第372話 タペストリーハウスの中の出歯亀たち

 「うぬぬぬぬぅぅ~。ジュディスの奴めぇ。シュリと2回もちゅーとはうらやましいのじゃ。寂しいのを我慢して留守番を頑張っておったのは認めるが、ちゅーのご褒美を貰うなら、この旅で頑張った妾達の方が先じゃろ!?」



 タペストリーハウスのリビングの窓から、シュリの部屋の様子を盗み見ていたイルルが唸る。

 それを見ながらオーギュストは思う。

 この旅で、行きはともかく帰りは自分が担当したし、悪魔と戦ったのも自分だし、ここにいる眷属の中で1番頑張ったのは多分自分じゃなかろうか、と。


 第一、行きで頑張ったイルル達は、もうすでにシュリからご褒美を貰っているので、また貰おうと言うのは欲張りというものだろう。

 その点、自分は悪魔と戦ったご褒美はもう貰ったが、帰り道の分はまだ貰っていない。

 なので、欲しいと願えば、シュリはきっとオーギュストに甘いご褒美をくれるはずだ。

 そんなことを思い、オーギュストは心の中でひっそりにんまりした。



 「くぬぅぅ~! シャイナも気持ちよさそうじゃのう。うぬっ!? シャイナも2回目をおねだり、じゃと!? 妾もシュリに、妾とのキスが恋しかったと言われながら、あつぅ~いちゅーをしたいものなのじゃ」


 「ポチも、タマも、イルル様も、シュリ様にはあっちに着いてすぐにちゅーのご褒美を頂いておりますし、その後は部屋でごろごろしてただけでありますから、ご褒美はないと思うでありますよ? 恋しかったと言われるほど離れてた訳でもないでありますし」


 「むぅ。シュリ様からのご褒美ちゅーを貰えないのは残念。でも、死ぬほど昼寝ができたから、それはそれでタマは満足している」



 三者三様の意見を交わしながら、3人が3人とも窓の外の光景に釘付けだ。

 そんなことを思うオーギュスト自身も、シュリが自分以外と交わすキスを、ちょっぴりのヤキモチと若干の興奮を感じながら食い入るように見ているわけだが。


 そんな風に、4人揃って少し鼻息荒くシュリと愛の奴隷達のキスを見守る。

 最後に、シュリとアビスの2回目のキスが終わり、これで終了か、と思いきや、順番はまた最初のジュディスへと。



 「ふぬぅっ!? 今度はおっぱい、じゃと!? くぬぅっ。うらやまし、すぎるのじゃ。妾もシュリにおっぱいをもんで貰いたい。そんでもってあんあんいいたいのじゃあぁぁ」



 窓におでこをべったりくっつけたまま、イルルが嘆く。

 そんなイルルを見ながら、



 (……どこに揉むほどの胸が?? それを揉むのは、さすがのシュリでも少々技術が必要じゃないだろうか)



 オーギュストはそんなことを考える。

 ばれたらイルルは烈火の如く怒るだろうが、彼女は今、窓の向こうの桃色空間に夢中だ。

 それを良いことに、オーギュストはイルルの横から、どこまでもまっ平らなイルルの寂しい胸部を観察する。

 まっ平らな胸を揉むというのはどういう感じなんだろうか。

 ちょっと試してみたい気もする、と無意識に両手をわきわきさせつつ。



 「……イルル様の胸には揉むだけの肉がない。タマとポチと、それからそこの新入りは揉まれるに足る肉が備わってるけど。足りないイルル様が揉まれたがってもシュリ様が困るだけ。シュリ様が揉むおっぱいはタマ達が提供するから、イルル様はその辺で指をくわえて待ってればいい」



 ふふん、と笑ってタマがイルルをあおり、



 「タ、タマ。それはちょっと言い過ぎでありますよ? だ、大丈夫でありますよ、イルル様。おっぱいが平らでもシュリ様はきっと優しく撫でてくれるでありますよ~、きっと」



 むき~っ、となったイルルをなだめるようにポチが口を挟むが、あまりフォローになっているとは言い難く。

 イルルはすっかりへそを曲げてしまったようで、



 「むぐぐっ。ちょっとおっぱいが大きいからって偉そうにするな、なのじゃっ! そんな脂肪の塊、うらやましく……うらやましくっ、なんかっ。シュリはの……シュリは、妾のぺったんこも大好きなのじゃぞ!?」



 ふんぬっ、と胸を張り、そう言い返す。

 端で聞いているとむなしいとしか言えない、そんな言い訳を。



 「ふ~ん。へ~」


 「そ、そうでありますよね~? シュリ様は優しいでありますからねぇ」


 「むっ! お主等、信じておらぬな? てきとーな返事をしおって。シュリはの~、おっきな色気むっふんな妾より、ちっさくて可愛い妾の方が良いと言ったのじゃ。お主等も考えてみよ。甘いお菓子とて、そればっか食べてたら飽きるじゃろ? たまにはしょっぱいものも食べたくなるじゃろ?」


 「!?」


 「た、確かに一理あるであります!!」


 「ふむ」



 イルルの主張に、タマとポチは目からうろこの表情を浮かべ、オーギュストも思わず頷かされていた。

 言われてみれば確かに、と思いつつ、オーギュストはイルルの平坦な胸を興味深く見つめた。

 あの平らな胸部に、シュリを引きつける何かがつまっていると言うのなら、ちょっと揉んでみたい、そんな欲望と共に。



 「むふふ。妾の胸の重要性をようやく理解したようじゃの? 見てのとおり、今のシュリは甘いおっぱいに埋もれきっておる。じゃが! 甘いおっぱいを味わい尽くした後は、妾のおっぱいが恋しくなるはずなのじゃ。妾の、しょっぱいおっぱいが、の!」


