衝撃
早朝のニュースを見て、
明海の大破したバイクのナンバープレートは見つかったが、肝心の明海の体が見つかっていないのだというニュースが、ほとんど入ってこない。
今までにない脱力感。そして、自分に穴が抜けたような感覚。体中の血がなくなってしまったかのような、変に軽い心情。自分が狂っているのかと、光輝は自問自答を繰り返した。
無論、このニュースを見て衝撃を受けているのは光輝だけではない。
「フレイ。フレイ……どうしたんダ、フレイは」
「学校の先生が亡くなったんですって。しばらく、そっとしてあげて」
両親が心配してくれる声が聞こえても、ティアは部屋に閉じこもり、隅で体育座りをして小さくなっていた。明海の死亡もだが、何より“殺された”ということがショックだった。
光輝たちから聞いてはいた。殺し屋を警視庁が雇ったということは。だが実際に知っている人間が殺されて、ようやく実感していた。
いつかは自分も殺されるのではないのだろうか。そんな不安と恐怖心で、どうにかなってしまいそうだった。
「お母様……私は、私は……死ぬのでしょうか。姉に殺されかけて絶望の縁、やっと生きる気力が持てたのに……私、まだ一六ですよ? 何故こんなにも、苦しいのでしょうか」
涙が流れる。仏壇に飾られた母の姿すら、まともに見ることが出来なかった。
「お兄さん、どうしたの?」
「行くぞ、ガキ」
「……どこへ?」
「東京だ。馬鹿馬鹿しすぎる馬鹿野郎共に、馬鹿って言いに行く」
「……お財布は?」
「いる。持ってこい」
そして、外へ出たのはもう1人。
「ゼウス」
白の上着に袖を通し、今まさに扉を通ったゼウスを止めたのは、アフロディテだった。鼻で笑ったゼウスは振り返り、アフロディテに手をあげて軽く挨拶を交わす。
「どこへ? 神様から、何か命令でもあったのですか?」
「えぇ。少々第三者が騒がしすぎるので、少し大人しくさせてこいと」
「では私も参ります」
アフロディテが持つ日傘を見て、ゼウスは困った顔をして息を吐いた。
「それも、神様の命令ですか?」
「いいえ。でも、ポセイドンやハデスがあなたのことをよく思っていないことは事実。ですからこれからは、単独行動の際には私を連れていただきます」
「なるほど。つまりは監視役というわけですか」
「断れば、貴方に対する不満は募るばかりですよ?」
なるほど、断れない。断れば神に告げ口され、場合によっては座を下ろされる。白い頭の中で、連れて行った方が賢明だと何度も自分に言われた。
「仕方ないですね」
「……では、参りましょうか」
アフロディテから日傘を受け取り、ゼウスはアフロディテに傘を差しながら目的地へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます