嵐の夜に

4-1

 まだずっと子供の頃、私は雨が好きだった。

 屋根や傘に当たる雨音を聞いていると何故だか癒されたし、台風が来て強い風が窓枠を揺らしたりすると、まるで異世界に来てしまったみたいで、意味も無くワクワクしたのを覚えている。

 ちょっとくらいの雨なら気にせずに外で遊んでいた。昔の私は活発だったので、素手でカエルを捕まえたりして遊んだものだ。今だったら気持ち悪くて、触るどころか見るのも御免だけれど。


 一度、大雨の晩に、傘を持たずに外に出てみたことがある。

 冷たい雨が体を濡らしていくのも、服が濡れて重くなった体も、プールから上がった後の気だるさに似ていて妙に高揚した。

 家に帰ると、激怒したお母さんが待っていて、次の日には高熱を出して学校を休んだ。それでも、普段は出来ない特別な体験をしたみたいで、楽しかった。

 昔、希が小学校に入ったばかりのころ、お母さんと私と希の三人で雨の中を歩いたこともある。

 私と希はレインコートを着ていてお母さんは傘を差していた。雨降りの薄明かりの中三人で手をつないでどこかに向かっていた。なんの用事だったかはもう忘れてしまったけれど、その光景だけは懐かしさと共に今でも印象に残っている。


 けれど今は、雨は苦手だ。

 湿気が多いと髪が纏まらなくなるし、濡れるとベタベタして気持ち悪い。傘を持つために片手が塞がってしまうのも面倒だ。靴に水が染みたりなんかしたら、もう最悪。教科書やノートが濡れちゃったら目も当てられない。

 それに、雨はあの日の事を思い出させるから。私の人生が変わったあの日。いつから雨が嫌いになったかなんて、考えるまでもない事だ。

 今の私は雨が嫌い。朝の天気予報で傘マークがついてたりしたらそれだけで一日憂鬱だ。

 けれど、こういう事を考えていると、決まって雨が降る。これってマーフィーの法則とかって言うんだっけ?


 それとも、雨が降りそうだからこんな事を思うのかな。もしかしたら、これも一つのフラグかも……。なんて、これはさすがに考え過ぎだと思うけど。

 とにかく、外は接近中の台風の影響で、どんより曇り空にざわざわと木々を揺らす風。まだ雨は降っていないけど、天気予報によれば今夜にでも天気は崩れるという。


 要するに、一言でいうなら、嵐の前の静けさなのだった。

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