特別短編 ふくろうカフェに行きたいとこぼしたら、ふくろうカフェもどきが出来た件⑧
「母様……あ、違った。調教師のお姉さん、すごいね。あんな暴れふくろう達にちゃんと言うことを聞かせるなんて」
シュリの心からの言葉を受けて、ミフィーが得意そうににっこり笑う。
「そうよぉ?調教師のお姉さんはすごいんだから。ふくろうさん達は、調教師の言うことをちゃんと聞かないと、お仕置きされる仕組みなの。だからみんな、とってもいい子なのよ?」
「お仕置きされる仕組み、ね」
つぶやいて、きっとお仕置き担当はヴィオラなんだろうなぁ、と部屋の隅の方に立っているヴィオラの方をちらりと見れば、シュリの内心を読みとったかのように、ぱちりとかえってくるウィンク。
なんだかんだ言って、ヴィオラはミフィーに甘いんだなぁ、と思うと口元に自然と笑みが浮かんだ。
ヴィオラはシュリのおばー様だが、お母さんの顔をしているヴィオラも悪くない。
ちょっと変な感じはするけれど。
くすくす笑っていると、ほっぺたをくすぐる柔らかな感触。
その感触に促されるように正面を向けば、なんだかモデルっぽいポーズを作っているふくろうもどきが一羽いた。
「シュリ、私がふくろうの美しさを教えてあげますわ」
淡い水色の瞳を艶やかに潤ませてそう言ったのは、水の精霊のアリア。
いや、ふくろうの着ぐるみを着ている状態で、美しさがどうのと言われても……というのはシュリの正直な気持ちだったが、アリアが余りに自信満々なので、口に出して言うのはためらわれた。
そんなシュリのためらいや困惑を、己のアピールに対する肯定と受け取ったのか、アリアの笑みが深くなる。
そして、更に自信たっぷりに様々なポーズをシュリに見せつけてきた。
ど、どうしたらいいんだろう?どうにかアリアを傷つけないように、今やっている事は無駄だと伝えなきゃ、と思うのだが言葉が見つからない。
目の前で繰り広げられるふくろうの舞いから目を離す事も出来ずに、呆然と見つめるシュリの服の裾を、誰かが横からそっと引いた。
いいきっかけを貰ったとばかりに、勢いよく横を向けば、そこにはふくろうの格好をして恥ずかしそうにもじもじする、かつての親友によく似た容姿を持つ光の精霊・さくらの姿。
「は、恥ずかしいけど、みんなに負けるのもイヤだし……シュ、シュリ、私の事も見て?」
前世の親友である桜はとにかく強気なしっかり者だったが、その桜に容姿のよく似た光の精霊・さくらは、しっかりした面もあるがちょっぴり世間知らずなところもある可愛い人だ。
ここに居るのがもし桜であれば、こんな変な着ぐるみを着るような企画は、断固拒否したことであろう。
だが、さくらは違う。
彼女はシュリの精霊であり、シュリの喜ぶことなら何でもしてあげたいと思うくらいには、己の主を愛していた。
他の四人の精霊達は、結構ノリノリでこの着ぐるみを着ていたが、正直、さくらは恥ずかしくて仕方がなかった。
が、シュリはこの着ぐるみのデザインの元となった生き物にとても会いたがっているのだという。
そう言うことならば、是非ともシュリを喜ばせたいと思うし、他のメンバーに負けるのもいやだった。
そんなこんなで、さくらは今、とっても恥ずかしい姿を大好きな主にさらしていた。
とにかく恥ずかしい。みんながどうしてこんな格好で平然と己をアピールできるか、正直分からない。
きっとみんな、ちょっと頭がおかしいんだ……などと、周囲のみんなに聞かれたら激怒されそうな事を考えながら、おずおずとシュリの顔を見れば、まあるく見開かれた菫色の可愛らしい瞳がこちらを見ていた。
どうしよう、呆れてるかしら、と不安混じりに見つめれば、シュリは笑うでもなく真面目な顔でさくらを見つめ、懐かしいものを見るように柔らかく目を細める。
その瞳が余りに優しくて、
「えっと、シュリ?」
さくらは戸惑い混じりに主の名前を呼ぶ。
「……うん。見てる。可愛いよ?」
そんなさくらの声に答えるように、シュリは彼女の頬にそっと手を伸ばした。
頬を撫で、その髪に手を滑らせて微笑むシュリの笑顔に、さくらの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
立派な成年女性の姿をしてはいても、上位精霊としてはまだ生まれたてと言っても過言ではないさくらは、そういう初々しいところがまだたくさん残っていた。
ふくろう姿で恥ずかしげもなく個性的なポーズを取っていたアリアは、そんなシュリとさくらの様子をみて、ふむ、と一つ頷く。
「……なるほど。さくらは恥じらいで攻めますのね。それに対抗するには、私ももっと思い切った攻めに転じないと難しいかもしれないですわ」
独り言の様にそうつぶやいて、アリアはすすっとシュリの間近に寄った。
そして、空いている方のシュリの手を取ると、そのまま流れるような動きで自分の胸へと。
手の平に伝わってきたふわりと柔らかな感触にシュリは思わず首を傾げ、それからその手の行方を目で追いかける。その手が、アリアの着ぐるみに包まれた二つの膨らみの一つの上にあるのを見て、思わず目を丸くした。
「アリア!?」
「さ、シュリの大好きなふくろうのおっぱいですわぁ。思う存分、好きなだけ堪能していいんですのよ?」
アリアはそう言ってにっこり笑うが、シュリは意外と冷静で。
(いや、ね?ふくろうにおっぱいはないと思うんだ。だって、鳥だし、卵を生むし。母乳、必要ないし?)
そう思いながら、さりげなくアリアのおっぱいから手を引きはがそうとしたら、なぜかもう片方の手にも同じように柔らかな何かに埋もれるような感触が。
まさか、と恐る恐るそちらの手の方を見れば、顔を真っ赤にしたさくらがシュリの手を己の胸にこれでもかと押しつけていた。
「わ、私のおっぱいも、触って?アリアさんは先輩だけど、ま、負けるつもりはないんだから!」
そんな台詞と共に。
(いや、そんな次元で張り合われてもね?)
思わず頭を抱えたくなるものの、あいにく両方とも手はふさがっている。
むぐぐっと唸り、どうしたものかと考えていると、
「はいはぁ~い、お色気過剰はNGって決まりでしょ~??二人ともしっかぁ~く。大人しく、森へ帰ってね~?」
ミフィーが調教師の威厳たっぷりに割り込んできた。
しまった、という顔をする二人から強制的にシュリを引っ剥がして自分の後ろに避難させると、
「そういう、約束よね?」
そう言ってにっこり微笑む。
「……仕方ないですわね。熱くなってしまった私達の負け、と言うことですわね。行きますわよ?さくら」
「うう~。イヤだけど……正直、ほんっとうにイヤだけど……はぁ、アリアさんの言うとおり、熱くなった私の負けってことね」
アリアとさくらは口々にそう言うと、さっき退場した三人と同様、ミフィーに逆らうことなく、とぼとぼとふくろうの森へと帰っていった。
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