SS ただいまの翌日は大忙し!?④

19:00pm


 今日一日、色々あったが取りあえず夕飯は特に問題なく過ごすことが出来た。まあ、常識の範囲の家族団らんという感じで。

 そして、夕食後。

 シュリはミフィーと一緒に部屋でのんびりしている。普段、親子二人で過ごしている部屋には、なぜかヴィオラの姿もあった。

 今晩は、どうやら三人で寝ましょうという事らしい。


 本当はエルジャも乱入しかかったのだが、ミフィーからお父さんは別の部屋でとやんわり断られ、しょんぼりしながら退出したのは少し前のこと。

 今は母と娘と、更にその娘の息子の三人で、寝る前のおしゃべりに興じていた。

 まあ、それなりに楽しそうに話すミフィーとヴィオラの様子をシュリがにこにこ見守るという構図がほとんどだったが。


 ミフィーとヴィオラが別れて暮らすようになってからのお互いの話から始まり、今回のシュリとの旅の話になり、そして最後はなぜかシュリの為の着ぐるみコレクションの話になった。

 魔法袋から、シュリの着ぐるみを次から次へと取り出して、得意げにミフィーに披露するヴィオラ。

 シュリはそのあまりの量に、いつの間にこんなに集めてたんだと目をまあるくした。



 「あ、えっと、これはね?あれよ、あれ!あの服屋のおじさんが、どうしてももらってくれっていうから、仕方なくよ。仕方なく」


 「仕方なく、ねぇ?」


 「うんうん、そうそう。仕方なかったのよ。まあ~、ある意味、人助けよね、人助け。うん。おじさん、すごく喜んでたし??」


 「ふうん?人助けね~。まあ、それはいいんだけど、おばー様??」


 「ん?なぁに??」


 「何で僕は、問答無用で服を着替えさせられてるのかな~??」


 「ん~?だって、可愛いし」


 「えーっと、理由になってないよね?それ」


 「そお?まあ、いいじゃない。ミフィーだって見たいわよね??着ぐるみ姿の可愛いシュリ」


 「え?そっ、そうね~。ちょっと、見てみたいかも……」


 「……まあ、母様がそう言うなら」



 ミフィーがほんのりほっぺたを染めてそう言うので、シュリは渋々頷いた。

 そんなシュリを見て、ヴィオラが面白そうに笑う。



 「シュリって、ミフィーに甘いわよねぇ」


 「だって、大事な母様だし」


 「ふぅ~ん?ごちそうさま」


 「えっと、僕、おばー様にもたいがい甘いと思うんだけど?」


 「あれ?そう??」


 「そうだよ!甘々だよ!?」


 「甘々……そっかぁ……ふぅ~ん。甘々、かぁ」



 十分おばー様も甘やかしてるでしょ?とシュリが唇を尖らせれば、ヴィオラはなんだか嬉しそうにニマニマと笑いながら、まず手始めにあのグリフォンの着ぐるみをシュリに着させた。

 その着ぐるみは、色々あって結構ぼろぼろだったはずだが、その名残はどこにも見あたらない。

 むしろ色々な場所がバージョンアップしてる気がした。羽の部分のふあふあ感だとか、生地の肌触りだとか。



 「これ、ぼろぼろだったよね??」


 「ん?ああ、これね。服屋のおじさんの所に持って行ったら、気合いを入れて直してくれたわよ??あの坊ちゃんが心地よく身につけられるようにってって、高い生地も大盤振る舞いで」


