6.
〝私、石堂由香。あなたは?〟
ほんの、数日に過ぎない。
石堂由香がドリーマーの娘であるか否か確かめよ、という命令を受け、インディゴが彼女の身辺調査を始めてから、まだ一週間と経っていなかった。彼に見張られているとも知らず、石堂由香は寝起きし、父親と楽しげに会話し、友達と遊びに行ったりしていた。
それだけで済んだはずだ。
ただ影のように彼女のそばに潜み、調査結果を上へ報告し、誰か実際の処理役が送られてきたならばその人物をサポートする。今までに何度となくこなしてきた仕事を、何も考えず遂行すればいいだけのはずだった。
――なのに。
〝有難う。助けてくれて。本当に、有難う〟
馬鹿野郎。俺は、お前を助けたわけじゃない。
処理役が来る前に、処理対象者に死なれでもしたら厄介だ。自分自身の打算で、手を出しただけだった。
そんな彼に由香は礼を言い、笑いかけ、お茶でも飲んでいけと誘ったのだ。
お前とお前の親父は、明日にも死ぬんだぞ!?
笑顔で話しかけてくる彼女を見ていると、思わずそう言い返したくなった。しかも、「石堂由香はドリーマーの娘に間違いなし」とする、彼女にとって死刑宣告とも言える報告を上に送ったのは、彼自身なのだ。
「ドリーマーの娘だし。もしかしたら反撃したりするかな、と思ったんだけど……期待外れだったみたいだね」
彼は、石堂家の中に潜んでいる。アッシュが顔色一つ変えず石堂利雄の腹部を灰にしたのも見ていたし、帰宅した由香が変わり果てた利雄を発見して放心し、次第に父親の死を認識し始めるのも観察していた。
「あんたが……あんたがお父さんを!!」
由香が、通学鞄をアッシュに投げつける。馬鹿め、そんなものが効くものか。
「やっぱり、ただの小娘か――」
どうあがいても助かる見込みはない、由香にもそれはわかったのだろう。泣き叫ぶでもなく、逃げようとするでもなく、ただまっすぐにアッシュを睨みつけている。
あと数歩、アッシュが歩み寄れば全ては片付くのだ。ドリーマーの娘は抹殺され、俺の任務も終わる。だから。
〝私、石堂由香。あなたは?〟
手など出さなければよかった。
あのとき、あの男どもに拉致されて、どこでどんな目に逢おうとも、由香の運命に大して差はなかった。どのみちもうすぐ殺されてしまうのだから。
「つまらない任務だったね」
あの笑顔を、見なければよかった――
「――うおおおおっっ!!」
自分でもわけのわからないまま、物陰から飛び出していた。叫びながら突進し、今にも由香に手をかけようとしていたアッシュを、横から殴り飛ばした。
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