第27話 九条、眞志喜に興奮される
眞志喜さんからの情報提供は中々にインパクトがあった。
ダンジョンを封鎖しているだけかと思ったが現在自衛隊が目下、国会議事堂地下に発生したダンジョンを鋭意攻略中というのである。しかも1小隊がアッサリと全滅したというのだからその難易度は計り知れないが確実に俺の家のダンジョンとは難易度が違い過ぎるのは間違いない。
そして話は俺の家のダンジョンについての話に移っていった。
眞志喜さんはアイテム買取から情報提供、武具の無償提供と幅広く支援してもらっている。なので出来るだけの話はしておこうと思う。
眞志喜さんは満面の笑みでどんな話が聞けるか楽しみで仕方がないといった面持ちだ。
なんかこの人、一見できた大人に見えるが少年のようにも見える不思議な人なんだよな。
「まず、今のダンジョン攻略ですが安全マージンを取って2階層までの攻略となっていますが、それだけでも色々と発見できたので一つずつ説明します。」
「ええ、ええ。どんな話が聞けるかずっと楽しみにしていたんですよ。まずダンジョンはどんなところでした?どんな敵がいましたか?どんなアイテムがありましたか?ああ、待ちきれません!早く教えてください九条さん!」
「ちょっ、ちょっと待って下さい眞志喜さん!順番に!順番に説明しますから!」
おい、この人テンション上がり過ぎだろ。こちらが話す隙が無い。
さっきの話は訂正だ。この人ただの子供だわ。
俺が慌てて止めると一応は止まってくれたけど目は爛々と輝いている。
眞志喜さん全然落ち着いてないな。
「ええ、もちろん待ちますとも!ですから早く!お願いします!」
「あ、ああ、はい。……ではダンジョンについてですが、先程も話した通り、2階層まで攻略はしています。ダンジョン内は洞窟になっていますね。」
「なるほどなるほど。洞窟タイプなんですね!定番ですがむしろそれがいい。洞窟だと視界に問題があるのではないですか?」
「いえ、視界は問題ないですね。壁の表面に光苔が生えていて淡い碧色の光を放っているので特に問題ないんですよ。」
「光苔ですか。国内でも数か所ありますが絶滅を危険視されるほど減少されています。それだけでも相当に貴重ですね。」
「そんなに貴重なんですか?最初に削って売ろうとしたんですが売れないだろうと判断して止めたんですよ。」
「売買は止めたほうがいいですね。光苔は天然記念物に指定されていますから採取したのを見つかれば捕まりますよ。」
マジか。販売先が分からないから放置してたが採取しなくてよかった。
いくらなんでも逮捕などされたくもない。
俺は少し動揺したが表面的にはうまくスルーして次の話に進めることにした。
あんまりいい話でもないんでな。
「まぁそういうわけで今のところ洞窟しかないダンジョンですが、入口は石造りになっていていましたね。ダンジョンの風景は今のところこんなものですね。あまりファンタジーなところは見つかりません。」
「ふむ。光苔以外には特段不思議はないようですがそれ以外は普通の洞窟ですか。そして入口は石階段で明らかに人の手が入った造り…興味深いですね。」
コアがいたこと以外には、だが。もちろんそのことは内緒にしておく。
あいつはある意味一番の爆弾だからな。
眞志喜さんはふむふむと頷きながら続きを促してきた。
次はコアから聞いた話でもするか。
「ただ、こちらも重要な情報があります……。今まで話していませんでしたが入口の広間には石板がありました。そこにはダンジョンの説明と思わしき物が書かれていました。」
「ダンジョンの説明が書かれていたのですか!?それはどのような!?いや、文字は読めたのですか!?」
無論これは嘘だがまぁそれほど間違っているわけでもない。
説明したのが石板かコアかの違いくらいだしな。
眞志喜さんには悪いがこちらの方便で納得してもらおう。
そのご本人はダンジョンの説明について相当に興奮しており、テーブルに前のめりになっている。
俺は何度目かも分からない指摘を入れておく。
放っておくと暴走しかねない勢いだからな。
「あの眞志喜さん。少し落ち着いてください。これでは話すこともできません。」
「ああ!すいません。何分好奇心が強いものでして悪い癖であることは自覚しているんですがねぇ。もう大丈夫です。九条さんお話しして頂けますか?」
「確かに少し刺激が強いかもしれませんが、落ち着いてください。これは先程の情報と併せても世界的にはともかく日本ではほとんど知られていないはずですから。」
「ええ。それほどの情報を提供して頂ける九条さんには感謝しています。」
俺は眞志喜さんにコアから聞いた話を石板があったということにして説明した。
1.ダンジョンが発生した原因は異世界からの魔素の流入によるものであること。
2.魔素が知性のある生物の情報や欲望を具現化してダンジョンとなること。
3.魔素は魔力の元であり、これを魔力に変換できるまでに馴染んだ人間はモンスターを倒すことにより4.レベルを上げられるようになり、レベルが上がると身体能力が強化できること。
5.稀にスキルを取得できるようになること。
以上を一つづつ説明を聞いた眞志喜さんは顔が真っ赤になって震えていた。
眞志喜さんさっきから興奮しすぎじゃないですか?
