を抱きしめる。訳もない行動で、前々から思ってたが、こいつは胸が小さい。あいにくエロティックな気分にはなれない。でも、だからこそ女ではなく、少女どころかもはや、少年のようだ。

「ずるいよ…。拓真。」

小さな小さな声。つぐは言ったつもりすらない言葉なのかもしれない。でも、俺の耳は確かに、つぐの小さな声を拾った。

その通りだ、俺はずるい。つぐが好きだと言ってくれた気持ちに付け入って。巧さんの言葉をいいように受け取って。甘えて甘えて。

受け入れることもせず、断ることもせず。ただガキくさい独占欲で、つぐを縛り付けることを選んだ。

そんなこと、自分でだってわかってる。

それでも、つぐが俺以外の誰かの隣で、無防備に自分をさらけ出すのを。俺がつぐでもない女に顔をさらすのを。郁にも晒せなかった顔を他の誰かに見せるのは怖い。

もうどちらも想像することはできなかったし、許せなかった。

ずるいことは重々承知。それでも。

なぜ、俺がつぐに好きだと告げられないのか。断ることもできないのか。どちらもわからない。つぐはどう思っているのだろう。あゆやコタの言うように、俺は郁を忘れられずにいるのだろうか。

つぐのことは、女の中で一番好きだし、心を許してる。つぐもきっと同じだろう。それでもつぐに俺は何も告げられず、期間を延ばすことしかできない。

人を愛することに、ほんの少しの欠落と、恐怖が存在している。

「つぐ…。」

俺は、相変わらずヘタレだ。

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