第080話:異世界に跳んだら預言書が光った。

「――きいいいぃぃぃぃたあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 オレはその声で目が覚めた。

 何の雄叫びかと思ったが、それはミヤの歓喜の声だった。


「異世界! 異世界! 異世界ですよ、異世界!!」


「言い過ぎだから……」


 斜めになっていた体をオレが起こすと同時に、横の方で眠っていたアズも目をこすりながら上半身を持ちあげた。


「おはようございます……」


「――はうっ!」


「――きゃっ!」


 アズの声に反応して、オレとミヤが奇妙な声と共に身もだえしてしまう。

 耳から入った途端、全身をぞわぞわとした快感が襲う声である。


「――!」


 アズは慌てて口を押さえるが、オレとミヤは少し腰砕け。


「今の……なんです?」


「アズはこっちで話すだけで魔力が発生するっていっただろう。今のがその効果。だから、こっちでは気軽に話せないんだよ」


「な、なるほど……。これは危険ですね」


 オレはそこまで会話して確認事項を思いだす。


「アズ、そう言えば、ミヤの言葉はわかるか?」


 すぐさまアズは、コクコクとうなずいた。

 どうやら言語変換の効果は、ミヤにもついているらしい。

 それを確認し終わると、オレは窓の外を眺めた。

 ミヤがすっかり一つシェードを外していたのだが、そこから見える風景は大きな岩と荒れた大地だ。


「……なんか、想像していたファンタジー世界と違いますね」


 ミヤも一緒になって覗きながら呟いたので、オレは逆に聞いてみる。


「どんなの想像していたんだよ」


「う~ん……やはり、森ですかね」


「森もあるけど、ここはたぶん、アズと元の世界に跳んだ場所だ」


 オレが同意を求めるためにアズを見ると、アズもコクリとうなずいた。

 つまり、アズの誘導は少なくとも場所に関しては上手く行っていたようだ。

 あとは時間である。


「まだ太陽は真上っぽいな……」


 オレはシェードをめくりながら、周りの様子をうかがったが人影はないようだった。

 アズを見ると、俺の意図を汲んでコクリとうなずいてくれたので、オレは外にでることにした。


「ミヤは待ってろ」


「えー! ミヤも偉大な一歩を踏ませてくださいよぉ~」


「踏ませてやるけど、もっと安全なところに言ってからな」


 オレは車から降りると、とりあえず運転席と助手席の荷物を後ろに追いやった。

 そして車を動かし始める。


「アズ、どっちだ?」


 オレはアズに指示をもらって車をそちらにゆっくりと走らせることにした。



   ◆



 アズの案内でしばらく進んだあと、車の荷物を整理してシートアレンジを戻したり、中を整理したりした。

 その間、ミヤは大興奮だった。

 「異世界、異世界、い~せかい~♪」と意味不明な歌を歌いながら、あちらを見たり、こちらを見たりとするものだから、荷物の片付けがなかなか済まない。

 そのあと、みんな服を着替えたのだが、ここでミヤが本領発揮した。


「じゃじゃ~ん! どうですか、この姿は!」


 黒のとんがり帽子に、フリルの多い黒いゴスロリチックなワンピース。

 スカート部分は短めだが、、これまた長いレースのタイツで絶対領域だけを残して見せている。

 そして、片手には短い木の枝のような杖。

 まるで、ファンタジーの魔法使いと、アニメの魔法少女が入り交じったような雰囲気である。


「これで準備万端ですよ! さあ、ミヤにはどんなチートアビリティがあるんですかね! 無詠唱魔法ですか? それとも魔力無尽蔵ですかね!」


「……つーか、なんでチート能力があることが前提なんだよ」


「なに言っているんですか! こういうのはお約束ですよ、お約束! ミヤのようなヒロインなら当然あるはずです!」


「そ、そうか。なんかに目覚めるといいな……」


「はい! きっと目覚めますよ~」


 オレはそれを否定することはしなかった。

 まあ、確かに何かあるかもしれない。

 ただ、個人的にはないだろうと思っていたが、異世界に来た途端、夢を壊す必要はないとも思ったのだ。


「とりあえず、今日はもう少し進んだら、どこか適当な場所で車中泊しよう。アズの村はここからどのぐらい……ん?」


「…………」


 アズがオレに何かをさしだしてきた。

 茶色い革でできた少し厚い本のようなもので、黒いベルトが掛けられて、南京錠のような鍵がそこについている。


「あ、預言書……」


 全面に魔法陣を思わす模様が描かれているそれは、ミューからもらった預言書という名のミューの日記である。

 結局、中を見ても真っ白だったので、そのまま車のダッシュボードに突っこんで、すっかり忘れていたのだ。

 しかし、どうも様子がおかしい。

 まるで本の中から光がもれるように放たれている。

 アズは預言書をオレに手渡すと、電子ペーパーで文字を書き始めた。


〈強い魔力を放っていたので見つけました〉


「ああ……ありがとう」


 オレはキーホルダーにつけていた鍵で、預言書の南京錠もどきを外した。

 光がもれているであろうページを開いてみる。

 すると、そのページの紙自体が淡く光を放っていた。

 そして、そこにはなかったはずの文字が浮かんでいる。


「なになに? 四月二日。……アズの村が魔獣の襲撃を受ける…………え?」


 オレは思わずアズの顔を見た。

 すると青ざめながらも、彼女はペンを走らす。


〈わたしがアウト様に助けられたのが、三月二八日のはずです〉


「すると、襲われてオレの世界に飛んだのが三月三〇日か?」


〈もし予定通りに跳んでいたら、今日は三月三一日です〉


「ここから村までどのぐらい?」


〈たぶん、アウトランナーなら二日かからないのではないかと〉


 それではぎりぎり間にあわない可能性がある。

 もちろん、この預言書というか、ミューの日記が本当のことが書いてあるのかもわからないし、今日が三月三一日なのかもわからない。


「行きましょう、アウトさん!」


 横でミヤが力強くいいながら、アズの両肩を抱くように腕をまわす。


「ここはヒロインとして助けに行くシーンですよ!」


「本当かどうか、わかんねーんだぞ……」


「それは行ってみればわかるじゃないですか!」


 ミヤは冗談めかしているが、目は真剣だった。

 むろん、言われるまでもない。

 ミューが悪い冗談で、こんな魔力のこもったアイテムをよこすとも思えない。

 オレの選択肢だって、もう決まっている。


「よし。今から走り詰めだぞ。いいか?」


 ミヤは力強く、アズは不安を胸に、それぞれ大きくうなずく。

 やはり、まったり異世界ライフというのは、オレには望めないらしい。

 オレの異世界の旅は、波乱と共にまだ続くのだった。

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