 「「「しょっぱい、おっぱい」」」


 「そうじゃ。ポチもタマもオーギュストも、お主等のおっぱいの属性は今揉まれている奴らと同じ甘味!! シュリの周りは甘いものであふれかえっておる。しょっぱい属性は妾のみ。そう考えてみれば、ある意味妾のおっぱいが1番貴重なおっぱいと言っても過言ではないのじゃ!!」



 ない胸を突きだして、イルルがわはは、と笑う。

 ポチとタマは、正直疑いのまなざしでイルルのぺったんこを見ていたが、オーギュストだけは妙に感心したように頷きながら、イルルの胸を熱心に見つめた。

 そんな彼女達の視線など気にもせず、イルルは窓の向こうで繰り広げられる桃色な行為の数々をほくそ笑んで眺める。

 彼女は、次は自分の番だと確信しているようだった。



 「なるほど、な。勉強になった。礼を言うぞ、イルル」


 「礼には及ばん。同じ眷属同士じゃ。教えあい高めあうのは当然のことよ」


 「そうか。そう言って貰えるとありがたい。願い事がしやすくなるからな」


 「ふぬ? 願い事、とな?? シュリにではなく、妾にか??」


 「ああ。是非ともイルルに頼みたい。イルルにしか、頼めないことだ」


 「妾にしか、か。そう言われると悪い気はせんのう……ふにゃっ!?」


 「俺にも、シュリが虜になっているという、しょっぱいおっぱいの魅力を教えて欲しい」



 願い事を伝える前にもう伸びてきていたオーギュストの手のひらに胸を包み込まれ、イルルは思わず声をあげた。



 「しょ、しょっぱいおっぱいの魅力、じゃと!? そ、それを知りたいお主の気持ちも分かるが、妾のおっぱいはシュリだけのもの……ひゃんっ」


 「ふむ。どこまでも平たいが、ほのかに柔らかい。これがシュリを虜にしているしょっぱさか??」



 イルルの抗議など気にもせず、オーギュストは容赦なくイルルの平たい胸を撫でまわす。



 「こ、これ!! や、やめいと……やめい、と言う、に。ふぁん」


 「ん? 固くなってきたな。手のひらに当たる感触は、悪くないといえば悪くない、のか。これが、シュリの好むしょっぱさ、か?」



 なで回す手のひらに当たる、つんと固くなったイルルの蕾に気づいたオーギュストは、1人ふむふむと頷く。

 そして猛然と、1番敏感なその部分を中心になで回し始めた。


 たまらないのはイルルの方だ。

 徐々に甘くなってくる己の声に、イルルは内心冷や汗を流す。

 自分の体は髪の毛1本までもシュリのものなのに、このままでは他の人間の手でいやらしい気持ちになってしまう、そんな危機感に。



 (こ、このままじゃやばいのじゃ。こ、こうなったら最後の手段なのじゃ!!)


 「わ、妾も甘々おっぱいに変身、なのじゃあぁぁ!!」



 そんなかけ声とともに、イルルの姿がぼんっと変化する。

 幼い少女から大人の女へと。

 オーギュストは一瞬のうちに大きく膨らんだイルルの胸を手のひらにおさめたまま、目をぱちくりさせる。

 そんなオーギュストを肩越しに見つめ、



 「ほ、ほれ。妾のおっぱいも甘々仕様になったのじゃ。これなら珍しくもなんともないじゃろ? じゃから、のう? そろそろ妾のおっぱいを解放……んにゃんっ」



 そう告げたのだが、オーギュストの手が胸から離れることなく、むしろ再び積極的に動き出した結果、イルルの口から再び甘い悲鳴がこぼれた。

 オーギュストの手は、大きくなったイルルの胸を吟味するように揉みしだき、



 「ふむ。しょっぱい胸も興味深かったが、揉みごたえという意味ではこちらの方が手に楽しいな」



 まじめな顔でそんな感想を口にする。

 そんなオーギュストの言葉に、イルルの堪忍袋の緒がプチリとちぎれる音が聞こえた気がした。



 「いいかげんに妾のおっぱいを解放せんかぁっ!! 甘々なおっぱいなら、そこにポチのもタマのも転がっておるじゃろうが!!」



 イルルの心からの叫びに、オーギュストは目が覚めたようにそこにある他のおっぱいへと目を向けた。

 えっちな気持ちではなく、純粋な探求心から。



 「ぽ、ぽちのおっぱいなんてさわっても楽しくないでありますよ~……? 形も弾力もさわり心地も、絶対にイルル様のおっぱいの方が上であります。ぽちのをわざわざ触るなんて、時間の無駄なのであります」


 「タマのは、大きいだけのただの脂肪。触っても面白くない」



 ポチもタマも、オーギュストの視線と興味から逃れようと試みるが、オーギュストの好奇心はそう甘くはなかった。



 「ふむ?」



 1人頷き、新たなおっぱいにロックオンした彼……いや、彼女は欲望のままに行動を開始し。

 タペストリーハウスの中はしばし、桃色の阿鼻叫喚で満ち満ちた空間となったのだった。


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