第百六十七話 昔から動物には好かれる方でした~タマの場合~

 ポチを背後にかばったまま、シュリは一歩も引かずにイルルと対峙する。

 イルルは、そんなシュリの、上位古龍ハイ・エンシェント・ドラゴンという神にも等しい存在をまるで敬わない態度にぐぬぬっと唸り、残ったもう一匹のペット、タマに命令を下した。



 「タマっ!!あやつは生意気なのじゃ!!!妾のためにいっちょ死ぬほど怖がらせてやるのじゃ!!!」



 そんなイルルの言葉を受け、地面に寝そべってうとうとしていたタマがびくっとして目を開ける。

 そして、迷惑そうにイルルを見上げ、くあっとあくびを一つ。



 「ほれっ、タマ!!お主の強さをあやつに見せつけてやるのじゃ!!!」



 え~、面倒くさい、とばかりにのそのそと起きあがるタマ。

 そして、やれやれと言わんばかりに、シュリの方へと向き直った。



 「タマ!タマも早く降参して、シュリ様のペットになるといいのです。シュリ様は、とってもとーっても優しいのです!!」



 シュリの後ろから、ポチがタマを勧誘する。

 そんなポチを、え~、どうしよっかなぁと言うように見つめるタマ。



 「な、なんて事を言うのじゃ、ポチ!!怠け者のタマは、妾との相性は抜群なのじゃ!!の?タマ。いつも一緒にお昼寝しておるもんの??」



 二匹のちょっぴり通じ合っているような様子を見て、イルルが慌てたように声を上げる。

 だが、ポチはそんなイルルを半眼で見つめながら、



 「え~?でも、もう色々お世話をしてあげてたポチが居なくなるんですから、イルル様、今度はきっとタマをこき使うに決まっているです」



 それを聞いたタマが、くわっと目を見開いて、マジか!?それ!?、と言うようにイルルを振り返る。

 慌てたのはイルルだ。

 わたわたしながら、ぶんぶんと首を横にふって、そんなことはないとアピールをする。

 が、ポチが更に追い打ちをかけた。



 「ポチは知ってます。イルル様はご自身ではなんにも出来ない子なのです。その点、シュリ様は……」



 そこで言葉を切ったポチは、新たな主をうっとり見つめ、もう我慢できないとばかりにむぎゅうぅぅっと抱きしめる。



 「こぉんなに可愛くて、もの凄くいい匂いがするんですよぅ?優しいし、きっとポチ達にご飯をたかったりしないです」


 「ポチにご飯をたかる?なにいってるのさ、ポチ。ポチは僕の可愛いペットなんだから、ポチのご飯の面倒くらいちゃんとみるに決まってるでしょ?」


 「ほぉら、タマ!!聞きましたか??シュリ様のすばらしいお言葉を!!こんな甲斐性がイルル様にあると思いますか!?」



 ポチの言葉に、タマがうんうんと頷く。

 イルルを見上げ、あ~、確かに甲斐性なんて皆無だわ、と。



 「な、なに言うのじゃ!?わ、妾だって可愛いし、いい匂いがするじゃろ?甲斐性だって、さ、探してみればどこかにあるはずじゃ!!……多分」



 探さなきゃ見つからない甲斐性なんて、最初から無いのと一緒じゃないの?と、つっこみたい気持ちを抑えて、シュリその視線をイルルの傍らにいるタマへと移した。

 タマは、大きな大きなお狐様だった。

 迫力があってかっこよくて綺麗。

 一般人からしたら畏怖すべき存在で、恐怖の対象でしかないのだが、シュリの目に映るタマはものすごく可愛い存在でしかない。

 金茶色の、さらさらの毛並みはすごくさわり心地が良さそう。

 ふわさらの、もっふりしたシッポはたしか九本あるはずで、抱きしめて眠ったらそれはもう天にも昇る気持ちになるに違いない。

 あそこのダメそうなドラゴンは、いい飼い主と言うにはほど遠そうだし、僕の所に来てくれないかなぁ、とそんな気持ちを込めて見つめ続けていると、タマがちらりとこっちをみた。

 シュリに興味を抱いたように、シュリをこっそり値踏みするように。

 そして、ソロリソロリと近づいてきた。

 イルルにとっては残念なことに、ポチと同様、どうみてもシュリに襲いかかるという感じではない。

 シュリもまた、ポチの腕のから抜け出して、タマの方へ近寄っていく。


 タマの目が、じっとシュリを見つめていた。

 まだ完全に警戒を解いてはいない瞳。だが、その奥に隠しきれないシュリへの好奇心を見て取って、シュリはその好奇心を満たしてあげようじゃないかと、自分より遙かに大きなタマの前で足を止めた。

