第26話

 次の日は数学の勉強。主には公式を覚えて問題を解くという練習をした。その後は各教科の復習だ。そして迎えた中間テスト当日。


「お手並み拝見といこうか海生」


「望むところだ。いつも余裕たっぷりのお前に今回は勝つ」


 鏡也と海生は意気込みながらテストに向かう。

 今回勝てば何でも言うことを一つ聞かせられる。二人はどんなことを聞かせるのかもう考えてきていた。


 そして奮闘の末、二日間にわたるテスト期間が幕を閉じた。


 ____________________________


 テストの結果。


「おいまじでか」


 鏡也と海生のテストの勝負の結果は僅差で海生の勝ちだった。

 二人ともテストの平均点は九十点台。数学と英語のテストでは鏡也の勝利。それ以外の三教科では海生の勝利。総合点で海生が鏡也を上回った。


 勝負の決め手は優香と美優から借りた去年のテスト問題だろう。あのテスト問題のおかげでテストに出る問題が絞ることができ、

 海生が予想した問題がかなりの的中率を誇った。優香と美優にお礼を言わなければいけないと海生は感謝した。


「ね?」


 海生は数日前に努力型に足をすくわれると言った言葉を思い出し、どや顔で鏡也を見つめる。


「ねじゃねぇよ腹立つその顔やめろぉっ」


 まさか負けるとは思ってなかったのだろう。鏡也はかなり悔しそうだ。


「じゃあこの前言ってた何でもいうこと聞くってやつだけど」


 さっそく本題に入る海生。くっと一言声をあげどんな命令をされるのかと身構える鏡也。例のごとく周りで反応している者達もいた。


「鏡也さぁ…… レスリング部入れよ」


「え?」


 予想外のことを言われた鏡也は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「いや何か他のクラスの友達から鏡也結局サッカー部に入らなかったって聞いてさ。だから暇もてあましてこの前もレスリングの試合見に来てくれたんだろ?」


「お前俺以外に友達いたんだな」


「そのくだり前もやった」


 サッカー部に入る予定だった鏡也はなぜかサッカー部に入らなかったらしい。


「なんでサッカー部に入らなかったの?」


 当然出てくる疑問を口にする海生。当初はサッカー部に入ると言っていたはずだ。


「あーまぁサッカー部って実は人数ギリギリで廃部寸前らしいんだわ。そんな中で入っても何か大会で活躍出来なさそうじゃん」


 サッカー部に入部しなかった理由は活躍出来なさそうだかららしい。


「へぇ。でもすぐにレギュラー入れそうだし、鏡也が引っ張っていくってことも考えなかったの?」


「無理無理。買い被りすぎ。いくら俺でもそこまで出来るとは思えなかったわ」


 ふーんと相槌をうった後海生は本題を切り出す。


「まぁ無理にとは言わないけど、持て余してるようだったら一緒にレスリングどう? レスリング部って団体戦で階級揃えたいから人数いるに越したことはないみたいだし、あと結構面白いし」


 誘われた鏡也はまんざらでもなさそうな感じだった。後ろを振り返り背を向けながら海生に聞こえない声で、お前を見てたら楽しそうなことは分かるんだよと呟いた。


 後ろを向いた鏡也は海生に見えない位置で嬉しそうに笑い、


「考えとく」


 と言い残し、その場から離れた。


 レスリング部の部員達のテストの結果はおおむね良好だったらしい。幸隆は平均五十点台で赤点のテストはなかった。


 三年生はもちろんのこと、二年生の中にも赤点はいなかったようで、優香と美優さえも平均四十点をたたき出し、なんとか赤点を回避していた。


 ただ幸隆は妙な回答をしている場面もあった。


「覚えた細胞壁ってやつテストで書いたぜ」


 そう言われて覚えた問題でて良かったねと告げた後に海生は気づく。今回のテストに細胞壁の問題など出ていなかったこと。


 実際答え合わせをしてみるとなんと別の問題の答えに細胞壁と答えていたのだ。


 その問題は世界史。

『東西ドイツを隔てていた壁の名称を答えなさい』という問題だった。

 教科の壁のりこえてんじゃねぇか。確かに壁と言ったら細胞壁って覚えれば良いとは言ったけどと思う海生。


 少し久しぶりの道場で、部員皆とテストの結果報告をする海生達。すると優香が海生と幸隆に声をかけてきた。


「どうせ君達は私達が赤点とりまくると思ってたんでしょう?」


「はい!」


 一点の曇りもない目で幸隆は返事を返す。


「いやあのそんなきれいな目で良い返事されても……」


「私達も補習でマネージャーの仕事出来ないのいやだからね。頑張ったんだ」


 優香の後についてきた美優が続きを話す。つまり去年は補習でマネージャーの仕事が出来なかったということだろう。


「あっそういえばテスト問題ありがとうございました。かなり助かりました」


 この問題用紙のおかげで鏡也にテスト勝負に勝つことが出来た海生はその気持ちを込めてお礼を言う。


「言葉だけじゃなくて態度で示してもらいたいなぁ。ほら私の頭を撫でるとかさぁ」


 上目遣いで挑発的なポーズを取ってくる優香。そう言われた海生は躊躇なく優香の頭を撫でた。


「ふぇっ!?」


 本当に撫でられると思ってなかったのか優香は妙な声をあげる。


「今回は本当に助かりました。これのおかげでテスト勝負にも勝てたし部員一人増えるかもですし」


 笑顔で頭を撫で続ける海生に優香は顔を真っ赤にする。海生の言葉は頭に入っていないらしい。耐え切れなくなった優香は美優の豊満な胸にダイビングした。


「男の子に頭なでなでしてもらうっていう夢がかなったぁあああああ」


 よしよし良かったねと頭を撫でる美優と興奮する優香を横目に海生は練習の準備を進める。


「よし! あのバカ先輩に義理もはたしたし練習しよっと!」


 かなり酷い言葉を残しながら練習に励む。


「あれ? そういえば紀之は?」


「あぁ何か四教科赤点だったから補習だって」


 海生の問いに幸隆はそっけなく返した。






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