第二百十一話 エリザベスは見た!?①
ガタゴト、ガタゴト……
そんな馬車の揺れに身を任せながら、少女は思う。
一体全体、どうしてこんな事になってしまったのか……と。
シュリナスカ・ルバーノにどうしてもと乞われて一緒に下校をしたところまでは、まあ、特になんの問題もなかった。
校門を出て、それぞれの馬車に向かい、さて馬車に乗り込もうとした時、それはふと視界に飛び込んできたのだ。
馬車へ向かうシュリナスカ・ルバーノ。
その小さな体に、何かが勢いよく飛びつく光景が。
倒れはしなかったものの、遠目に見ても明らかにシュリナスカ・ルバーノの体がぐらりと傾いだのが見えた。
その後、続けて見えたのは、なにやらもめているような様子を見せた後、シュリナスカ・ルバーノが彼とそれほど体格の変わらないその襲撃者をひょいと抱き上げ、馬車に連れ込む場面。
その普通じゃない光景に、気がついたときには体が動いていた。
勢いよく馬車に乗り込み、目に飛び込んできたのは、シュリナスカ・ルバーノが襲撃者と思われる赤毛の少女を膝に乗せ妙に仲良さそうにしている姿。
その元気そうな様子にほっと胸を撫でおろ……してなんかいないが、とにかく、なんでもない様子に安心……ちがった、とりあえず納得したエリザベスは、彼の膝に乗る人物になにやら見覚えがあることに気がついた。
彼の膝にちょこんと座っていた人物、それはエリザベスが入学式の日に親切にしてあげて、どうしてもと乞われて友人関係を結んだ相手で、名前をイルルと言った。
入学式の日に別れたきり、今日も従者に行方を探させていたのだが見つからず、少しがっかりしていた所に突如その相手が現れ、エリザベスは素直に喜んだ。
その喜びのまま、彼女に話しかけ、イルルが自分を覚えていない様子に衝撃を受けることになる。
更に、直後に判明した二人の関係性にも。
まあ、イルルは一応彼女の事を思い出してくれたので良しとしよう。
非常に不本意な呼び名が定着してしまったのは遺憾であったが。
問題は、シュリナスカ・ルバーノの年に見合わぬふしだらな生活である。
そして、そのふしだら極まりない人物の膝に、彼女の生まれて初めてと言っていい友人が座っている事にあった。
そんな事実に直面したエリザベスは正直、うらやま……いや、そうじゃなくて、事態をこのまま放置してはいけないと思った。
そして思うままに、即座に行動した。
自分も彼の家に同行することを宣言し、エリザベスはどっかりと馬車の座席に腰を下ろし、従者にもそのことを告げる。
シュリナスカ・ルバーノの家に行くと告げると、従者はなぜか歓喜の表情で目を潤ませ、旦那様と奥様にご報告せねば、ともの凄い勢いで行ってしまった。
従者がなんでそんな反応をしたのか、ちょっぴり気になりはするが、とりあえず他人の家への訪問について咎められなかっただけ良しとしよう。
そんなエリザベスと従者の様子に、シュリナスカ・ルバーノはちょっと遠い目をしてため息をつくと、御者に馬車を動かすよう指示をだした。
美少女がわざわざ家を訪ねるのだから、もっとうれしそうな顔をしなさいなと思わないでもないが、まあいい。
エリザベスとて、彼となれ合うために家を訪れるのでは無いのだから。
彼の魔手から
エリザベスは思いながら、窓の外を眺めた。
そうやって外を眺めながら、彼女はふと首を傾げる。
シュリナスカ・ルバーノと自分は決して親しく無かったはずなのに、登校初日から自宅訪問をするなど、端から見ればまるで親しい友人のようではないか、と。
そんな考えがぽんっと頭に浮かんで、彼女は違う違うと左右に勢いよく振った。
その動作に、二つにわけて結んだ縦巻きロールが激しく無軌道に動き、イルルは楽しそうな、シュリはびっくりした顔をしているのだが、己の思考に沈み込んでいるエリザベスは全く気付かない。
しばらくして、頭を振ることに疲れた彼女は再び動きを止め、思った。
一体全体、なにがどう作用してこういう事態に陥ったのか。
自分で考えて選択した結果のはずなのに、いまいち良く分からない、と。
そして、場面は最初へつながる。
エリザベスは首を傾げるものの、今更やっぱり行かないというのもばつが悪いので、とりあえずそのまま沈黙した。
そうこうしているうちに、馬車は徐々にそのスピードを落とし、目的地に付いた馬車はやがて静かにその動きを止める。
ほとんど振動を感じさせない馬車の操縦に、ルバーノ家の御者は中々やりますわね、と密かに感心していると、御者が馬車の扉を開けて穏やかな声音で目的地への到着を告げ降車を促した。
それに頷いたシュリナスカ・ルバーノがイルルを抱いたまま、まず馬車の外へと向かう。
そして、イルルを馬車の外へ下ろすと、彼は振り向いてエリザベスに向かって、その手を伸ばした。
彼女をエスコートするように。
「さ、エリザベス。うちに着いたよ?」
そう言って微笑む彼の手に、そっと自分の手を乗せてみる。
彼は、遠慮がちなエリザベスの手をきゅっと握って、エリザベスが馬車を降りるまで、とても素敵にエスコートしてくれた。
そんな出来事に、小さな胸がほんの少しドキドキした事は、彼女だけの秘密である。
ちなみに、少女らしいトキメキを押し隠そうと、あえて表情を押し隠したエリザベスを見て、
(うわぁ。すっごい仏頂面だなぁ……エリザベス、やっぱり僕のこと、好きじゃないよねぇ。イルルのせいで変な誤解もされてるし……うん、名誉挽回の為に、頑張ろう……ブラッシング)
シュリはそんな風な感想を抱き、見当違いな決意をこっそり固めていたりするのだが、エリザベスはそんなこと知りようがない。
その勘違いからの渾身のブラッシングで、エリザベスはある意味シュリなしではいられない体にされてしまうのだが、それはもう少し後の話である。
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