 目の前にあるのはタマの大きな口元。

 大きな大きなその口は、きっとシュリを一飲みに出来るに違いない。

 だが、シュリは怯えることなくタマをじっと見上げた。

 そして、好きにしていいよと促すような微笑みを浮かべる。


 タマは自分をちっとも怖がらないシュリを不思議そうに見つめ、好奇心に負けたようにその鼻先をシュリへと近づけた。

 そして、ちょっと遠慮がちにシュリの匂いをふんふんとかぐ。

 シュリはくすぐったそうに首をすくめつつも、動かずにじっと、タマの好きなようにさせた。


 だが、よほどシュリの匂いが気に入ったのか、タマの匂いチェックは中々終わらず、それどころかどんどんアグレッシブになっていく。

 匂いをかぐのに夢中になったタマの鼻先に押され、シュリがこてんと仰向けに倒れると、上にのしかかるようにして更に匂いをかいできた。

 そのあまりの圧力に、シュリは目を白黒させる。


 もちろん、タマに悪気は無いのは分かってる。

 だが、その鼻先がどんどん服の下に潜り込んでくるのはどうしたらいいのか。

 今日のシュリは、着ぐるみではなくごく普通の上下を着ているため、上に着ている服がお腹の辺りからどんどんまくり上げられていく。

 これには流石に困ってしまった。



 (さて、どうしよう??)



 絶賛タマの匂いチェックを受け中のシュリは、これからどうしたものかと首を傾げる。

 タマは友好的だが、[獣っ娘テイム]が発動しない。

 きっと発動には条件があるのだろう。



 (これは、あれかな??相手を屈服させないとダメとか、そういう??)



 確かにポチの時は、手加減していたとはいえ、一応殴り飛ばして降参のポーズを取らせた後だった。

 それに、ゲームやら何かでも大概は倒した敵が起きあがってきてから仲間にする流れだったようにも思う。



 (ってことは、タマを仲間にするためにはそう言う流れを作り出さないといけないわけか……)



 面倒だけど、仕方ない。

 いっちょやるか、とシュリは調子に乗って匂いを嗅ぎまくっているタマをぐいぐいと押しのけた。

 押しのけた上で立ち上がり、不満そうな顔のタマを見上げて、



 「タマ、ちょっとごめんね?」



 と一応断りを入れてから、その横面に軽めの跳び蹴りを食らわせた。

 軽めとはいえ、シュリの蹴りを受けたタマは横に吹っ飛び、べしょんと地面に倒れ伏す。

 慌てて起きあがろうとしたタマに、すかさずシュリの声が飛んだ。



 「タマ!起きるな。そのまま伏せ!!」



 その言葉に、起きあがろうとしたタマがぴたりと動きを止める。

 そして、シュリの命じるままにお行儀よく伏せの姿勢をとった。

 シュリはそんなタマを見つめ、満足そうに微笑んだ。

 そしてすぐ側に立つと、誉めるようにその頭を優しく撫でてあげる。蹴り飛ばしたところはお詫びもかねて特に丁寧に。

 タマが気持ちよさそうに目を細めた、その時だった。

 シュリの目の前にぴろりろりん、とウィンドウが現れる。



・九尾の狐が仲間になりたそうにこっちを見ています。仲間にしますか?YES/NO



 待ちわびていた選択肢に、シュリはすかさず指を伸ばしてYESを選択する。



 (よかったぁ、出てきて。あんまり出てこないから、もしかして、タマは男の子なんじゃないかと、ちょっぴり不安になっちゃった)



 そんなことを思いつつ、ほっと安堵の吐息を漏らしながら。



・新たな眷属・九尾の狐を手に入れました。名前はタマです。名前を変えますか?YES/NO



 次のウィンドウは、もちろんNOで。

 目の前の可愛らしい九本しっぽの狐さんは、シュリの中でもうすっかりタマと言う名前で定着していたから。

 そして、更に次のウィンドウ。


 

