*彼の好み
彼には食べ物の好き嫌いがない。ゲテモノは置いといて一般的なものはなんでも食べるし、何が出ても嫌な顔をしたりすることはない。
しかしそんな彼にも好みはあるのだ。
ケーキとかスイーツは買ったりカフェで頼んだりすれば私と一緒に食べるが、そういった甘い物を彼が自ら選ぶことはない。
コーヒーはブラック。ミルクも砂糖も入れないし、注文する時はどちらも拒否する。
「はい、これ。バレンタインデーの。今年はチョコじゃなくてクッキーにしてみたの」
彼に手渡したラッピングした包みの中身はチョコクッキー。お砂糖少なめ、ビターながらチョコレートの風味が味わえる一品だった。
「ありがとう」
彼はお礼を言いつつもどこか安堵したような顔をした。
「今年もチョコレート、たくさんもらったの?」
「うん。まあね。以前よりかはだいぶ減ったんだけど」
「何個ぐらいもらったの?」
「十個くらいかな」
確かに減っている。ただ、それでも十分多いのだが。
彼はカッコいい。好きだからだとかそう言った贔屓目なしにしてもとても整った顔立ちをしている。
だからバレンタインデーにもたくさん、それも見知らぬ人からもチョコレートをもらうのだ。今は私という正式な恋人ができ数年も経ち、その量も落ち着いてきたみたいなのだが、それでも二桁を切ることはなかった。
「今年も全部食べるの?」
甘い物はそんなに好きじゃないはずなのに。
「君も食べるかい? 分けるよ」
彼はもらい物に関しては他人に分け与えることもあるが、どんなに数が多くても絶対に自分で食べる。食物を粗末にしたりはしないのだ。
他人とのコミュニケーションに対してもそのくらいのマメさがあれば良いのに。
基本的に彼は他人に対して無愛想でそっけない。冷たいなと思うこともある。
過去にあった様々な出来事が今の彼を作っていて、あと単純に不器用なだけなところもあるので、口出しはしないのだが。
「うん。お皿に乗せた方が分けやすいし食べやすいと思うから、持ってくるわ」
ブラウニーとかガトーショコラとかもあったりすることがあるので、フォークも一緒に私は台所から取ってきた。
そしてその夜は二人でチョコレートパーティーをしたのだった。
END.
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