割りとマジで落ち着いて欲しいという俺の願いはスルーされ眞志喜さんのテンションは上がり続ける。勘弁して欲しい。
「異世界ですか!それは素晴らしい!ダンジョン発生がまさかそのような原因だったとは驚きました。いや、説明のつかない事象であることは分かっていましたが文字通り世界が違うのですね。そしてレベルにスキルですか……。私でもモンスターを倒せばレベルが上がるのでしょうか?…参考までに教えて頂けますか!?いえ、本当に参考までです。他意はありません。ですからお願いします………!」
眞志喜さん顔が近いって!俺にそんな趣味はない!
そんな展開を喜ぶのは忍だけだから勘弁してくれ!
「だから眞志喜さん落ち着いてください!顔が近いです!」
「ああ、これは失礼しました。何分こんな夢にまで見たような展開ですから柄にもなく興奮してしまいました。」
俺は確信した。
ああ、この人はきっとバトルマニアなんだろうな…。
コアも俺に同じようなことを言っていたがここまでは酷くないと信じたい。
「はぁ…。本当に頼みます……。石板には魔素から魔力に変換する為には【魔素吸収】というスキルが必要なようです。それを得る為には魔素に馴染まないといけないらしいので恐らく今のままでは難しいと思いますが魔素の流入状況によっては覚えることもできると思いますよ。」
「なるほど……。魔素を浴び続ければそのスキルを覚えることが出来る可能性があるということですね……。今すぐではないのは残念ですが今後の楽しみということにしておきましょう。」
「今後の魔素流入状況によっては使える人間も増えてくるらしいですから眞志喜さんも使えるようになる可能性はあると思いますよ。」
「なるほど分かりました。それにしてもこれは素晴らしい情報ですね。話しぶりからすると九条さんはスキルを取得してレベルも上がっていますよね?」
「ええ。眞志喜さんの予想通り【魔素吸収】を取得しレベルは上がっています。身体能力も既に常人以上になっていますね。」
「やはりレベルは上がっているんですね。」
「ええ。ですが既に何度か死にかけたこともあるので安心はできませんが。」
「そのようなことがあったのですね。よろしければ聞かせて頂けますか?」
あの影戦士団との闘いは記憶に新しいので語るのには問題ないのだが、コアのことがあるからなぁ。コアのことを外してうまいこと説明するか。
「そんなに面白い話ではないですよ。宝箱を見つけたんですが開けた瞬間回りをモンスター50体以上に囲まれたという話です。」
「50体ものモンスターに囲まれてよくご無事でしたね。九条さんのことを疑うわけではないですがそれだけの敵に囲まれて勝利するのは奇跡に近いですよ。」
「普通ならそうでしょうね。ちょうどその時に運よくスキルが発動してそのスキルのお蔭で勝てたんですよ。」
嘘は言ってない。コアのスキル【光魔法】のお蔭で一方的な闘いから互角の闘いになり、俺のスキル【闘気】の発動で一気に勝利に持ち込むことができたわけだからな。
眞志喜さんは俺のスキルという言葉に激しく反応してまたテンションが上がり始めているが放置した。眞志喜さんにファンタジーの話をすればこうなると俺は一つ学んだ。
「スキルですか!圧倒的不利な状況を覆すことができるとは凄まじいものですね……っ!ぜひ私も覚えてみたいものです!それで九条さんはどのようなスキルを発動させたのですか!?」
「……スキル名は【闘気】。能力は……」
「【闘気】ですか…古来より武術には五感に訴えたものもありますが…いや、違いますね。イメージとしては剄力…これでもないですね……やはり創作系などで用いられるようなイメージのものも……はは。これは荒唐無稽すぎますね…だとすると…………ブツブツ。」
能力を教えても構わなかったがその前に眞志喜さんは思考の泉にどっぷり浸かってしまったようだ。
声をかけても反応しなかったのでポットから紅茶をおかわりして待つことにした。
長くなりそうなら帰ろうかと割と本気で考え始めていたが5分程度で思考の泉から上がってきてくれた。
バツが悪いのかポリポリと頭を掻いている。
「……すいませんでした。つい未知の技術を知れるとなったら推察に集中しすぎたみたいです。悪い癖なのは分かっているんですがこれが中々直らないんですよねぇ。」
「いいんですよ。ですがある程度ならいいですがあまり長すぎなければいいですが、長すぎた場合は考えがありますから。」
ニッコリと笑いながら釘を刺す。
言外にいい加減にしろと含みを持たせた回答をしておいた。
毎度毎度こんなに興奮されたらこっちの身がもたん。
「ではスキルの話ですが、実際に見せたほうが早いですが落ち着いてくださいね?またこれでテンションが上がり過ぎた場合は………分かってますよね?」
