第23話 幕間

「これで完成かな…。」

最近は前にもまして、菓子作りに打ち込んでいた。まだ春先だというのに、涼菓子、つまりは前につぐに試食させたやつだ。あの後もあゆとコタに嫌がられながら散々試食させて、やっと完成にこぎつけた。

どうしても連休が始まる前に完成させたかった。あいつはうっとうしがるだろうし、俺らしくないとも思う。それでも自己満足でも、どうしても完成してやりたかった。もうすぐこの約束が俺によって終わらされることになるなら。

これは完全に俺のエゴだ。

「本当に俺らしくない…。」

俺が小声でつぶやいた声に返ってくる声がある。厨房を外からのぞき込んでいた二人が入り込んでくる。

「ほんとにな。俺への興味がギリの兄貴とは思えない。」

「つぐちゃんのこと本当に大切に思ってるのね…。」

「まあ、あれだけ試食させられて、成功しなかったらそれはそれでムカつくしね。」

「美味しかったけどね。流石に多いわ。郁ちゃんいたら楽だっただろうに。」

郁の名前を出されると痛い。郁のことはふっきったつもりでも、まだどこかに引っかかっている。その迷いを振り切るように二人に軽く怒鳴る。

「うるせーぞ。あゆ、コタ。」

「文句くらい言わせてよ!つぐちゃんのために散々手伝ったんだから!」

「そうだよ!俺たちにもギリで興味のない兄貴が好きになった女のためだと思って、付き合ったんだから!」

二人にすごい勢いで言い募られる。

「お前ら俺のことそんな風に思ってたの…?兄ちゃんちょっとショックだよ…。」

「そんなんじゃない、兄ちゃんって。…でも、つぐちゃんを大切にしてる兄ちゃんは、前よりずっと好き。」

「前みたいに嘘くさい上っ面じゃなくて、冷たいのに素直。郁さんといたときともまた違って」

郁の名前が出たことで生々しさが増してる。これじゃまるで…。

「俺が本気でつぐのこと好きみたいじゃないか…。」

思わず顔を赤らめた俺を2人は不思議そうな顔をして

「何か違うの?私には兄ちゃんが誰にも見せない顔をつぐちゃんに見せているように見えるんだけど。」

「俺はお前に…妹に接する感覚であいつに接したんだが…。」

「え、やめてよ。気持ち悪い。見てよ、コタ。私今の一瞬で鳥肌立った。兄ちゃんの赤面だけで大概キモかったのに。」

「大丈夫だ、あゆ。俺もだ。」

一瞬にして可愛い妹と弟に切り捨てられた。

「兄ちゃんは確かにフェミニスト気取ってるから、女の私には優しいけど、あんなつぐちゃんに向けるような顔私に向けられてたまるもんですか。お兄ちゃん、郁ちゃんにだってあんな顔してなかったよ。ああ、本当に気持ち悪い…。水飲んでこよ。」

あゆに本気で気持ち悪そうな顔をされてしまった。コタも顔をしかめて

「まじで兄貴そう思ってるなら本当に気持ち悪い。そしてつぐサンに悪い。…ああ、俺も水飲んでこよう。兄ちゃんのせいで本当に気持ち悪…。あゆ!俺の分も!」

二人はものすごい表情を残して、俺の元から逃げるように去っていった。

「…ったくなんなんだよ…。」

”拓真君”

二つ上の郁が俺を呼ぶ声がよみがえる。

俺が初めて付き合って、甘酸っぱい幼い恋をして。先に大人になる郁は俺を置いていった。

郁もよく、うちで勉強してたっけ。家庭環境が悪かったから、家から逃げ出して。

俺は恋といえば、郁しか知らない。あれを恋だと教えてくれたのは郁自身だった。つぐはそんなこと教えてはくれない。

だから、俺はこの想いが恋なのかわからない。

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