 「そ、そう……」



 なんだか、一度会っただけの服屋のおじさんの良い笑顔が目に浮かぶようだった。

 ボタンを上までしっかりとめてフードをかぶせて、可愛らしいグリフォンの出来上がりに、ヴィオラは満足そうにむふんと鼻を鳴らす。

 シュリは着心地の良い着ぐるみに目を細めつつ、ちらりとミフィーの様子を見た。

 ミフィーは、なんというか……目をキラキラさせていた。ほっぺたをほんのり赤くして。



 「か、母様?う、嬉しそうだね、なんだか」


 「シュリ~~~?すっごく、すっごく、すっごく、すっご~~~く……」


 「う、うん?」


 「可愛いわね~~~~」


 「あ、ありがと?」


 「これはなにかしら??鳥さん??」


 「え、えっと、グリフォンだよ?たぶん」


 「グリフォン……ああ、シェスタね!!」



 ミフィーはそう言って笑い、シュリを抱き上げるとそのもふもふに頬をすり寄せた。

 シュリはおとなしくその愛情表現を受け入れて、仕方ないなぁと笑う。

 ヴィオラもそんな二人を微笑ましそうに眺め、次にシュリに着せるための着ぐるみを引っ張り出すのだった。



 「次はこれ!どう??」



 取り出したのは、クマさんの着ぐるみ。

 それを着ていたシュリが子グマに間違えられて親グマに誘拐された、曰く付きの着ぐるみだ。



 「クマさんね~!それもシュリに似合いそうだわ」


 「あ~、それかぁ」



 ミフィーとシュリの声が重なり、二人は顔を見合わせた。



 「えっと、クマさん、シュリはイヤかしら??」


 「ううん。母様が見たいなら着るよ?」


 「いいの?」


 「うん」


 「シュリ……」


 「母様……」


 「あ~、はいはい。ごちそうさま。さ、シュリ、こっちにおいで。着替えるわよ」


 「はぁい」



 見つめ合う親子を邪魔するように、ヴィオラが割り込んでシュリをかっさらっていく。

 そして、さっさとグリフォンの着ぐるみを引っ剥がすと、クマの着ぐるみにフォームチェンジさせ、腕を組んで満足そうにうんうんと頷いた。



 「あ~、やっぱりクマさんは王道よね~。クマのお母さんが連れ帰りたくなる気持ちも、分からないでもないわ……」

 ご満悦なヴィオラを尻目に、シュリはしっかりフードもかぶった愛らしいクマさん姿で、きゅるんっと母親の顔を見上げた。

 そのあまりの愛らしさに、ミフィーが再びめろめろと崩れ落ちる。



 「クマさん~~~~!!!かっ、かっ、可愛すぎるぅぅぅ!!!」



 どうやら、ツボったようだ。

 むぎゅうっとだきつぶされ、まふまふされながら、シュリはふっと遠い目をした。

 母様が喜んでくれるのは良いけど、これっていつまでつづくんだろうなぁ、と軽い倦怠感を漂わせながら。

 だが、本当に大変なのは、この後だった。



 「さ~、シュリ。次よ、次~~」



 いつまでも子グマシュリを離そうとしないミフィーの腕の中からシュリを奪還したヴィオラが、クマぐるみをすぽんっと熟練の技ではぎ取る。

 再びすっぽんぽんになったシュリは、諦め混じりの眼差しでヴィオラを見上げる。次はなにを着ればいいのさ?と。

 そんなシュリを見つめ返して、ヴィオラがにまぁっと笑った。



 「お母さん?次はどうする??狼さんも可愛いし、子豚ちゃんも可愛いし。えっと、これはなにかしら??ドラゴン??……うーん、いっぱいあって迷っちゃう」


 「猫よ!!」



 ミフィーの問いかけに、ヴィオラはびしっと答えた。はじめから決めてましたと言わんばかりに。



 「猫ちゃんかぁ。猫ちゃんもいいわねぇ~。きっとすごく可愛いわよね~~」


 「すごく可愛いどころじゃないわよ?悶絶するわ!!」


 「悶絶……?そ、そこまで、なの?」


 「ええ!!」



 どきっぱりと頷いたヴィオラの目が、シュリをロックオンしていた。ねらった獲物を逃がさない、猛禽類のような目で。



 「ね、シュリ。アレ、やって??」


 「あ、あれ……って??」



 おねだりの眼差しでせまるヴィオラから目をそらし、一応とぼける。

 ヴィオラの求めるところは、なんとなく分かっちゃった気がしたが。



 「もう~、なにとぼけてるのよ!アレよ、アレ!!ほら、着ぐるみもすっごく可愛いんだけど、やっぱり生も捨てがたいというか……ね?わかるでしょ??」



 妙齢の女の人が、軽々しく生とか言っちゃいけません!って叱った方がいいかなぁと思いつつ、ため息。



 (もうっ!!ヴィオラは可愛い孫の秘密を守ろうって気がないの!?いや、ないかぁ……だって、ヴィオラだもんなぁ。仕方ないのかぁ……)