「も、もちろんです。私もいい大人ですから。ふ…分別はできるはずですよ。…いえ、必ず自制します。」
眞志喜さんに強制的にOKを出してもらったので俺はスキル【闘気】を発動する。
自分の中の魔力を生命力に変えて全身を蒼いオーラが覆い視界を蒼く染めた先で眞志喜さんが驚愕しているのが見える。
「おお……っ。こ、これは……っ。」
「では改めてお見せします。スキル【闘気】。これが私の得たスキルです。効果は急激な身体強化といったところですね。」
眞志喜さんは俺の蒼いオーラを見て席を立ちあがりフラフラと近づくと俺の腕に触れる。オーラ自体は彼の手を遮ることもなくアッサリと掴むことができた。実際このオーラ自体が物理的な能力を持ってはいないからな。
「微かに暖かみがありますね。これが、魔力ですか……。」
「正確には魔力ではないですね。魔力を生命力に変えるのがスキル【闘気】の特徴ですからこのオーラ自体は生命力そのものといったところですね。まぁ覚えたばかりのものであるので詳しいところは分かっていないんですがね。」
一通り眞志喜さんが体感したのを待ってスキル【闘気】を解除する。蒼い闘気が収まったことに眞志喜さんが残念がるが男にベタベタ触られて喜ぶ趣味はない。忍を喜ばすような展開はごめんだ。
眞志喜さんは興奮を落ち着けるように席に座り紅茶を飲んで一息つけると自分の中の整理がついたみたいで語り出した。
「このスキルは素晴らしいですね……。まさかこのようなものを現実に見ることが出来る日がくるとは………九条さんに協力してよかったと今は心底思いますよ。」
「外見だけは蒼いオーラを纏うだけですけどね。とまぁここまでがダンジョンで得た情報と能力ですが………最後に一つ重要な情報があります。この情報については眞志喜さんの判断で扱ってもらって構いません。」
眞志喜さんは苦笑いしながら外見だけでも人類、いやファンタジーが好きな人種にとっては紛れもなく夢なんですがねぇと呟いていたが俺の話が先程とは違う毛色を見せたので居住まいを正してくれた。俺としてもこの情報は真面目に取り扱って欲しいと考えているので眞志喜さんの様子を確認して話を切り出すこととしよう。
「私の判断で扱っていい情報ですか……。聞いてみないと分かりませんがその口ぶりではあまりいいことではないんでしょうね。」
「ええ。最悪の事態の話になります。これは黙っていてもいい話ではないのですが実はダンジョンでは魔素からモンスターが発生し続けています。それを放置するとどうなるか、というのが石板に書かれていました。」
「……まさか、そのモンスターがダンジョンにいるのは許容限界がある、ということですか?」
「そのまさかです。ダンジョンでモンスターを放置し続ければやがて溢れたモンスターが外に出るらしいです。日本各地にあるダンジョンからモンスターが出ればその被害は計り知れません。ですが、このようなことを言っても信用してもらうのは無理があると思い黙っていました。すいませんでした。」
この話はどこかで共有しないといけないと思っていたが見も知らぬ他人の為に必死にオオカミ少年をするつもりもなかった俺は黙っていたが眞志喜さんなら裏情報を仕入れる程のルートを持っている。うまくこの情報を裏から回してもらえばそれなりに信憑性も出るだろう。それ以上のことは俺は知らん。最悪身の回りと数少ない身内を守れればそれでいいと思っている。我ながら薄情だと思わないでもないが正義感にかられた馬鹿には今更なれないしなりたいとも思わない。
眞志喜さんは難しい顔をして伏せているがやがて考えがまとまったのか顔を上げこちらに視線を向けてくる。
「……九条さん。この情報ですがさすがに放置はできません。情報の出どころは九条さんというのは必ず秘密にしますので私の判断で開示してもいいでしょうか?」
「それはもちろん構いません。今のところは問題ないかもしれませんがモンスターが溢れるのはいつになるかは不明ですが対策はしておいたほうがいいと思います。私としても世界が滅んでいいとは考えていませんし。」
「それならばこの情報は私が責任を持って扱わせて頂きます。」
「お願いします。」
ファンタジー成分が浸透したとしても世紀末はごめんだからな。
せっかくここまで頑張って会社を維持してきたんだ。
業態が変わるのはいいが世紀末で今更ご破算など死んでもごめんだ。
眞志喜さんの情報操作に期待しようと思う。ダメだとしても俺自ら動くつもりはないからお願いするしかないわけだが上手くやってくれるだろう自信は感じるから後は任せるしかないな。
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