第21話 ナイ君の日常2

 星の智慧ちえ派極東支部。東京新宿歌舞伎町の

雑居ビル街にそれはあった。様々多様な存在

が雑居している街なので彼らのような存在す

らも受け入れられてしまうことが都合がよか

ったからだ。


 ナイ神父がこの建物を訪れるのはこれで5

度目だった。開設以来つい最近までは一度も

来たことがなかったのだが、ここ1年ちょっ

と間で続けて5度も訪れていた。ナイ神父が

訪れたとき、支部長である新城俊彦は無聊を

託っていた。


 の復活は阻止されたし

の封印も解かれなかった。ナイ神父の思

惑通りに事は進んでいる。神父はこのような

ことを繰返し積み重ねることに意味がある、

という。新城には理解できないことだった。


 ナイ神父を迎えたのは支部長の新城と火野

将兵、風間真知子の3人だった。極東支部の

スタッフは極めて少ない。但し、何か事が起

こるとどこからか湧いて出るように人が集ま

った。常時事務所のある3階建てのビルに居

るのはこの3人と電話番でしかない女性が1

人の計4名だった。


「神父、この度はいかような御用でお立ち寄

りされましたか?」


「3人だけしか居ないのか。クリストファー

はどうした?」


「彼は神父のご命令でイギリスに居ると聞い

ておりますが。」


「おお、そうであった。よし、火野、お前で

いい、付いてくるのだ。」


「わかりました。真知子は?」


「いや、1人で十分だ。財団に行く

だけだからな。」


「なんと神父、財団に行かれるので

すか?」


「そうだが、何か都合が悪いことでもあるの

か?」


「いえ、神父がそう仰るのなら私がとやかく

言うことはありませんが、お気を付けて。」


「何も気を付けるような事はないぞ。今回は

向こうにとっても協力せざるを得ない話だか

らな。」


 ナイ神父は火野と連れ立って同じ新宿にあ

財団に向かった。連れが居るので

いきなり相手の事務所に現れる訳にはいかな

かった。高層ビルの一角に財団極東

支部はあった。


「我は星の智慧ちえ派のナイ神父という者だ。こ

こに綾野と言う男が居るはずだか。」


 ドアを入るとすぐに受付があった。そこで

そう告げると受付の女性が慌てふためいた。

ナイ神父という存在が何を表しているのかを

知っているからだ。


「ちょ、っちょっとお待ちください。すっ、

すぐに確認させていただきますので。アポイ

ントメントはお取ですか?」


「それは取っていないな。ただ、会ってくれ

ると思うぞ。早々に取次ぐがよい。」


 受付からすぐに綾野祐介に連絡が入った。

これも慌てて中から綾野が出て来た。相手が

相手なので迂闊に内部に案内するわけにもい

かない。


「おお、確かにナイ神父。ご無沙汰しており

ます。私かここに居ることをよくご存じでし

たね。」


「それくらいのことは知っておる。話がある

のだ、内々でな。」


「判りました。ここでは何ですので、こちら

へ。」


 仕方なしに綾野は応接室に通すことにした。

がその気になれば、ど

こで話をしても一緒だと思ったのだ。


「私かお聞きするだけでよろしいのでしょう

か?支部長も呼びましょうか?ちょうど在席

していますが。」


「そうだな、呼んでもらおうか。」


「今、ここの支部長は私をここに入れてくれ

たマリア=ディレーシアという女性が務めて

おります。すぐに呼びますね。」


 部屋の中の内線で呼ぶとすぐにマリアは現

れた。


「はじめまして、私かここの支部長のマリア

=ディレーシアと申します。」


 ナイ神父の前だ。さすがのマリアも緊張を

隠せなかった。


「我が星の智慧ちえ派のナイだ。そしてこいつは

火野将兵という。」


「火野さんも初めまして、ですね。綾野さん

も初対面ですか。それで今日のご訪問はいか

がされました?」


 ナイ神父はと高校生の七野修太

郎が入れ替わっていることを淡々と告げた。

誇張も感情もなかった。それがさらに事の重

大さを物語っていた。


「まさか、そんなことが。何が原因なのでし

ょう?」


「判らん。原因も元に戻す方法も今の所全く

判らんのだ。それでに行ってきた。」


「あの大図書館ですか。」


「そうだ。何か策が見つかるかと思ってな。

そこにマーク=シュリュズベリィという人間

が居たので事情を説明したうえで協力を依頼

してきた。」


「マークが今に?ラバン博士はどう

したのでしょう。」


「なんだ、知らんのか。ラバンは死んだそう

だ。それで代わりにそのマークとやらが

に来たらしい。」


「なるほど。事が事だけに彼も協力すること

は吝かではなかったでしょう。それで私たち

にも協力しろ、というお話なのですね。」


「その通りだ。事はあまりにも重大だ。対応

を間違うとそのまま宇宙の崩壊に繋がりかね

ん。この件を解決することは双方にとっても

有意義だと思うが、どうだ?」


「確かにそれは間違いなさそうですね。それ

にこんな話で私どもを騙そうとされても、そ

ちらにとって意味が無さそうに思えます。判

りました、財団としても全面的に協力させて

いただきます。綾野さんを担当として事に当

たってもらいましょう、よろしいですね?」


「もちろん。私で役に立つことならば。」


「こちらの担当はこの火野を当てることにす

る。我はフリーハンドで動き回るので連係は

任せる。よろしく頼む。我が主が入っておら

れる七野修太郎の身体の方は杉江統一が付い

ているので、そちらとも連絡を取るようにし

てもらいたい。」


「杉江君が?彼はそんなところに居たのです

ね。大学を辞めてから連絡が取れなくなって

いたので心配していたのですが。そうですか、

無事でいるならよかった。ところで彼は一体

どんな存在なのですか?普通の人間じゃない

事は間違いないと思いますが。」


「それは軽々しく詮索するようなことではな

い。ただ我があるじを任せても問題ない存在であ

ることは安心してもらっていいだろう。」


「判りました。なんとか早急に解決できるよ

う最善を尽くしましょう。」


 こうして本来ならあり得ない共闘が成立し

たのだった。

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