 そんな風にヴィオラにも甘々なシュリは、困り顔のままちらりとミフィーを見上げる。

 アレ、とか、生、とか言われても何のことかまるで分からないのだろう。



 「アレ??生???で、でも、猫ちゃんなのよねぇ??アレで生な猫って……どんな感じなんだろう???」



 頭上にはてなマークを飛ばしたまま、ミフィーが首を傾げている。

 シュリはそんな母親の顔を見上げて、心を決める。

 ヴィオラに隠すつもりが無い以上、とぼけてても結局バラされるだろうと諦め混じりの心境で。



 「……わかったよ。仕方ないなぁ」


 「やったぁ!!シュリ、大好き~~」



 すっぽんぽんのまま、ヴィオラに横から抱きつかれ、これでもかとばかりにほっぺへのすりすり攻撃。

 そんな若干暴走気味のヴィオラの頭を、



 「あ~、はいはい……」



 となだめるようにぽんぽんと叩き、



 「母様?」


 「ん~?なぁに??」


 「これから僕のスキルを使うけど、びっくりしないで??あと、このことは出来るだけ秘密にしてくれると嬉しいな」



 そうじゃないと、僕の身が持たないし……ぼそりと続ける息子を、ミフィーはちょっぴり不思議そうに見てから、



 「ん、わかったわ。シュリが秘密にして欲しいなら、ちゃんと秘密にする」



 こくんと素直に頷いた。



 「ありがとう、母様」



 にっこり微笑んだシュリを愛おしそうに見つめてから、ミフィーはえへんと若干乏しい胸を張る。



 「当然だわ!!だって、私はシュリの母様だもの。シュリのお願いなら、何でも聞くし、約束だって守るわよ」



 そんなミフィーの可愛らしくも立派な宣言を聞き、シュリはまだ自分にくっついたままのヴィオラをじとっと見つめる。

 その視線を受けたヴィオラが、きょとんと首を傾げた。



 「なぁに??」


 「……なんでもない。おばー様は、それでいいや」


 「うん?そう??」


 「賢くて分別のあるおばー様なんて、もうおばー様じゃ無いもんね」


 「えっと、それ、ほめてるの、かな??」


 「もちろん、ほめてるに決まってるでしょ?」



 いやだなぁ、とシュリが笑う。なぁんだ、とヴィオラも笑った。



 「お母さん……賢くなくて分別が無いっていわれたのに、それでいいわけ??」


 「いいの、いいの。だって、シュリはほめ言葉だって言ってるし」



 ミフィーの言葉にも動じず、にっこにっこと笑うヴィオラが可愛く思えて、シュリは思わず手を伸ばしてヴィオラの頭を撫で撫でと撫で回した。



 「ん~??ご褒美??」



 何のご褒美だと思ってるんだろうと思わないでもないが、シュリはクスリと笑って、肯定する。



 「そうだね~。ご褒美、かもねぇ」



 シュリもにこにこして、ヴィオラもにこにこして、ミフィーは若干呆れた眼差しでそんな二人の様子を見守る。

 そうして、しばらく馬鹿可愛いおばー様を堪能した後、シュリは満を持して[猫耳]のスキルを披露した。

 その結果、ミフィーが熱狂し、もちろんヴィオラも歓喜して、二人が寝付くまでありとあらゆるサービスをしつくす羽目になるシュリなのだった。

 もちろん、それなりの常識の範囲内での話、である。

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