七泊目

sentence 1

第081話:ミヤの強さと……

 たぶん、オレはここ最近で一番がんばった。

 いや、まじで。

 人って、こんなにがんばれるもんなんだなと思った。


(でも、さすがにそろそろヤバイ……)


 食事休憩とトイレ休憩以外、ずっとアクセルを踏みっぱなしだ。

 ちなみに食事は時間がないので、みんなカップラーメンで済ます。

 しかも、昼に食べたっきりだ。


 道は割合、まともだった。

 途中から街道に入ることができ、そこではかなりの速度を出すことができた。

 数台、馬車と行き違ったが、きっとアウトランナーの姿に度肝を抜かれたことだろう。

 なにしろ、時速80~100キロで走ってくる、巨大な乗り物など見たことがないはずだ。

 もちろん、近くをすれ違う時は、スピードを落としたけどね。


 ともかく、できる限りスピードを出した。

 そのおかげか、日が落ちてからしばらくした頃には、アズの村の手前にある森にたどりついていた。


 日が落ちてからの森は危険だと聞いていたが、アズが「大丈夫」と太鼓判を押すのでそのまま突っこんだ。

 森の道は本当にギリギリで、さらに視界は最悪だ。

 まさに一寸先は闇という感じで、ライトの照射範囲だけが視界である。

 突然、何かが横から飛び出てきたりしても絶対に反応できない。

 スピードをあげずに、オレは慎重に運転する。


 ちなみに、この森には本来、魔物がいないらしい。

 清浄な魔力で満ちているからという理由らしいが、まあそれはいい。

 問題は、あの預言書に「魔物が襲ってくる」という記述があったということだ。

 もしかしたら、すでにここに魔物が入りこんでいるかもしれない。


 その不安のためなのか、アズは今、後ろで大人の姿になっていた。

 そして、車を守る結界を張ってくれているらしい。

 だが、オレはその様子を見ない。

 絶対に見ないようにする。

 もちろん、ミヤも危険だから助手席側に座らせて見ないように注意した。


(まあ、見ないだけでは防ぎきれないんだけどね……)


 アズの魔法は、近くにいる物に強い刺激を与える。

 魔力に耐性がある人だと平気らしいのだが、オレやミヤには麻薬のような快感である。

 まあ、麻薬なんてやったことがないので、あくまで喩えだけど。


 初めての魔法体験であるミヤも、さすがにこの刺激には勝てなかった。

 はしゃぐどころか、両手で顔を押さえながら、太股を時々もぞもぞさせて「はぅはぅ」と1人で悶えている。


(なんだ、この生殺し状態は……)


 だが、こればかりは仕方がない。

 今、魔物に出会って目的を達成できなくなるわけにはいかないのだ。

 オレたちは、そのままなんとか理性を保って耐えていった。


 その頑張りもあり、村に着くことはできた。

 そして、またアズの両親に怖いぐらい感謝されつつ、「でも、結婚の話は別」と釘を刺された。

 だが、今はそれどころではない。

 大事なことを早く伝えなければならない。

 すぐに、アズの両親と秘密の会合することになった。


「……なんと。アウト様は、予言者であられたか!」


 アズパパには、まずオレが予言者であると伝えた。

 アズとミヤの3人で話した結果である。

 理由は、2つある。


 1つは、信憑性だ。

 どこかのウサギネコ娘が書いたノートにそう書いてあったから……と言っても、まったく信憑性がないだろう。

 それならば、「神の世界からきた予言者の言葉」の方が何倍も信憑性が高くなる。

 しかも、神の世界からきたという証拠も、アウトランナーの存在で十分信用されている。


 もう1つは、「それで成功するとわかっている」からだ。

 オレは将来、この世界で「予言者」と呼ばれることになる。

 そのことは、この預言書たる日記にも記載されていた。

 今考えれば、ミューの村で予言者と呼ばれていたのは、ミューではなく、オレだったのだろう。


「それはいつのことなのですか……」


「たぶん、明後日の夜です」


 オレたちは知っていることを告げた。

 魔物を操りものが襲ってくること。

 そま目的は何なのかということ。

 そして、それが「誰」の企みなのかということ。


 アズの両親は、まさに半信半疑という顔だった。

 しかし、オレの説明でひとつの疑問が解けてしまう。

 それはつまり、「過去2回も、村の中にいたアズを外部の者が誘拐できたのはなぜだったのか」ということだ。


「まさか……わが腹心の【カスラ】が、裏で手引きしている……そんなことが……」


 もちろん、アズパパたちも内部の者の手引きは疑ったらしい。

 しかし、確たる証拠もなしに、長たる者が仲間を疑うわけにはいかなかった。

 悩んでそのことを相談した相手が、その腹心だというのだから始末が悪い。


「いや、しかし……信じられん!」


 アズの両親は、ほとんど苦悶というほどに顔を歪めていた。

 それは、そうであろう。

 アズによると、非常に人のよい人間らしく、彼女にも優しく接してくれていたそうなのだ。

 だから、預言書を後半まで見たアズでさえ、すぐには信じなかったぐらいだ。


「ただ、確かにカスラには動機がある。三姉妹のうち、我が家に残ったイータが跡継ぎ。だが、もしイータがいなくなれば、次に候補とあがりそうなのは魔力の強い奴の娘だ」


「そう言えば……」


 と、アズママが言葉を続ける。


「カスラのお嬢さん、魔法の勉強に行った聖典神国の貴族と恋仲になったけど、地位のない者だからと反対されたとか……」


「ま、まさか……娘のために地位が欲しくなったのか……」


「つーか、その理由は知りませんけど、その【カスラ】という人が、誘拐犯たちと手を組んだのはまちがいありません」


 話がなかなか進まないので、オレは残酷ながらも確定していることをダメ押しすることにする。


「誘拐犯達は、アズ……イータを売り払うことで大金を手に入れられる。カスラはイータを始末できる。イータを殺さなかったのは、せめてものカスラの情けだったのかもしれません」


