第93話内輪話

「そうですとも」

メリッサはそう言うと更に話を続けた。

「そもそも、ボスは主人公であるのにキャラが立ってません。

最初の紹介文で

――服装は中世を思わせるものだが、どこか近代的な雰囲気も感じる。この時代・この世界では斬新なデザインなんだろう――

これだけですよ。たったこれだけ。何なんですか?作者の手抜きですか?」


「いや、それはその通りだから仕方ないだろう……ってそもそも一話で終わるつもりだったんだから……こんなテンプレな話は……ってなに内輪の話してんだ?」


「地味なんです。地味すぎるんです。本当はチートな力もあるのにキャリアコンサルタントだからそれを披露する場もない。もうチートなんて無用の長物状態じゃないですか?」


「まあ、そりゃそうだけど……職業が職業だからねえ……」


「この前の、ダークエルフと一緒に臨んだアルポリとの戦いにしたって、どうでした?完全にシド長老に負けていたじゃないですか?存在感無しですよ。完全な引き立て役ですよ。分かってますか?」

メリッサはまくし立てるようにイツキに詰め寄った。


「はい。分かってます。でも俺って弟子だし……師匠を差し置いてはねえ……」


「ここ最近のボスを振り返ってみればやはりインパクトに欠けます。主人公としての存在感セロです。こんな事では嫁の沽券にもかかわるので、マイダーリンには、これからはビジュアル系に変身して貰います」


「おい、今どさくさに紛れてとんでもない事を言ってなかったか?」


「いいえ。何も言ってません!」

そう言うとメリッサは呪文を唱えイツキの外見を一気に変えてしまった。


 そこにはマントを羽織った魔人キースのような怪しい雰囲気を漂わせたイツキが居た。

ど派手なメイクはキャリアコンサルタントというよりメフィストだった。流石魔王の娘メリッサの感性だった。


「ようこそ!異世界へ!私はあなたのこれからの異世界生活を明るく導くキャリアコンサルタントのイツキでぇ~す!」

とマントを翻し大仰に語り掛けるどっからどう見ても魔人キースモドキがそこに立っているとしか思えなかった。

 持っているのが剣ではなくステッキである以外はどこからどう見てもキースを彷彿させるいでたちだった。


「お前、本当はまだキースに未練があるだろ?」

イツキは我に返ってメリッサに詰め寄った。

「な何をおっしゃいますやら、わらわはダーリンに身も心も奪われてしまったのですよ。今更キ、キースなど視野に入りませんわ」


「なんか怪しいなぁ……キースに戻ったら?」


「だから違うって!」


「いや、イツキ、その恰好はなかなかいいかも……怪しさ満点だけど、キャラは立つし、キャリアコンサルタントって言う職業が華やかに見える」

とヘンリーは案外この格好が気に入ったようだ。


「いや、華やかに見えなくてもいいから」


「うん、確かにイツキは不当に低く見られているな。確かに地味だわ」

ヘンリーはイツキの話を全く聞いていない。


「でしょう?ギルマスもそう思うでしょ?」


「思う」


「よし、今度のアルポリ行きは全員衣装をそろえる事にしよう。イツキは特別にあつらえてやるよ」

ヘンリーそう言うとメリッサと固く握手をした。


「何を言う。いつも通りで良い」

イツキは力なく反論を試みたがヘンリーに一蹴された。


「ダメだ。メリッサの言う通り、キャラが余りにも立ちすぎていない。この話の主人公が誰なのかも分からなくなってきている。ここは友人として僕が一肌脱ごう」


「私も愛するダーリンの為に可愛い嫁として一肌脱ぎますわ」


「いや、お前は脱がなくていいから。それは違う意味になるから。それにダーリンじゃないから……」

と言ったもののイツキは反論はこの二人には届いていないようだった。


イツキはギルドの高い天井を見上げ、ため息をついた。


「どんどん俺のキャラが崩れていく……」


そんなイツキにはお構いなく意気投合するヘンリーとメリッサだった。

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