第19話 僕は汚っさんと対峙する
「でも、それが師匠のいいところなのよ」
ガザックが強面の顔を赤らめながら、不気味なセリフを言う。
「カオスになるからやめてくださいお願いします。何でもしますから」
芽衣子は今までのキャラをかなぐり捨てて、土下座をする。
僕にもその気持ちはよくわかる。
正直むさくるしいマッスルしたおっさんの筋肉のアップなんぞ見ても気持ち悪いだけだ。
「きゃーっ、それはよかったわぁ」
ぷるぷる、ぴくぴく。びくーん。にちゃにちゃとした脂ののった筋肉。漢とかいて、男と読むような筋肉プロレスラー。
そんなピンクのタンクトップのオッサンの鍛え上げらえた胸の筋肉が芽衣子に迫り続ける。
うん、僕なら吐いちゃうわ。気持ち悪すぎる。確実に夢に出て、うなされるタイプ。絶対にやめてほしい変質者そのものの姿。
「おふっ、もう駄目ッ。あとは任せた」
芽衣子の限界が来たようだった。
そう言いながら、親指を立てながら唐突に倒れた。
「キャーッ」
この声もオッサンの野太い声でなかったら、普通なのだが。声が低すぎ、顔が濃すぎ。オッサン自体が襲ったようにしか見えない。
正直芽衣子はオッサンの熱い胸板と子供の胴ほどの腕に支えられて怪我なんてこれっぽっちもなさそうなのだが、紙のように白くなっている顔を見ると非常に重症にしか見えない、
南無。合掌。
「はいはーい。
酷いことを言っているアンリに呆然とする汚っさんどもと、ルディアの顔がげんなりしているのをみながら、僕は芽衣子をルディアの仕事場の隣にある仮眠室のベットに運ぶ。
その時のピンクのタンクトッププロレスラーおっさんがぼそりとつぶやく。
「やっぱり、ワタシはブスなのね」
と。
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「さて、話を聞こうじゃないか。汚っさんども」
アンリさんは気だるそうに椅子に腰かけ足を組みながら、端っこで縮こまるように立っている汚っさんたちを見据える。
「ところで、アンリさんあなたの言葉に非常に悪意を覚えるのだけれども、それから直していかない? 私たちは筋肉はあるけど、
「ガザックよ。それは世間一般常識としては非常にずれていることを意識してほしい。そこの汚っさんもよくわかっているのは?」
そう、ピンクのタンクトップの汚っさんプロレスラーは唇を噛み悔しい顔をしていた。ちなみに非常に怖いオーガーのような顔で近寄りがたいのでやめてほしい。
「私はこの顔と体が非常に嫌いだわ」
「アデライドちゃん師匠! でも、それでお、私は冒険者として救われた。相手に舐められないこの顔、体に支えられてきて非常に感謝しているわ。それにあの王子様によって、漢女にされてから、本当に良くなったわ!」
途中までは理解できる。冒険者としての強面は非常に役に立っただろう。
最後の漢女ということさえなければ、僕はうんうんとうなずいていたんだと思う。
締めの言葉が非常に残念過ぎて、すべてが台無しだ。
「どうしたの? ミズキ、苦いものを食べたような顔をして。魔女っ娘の顔が台無しよ。それはいけないわ。お酒飲む?」
空気を読め。酔っ払いエルフ。
「ほう、アデライド、聞いたことがある。アドンというAに限りなく近いB級冒険者がいる。その姿は筋肉に包まれた強い格闘家だと聞く。ただし、女と言いながら、顔が濃いと言われている、確かそのアドンが名乗る名前がアデライド」
「アド、コホン、アデライドさんがこちらに来た理由はというと、女になりたいからですね」
僕の言葉にアデライドが深刻な山賊顔で頷く。
「であれば、そのガザックを漢女にした第三王子とのころにいい。その方法が一番簡単だと思うが」
アンリさんがスッパリと言い切った言葉。僕も同じことを考えていたが、アデライドはぷるんと筋肉を震わせながら、僕に詰め寄ってきた。
「ひいっ、何ですか」
正直やめてほしい。僕も芽衣子の二の舞になってしまう。
「ガザックに聞いて、最初に行ったわ。けれども、ソニアとかいう馬鹿女騎士に気持ち悪いと言われ、罵られて、最後には王子さまに謁見何て不可能と言われたわ」
酷い、と言いたいが、まあ、アドンじゃなくて、アデライドの見てくれだとコンラートは男嫌いだというし、気絶しかねないし仕方ないとは思う。
「そ、それがそれが何でこの村に来ることになったんですか」
僕は気絶しそうなほどの威圧感を出すアデライドと対峙して、びくびくするしかないところを男の矜持で耐え抜いて、言葉を紡ぎだす。
「奇跡の魔女っ娘女神がいるから何とかしてくれると、ソニアが言ってくれた」
あのクソ女騎士、今から飛んで行って、半日くらい人形踊りの刑をしてもいいだろうか。
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