第36話

「あれ?このパーツここでいいんだっけ?」


「私の金剛の機銃、ピンセットで挟んだらどこかに飛んで行ったんだけど?皆いったんストップして。足元探すから」


「あっ、塗料が倒れた」


「「「ギャー!!」」」


戦艦部の部室の一つをフルで使って模型製作にいそしむ部員たち。

たった今、XF75の塗料が机の上にぶちまけられて大変酷い惨状になっている。

他にも無理に難しい物を購入しててんてこ舞いになったり、瞬間接着剤を余計なとこに塗ってしまったり、塗料を厚く塗りすぎたり。

ちょっと前には空中線を作るために伸ばしランナーをやろうとしてボヤが発生した。

顔に塗料がついている部員もいる。


「これ難しい!!」


「無理してエッチングパーツなんて買うからよ」


「だってやりたかったんだもん!!」


少し離れたところから千秋は心配そうな目つきで見ていた。

彼女は部室展示用の戦艦大和を100分の1で作っているのでサイズ的に邪魔になるため、少し離れた席にいるのだ。

修子の方は船体を作るため静かにやりたいと言って別の部屋に行ってしまった。

重労働なため手伝うと千秋が言ったのだが作業効率的には分担した方がいいし、指導する人が一人は必要と言われここに残らされた。

そして現在に至る。


「……もしかしてこれって厄介ごと押し付けられたんじゃ?」


気付くのが遅い。


「と、とりあえず作業に戻りましょう」


作業台に向き直る千秋。

彼女の目の前には4枚の板がある。

戦艦大和の一番主砲塔前盾にあたる部分だ。

本来なら一枚で作ってしまってもいい部分なのだがこれを実物と同じく4枚に分けることで見た目に判らなかったとしてもリアリティは上がると彼女は信じている。

望遠鏡や測距儀の中もすべて開口させて再現するつもりだ。

そのためには15m測距儀も作らなければならない。


「とりあえず1セットできたからこれと同じものをもう2セット作らないと」


ちゃんと重ねて6.5mm厚にしてあるプラ板の上にL字型の物差しで線を引く千秋。

少しでもずれたら合わなくなってしまう。

砲身を通す穴、角の傾斜部分等寸法をいちいちチェックする。

その間にも部員たちの騒ぎ声は大きくなっている。


「あっ!!違うパーツつけちゃった!!どうしよう!?」


「私の機銃どこー?」


「あっ!!また塗料が倒れた!!」


「「「いい加減にしろ!!」」」


全然集中できない千秋は蟀谷を押さえながら立ち上がって部員たちの方に行く。

こっちの指導を先にした方が効率は良さそうだ。

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