・タマの獣っ娘メイキングを開始します。それぞれの選択肢の中から一つずつ選択して、最後に完了のボタンを押してください。


 身長→特大・大・中・小・極小


 おっぱい→特大・大・中・小・極小



 ポチの時はあんまり悩まず決めてしまったが、今回はどうしようかと、シュリはほんの少しだけ考え込む。



 (ポチは大&大にしたから、タマは普通でいいかなぁ……)



 適当に考えて、ポチポチっと選択肢を押そうと思ったが、不意に知的好奇心が頭をもたげてきた。

 特大のおっぱいって、果たしてどんなくらいのものなんだろうか、と。

 シュリはちらりとポチの方を伺う。

 ポチの大おっぱいは、ざっと見て、おそらくシュリの乳母であるマチルダに近いものがあると思う。

 と、いうことは、だ。

 特大おっぱいは、シュリが今までに見た中で一番大きかったマチルダのものを越えるものになる。

 それはいったい、どんなものなのだろうか。


 そんな、未知への好奇心から、シュリの手はふらふらと特大を選択していた。

 だが、身長も特大となるとちょっぴりウザい。なので、結果として。

 身長・普通&おっぱい・特大……で最終決定をした。

 そして、最後のウィンドウが浮かび上がる。

 シュリは特に手を加えることなく終了ボタンを押した。


 シュリの選択と共にぱっとウィンドウは消え、代わりに現れたのは、きつめの顔立ちだが少し眠たそうにぽやーっとしているポチよりやや背が低めの少女、というか女性。

 ポチより少し大人っぽく見えるのは、長くのばしたストレートの金茶色の髪のせいなのか、それとも着ている服のせいなのか。

 ポチはちょっぴり癖毛のショートカットに、動きやすそうなトップスと短パンという格好だったが、タマの服装は何故か和服だった。

 微妙に着崩した感じの着物姿のタマは、そのボディが生み出す色気がダダ漏れだった。特に、その胸元がやばい。

 シュリの知的好奇心のいたずらで特大に設定された暴力的なまでの果実は、今にも着物からこぼれ落ちてしまいそうである。



 (あ~……これは色々選択肢をまずったかなぁ)



 胸の大きさも早まったが、服装くらいは検討すべきだった、と思わないでもないが、ここまで来たらやり直しはきかないのである。

 シュリは、あとでおっきな胸があんなに強調されない服を何か見繕おうと思いつつ、無事にシュリの眷属ペットに、そして獣っ娘になったタマを見上げて微笑みかけた。



 「シュリ様……?」


 「ん?なぁに??タマ」


 「タマは、三食昼寝付きを熱烈希望する……」



 眷属になったタマの最初の言葉はそれだった。ポチとはえらい違いである。

 だが、シュリは怒ることなくにっこりと笑って頷く。

 ペットとは、それぞれに個性があるから可愛いのである。みんな同じじゃ面白くも何ともない。

 それが、シュリのペットに関する持論であった。

 シュリは、タマのそんなぽややんとしたところも可愛いなぁと思いつつ、



 「いいよ。僕も一緒にお昼寝させてくれる?タマのシッポを抱っこして寝たいんだ」


 「タマの、シッポ?」


 「うん。すごく綺麗で気持ちよさそうだから……ダメ?」



 可愛く首を傾げたシュリをぽや~っと見つめながら、



 「えっと、ダメじゃない、です。タマは、シュリ様になら、何をされても平気」



 そう言って、こっくりと頷いてくれた。

 やったぁと喜ぶシュリを、タマがそっと抱き上げる。とっても大事そうに。



 「でも、たまにはタマも、シュリ様を抱っこして寝たい」


 「僕を抱っこして??」


 「ダメ?」



 きゅうっと首を傾げてタマが問う。

 すかさず、そんなことないよ、とシュリが首を振って答えた。



 「じゃあ、交代で。それならいいよね?」


 「うん」



 シュリの提案に、こっくりと頷くタマ。

 それを離れた所から見ていたポチがあわてて駆け寄ってくる。



 「うわ~ん!二人だけでお昼寝の約束はずるいですぅ~~!!ポチも、ポチも仲間に入れて下さい~~~」



 そう叫びながらポチは、シュリを抱いたままのタマに抱きついた。

 大おっぱいと特大おっぱい、その二つにむぎゅむぎゅと押しつぶされながら、シュリは思う。

 お昼寝はおっぱいに気をつけないといけないな、と。



 (おっぱいで窒息なんて間抜けな死因は出来たら避けたいよなぁ……)



 と、シュリは割りと真剣におっぱい対策に頭を悩ませるのだった。

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