 オレは、アズの顔を一瞥する。

 彼女の心情が心配になったのだ。

 しかし、彼女は思いのほか、しっかりと顔を上げていた。

 たぶん、ここにつくまでに心の整理はつけていたのだろう。

 本当に幼いのに、大人顔負けの心の強さだった。


「まあ、しかし、偶然にもイータは2回とも逃げだし、しかも2回ともオレのアウトランナーに拾われることになった。ただ、今回は途中で彼女をここに送り届ける途中に、誘拐犯達と鉢合わせしてしまった。なんとか逃げることはできましたけど、彼らにイータが無事であり村に戻ろうとしていたことを知られてしまったわけです」


「……だから、カスラは最終手段にでることにしたと?」


「たぶん、そういうことなんでしょう。村を襲わせる手引きをする。その前に、イータがいればイータをカスラが、奴らへの代金として確保しておく。そして、あなたたちアズゥラグロッタ家は殺してしまう」


「…………」


「でも、予言によると、そうなった時に誘拐犯達は、アズゥラグロッタ家の者だけではなく、村人の多くを殺し、イータ以外の娘さんも多数、誘拐していきます。カスラさんも殺され、その娘さんも誘拐されることになります」


「――なっ!? わしらは、これでも魔族だぞ! そんな簡単にはやられはせん!」


「でも、本当に魔力が強いのは、戦うことが基本的に禁じられている女性ですよね」


「なっ……なぜそれを……」


「それに本来は不意打ちですし、しかも雇われた魔獣使いはかなり強い者らしいですよ。ドラゴンを扱えるらしいです」


「ド……ドラゴンを操れるだと……」


 正直、魔獣使いのレベルなどオレにはよく分からなかった。

 ただ、ミヤも「ドラゴンを扱えなら、きっとお約束として高レベルだよ!」と言っていたので、そうなのだろう。


「……正直、頭が混乱しておる」


 アズパパが頭を抱えながら、素直に気持ちを吐露した。


「そもそも……やはり、わしにはカスラが裏切ったなど……信じられん……」


「なら、確かめてみませんか?」


 そして、ミヤが待ってましたとばかりに、とうとう切りだした。

 やめとけと忠告したのに、聞かなかったことだ。

 オレは、ミヤに預言書を見せるべきではなかったと本当に後悔する。


「ミヤが身代わりをやりますよ!」


 ミヤがアズになりすます作戦だ。

 まず、助かったアズが、感謝の印としてオレと急遽、結婚するという話を流す。

 村の風習で、結婚する娘は、禊ぎの儀式としてお清めされた一軒家で、たった一人で一晩過ごさなければならない。

 つまり、明日の夜が、カスラにとって誘拐の大チャンスとなるわけだ。

 だからと言って、アズが本当に囮になるのは危険すぎる。

 そこでミヤが身代わりをするのだ。


 この作戦は、預言書によると、犯人を現行犯逮捕でき、事前に敵の作戦を潰すことができる唯一の作戦だった。

 他の作戦に関しても、預言書には試した記録があったのだが、なぜかどれも失敗していた。

 タイムパラドックスというのが、オレにはどうも今ひとつ分からないが、この預言書にはいくつものオレの失敗談が記録されていたのだ。

 そしてオレは無意識に、これを羅針盤として、この時間の流れにアウトランナーでたどりついているらしい。


 もちろん、今のこのオレが、成功の歴史にいるとは限らないのだ。

 オレも無限にある可能性のうち、失敗した歴史の一つなのかもしれない。

 なにしろ、この作戦には、一つ重要な問題があるのだ。


「ミヤ……やっぱり、やめよーぜ」


 オレはミヤに何度か言った言葉をまたかける。


 この作戦の問題、それはミヤが大怪我をしてしまうことだった。


 しかも、けっこう深い傷で、九死に一生を得る羽目になるらしい。

 そのことは預言書の中で、未来のオレが強い強い後悔の念と共に書いていた。

 しかし、彼女が身代わりを行わず、アズ自身が囮になった場合、アズの誘拐は成功してしまい、その後に彼女と二度と会うことができなくなるらしい。

 それを知ったミヤは、ぜったに囮になると言いはったのだ。


「ミヤはアズちゃんと会ってまだ日が浅いけど……アズちゃんのこと、大好きで、また会いたいし、一緒にいろんなところ行きたのですよ」


 その言葉に、アズが思わず涙を溜めてミヤに抱きつく。


「まあ、痛い思いしても生きているみたいですし、なんとかなりますよ」


「……つーか、怖くないのかよ」


「いやぁ~、それは、まあ、怖いですね。でも、異世界に来たヒロインとしては頑張りどころじゃないですか!」


「…………」


 オレは自分がものすごくバカで恥ずかしい質問をしたことに気がついた。

 そして同時に、「なんでオレに、すげーチート能力とかないんだよ!」と自分の無力さが悔しくなった。


 結局、作戦は実行されることになった。

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