第17話 僕は魔女っ娘ですが、魔女っ娘女神ではありません。くりかえしますよハイ!

「怠惰というのは非常に危険なものである」

 と芽衣子は私カッコイイというようなキメ顔をしつつ、声を低くしてそんなことをのたまった。

 ただし、ソファに仰向けに寝転びながらでカッコ悪い。

 さらにはスコーンを片手に持っていて、太りそうな感じがする。豚になっても知らないからね。


「外野の女神魔女様。うるさいよ」


 僕は男である。どこからどこを見ても男である。

 冴えないとか言われようが、パッとしないと言われようが僕は男である。


「うむ。怠惰は確かに危険だな。オッ、LV99になったぞい」

 といいつつ、何故か携帯ゲーム機を片手にドラゴンがラスボスというゲームをやる黒龍の化身様アンリさんがやっているのは怠惰を超えたナニカのような気がしてたまらないのは何故だろうか。

 しかも、芽衣子と同じくソファに寝そべりながら携帯ゲーム機でプレイをしているから、着流しのようなゆったりとした着物の間から見えるその白い肌の谷間に僕はドッキリ。


「お兄ちゃんの目がすごくいやらしい」


 何故気づいたのでしょう。

 芽衣子ちゃん。僕の頭の中とか、すぐにわかるのかな。

「視線とか、男の子の中身何てすぐにわかるんだから」

 左様でございますか。

 しかも、自分のちっぱいを触っている姿がとてもいじらしくて、悲しいね。

 うん、ドンマイだよ。


「瑞樹お姉ちゃん、罰として強制魔女っ娘に」

「やめてください。僕のプライドがズタズタになるので。僕は男です。だから、それだけは絶対にやめてください」

 土下座をしてでもそれだけは嫌です。

 僕は男。完全無欠の男です。


「でも、魔女の国のお姫様」

「違う。魔女の国だけど、王子様なのが僕だ。だから、僕は小さくても妹のような芽衣子とは違う男の」


「アウト」


 彼女は手に持っていた白い杖を振るった。

 きらきらと杖と同じ白い光が僕を包み込む。

リボンのようなものが巻きついて、体の大切な部分を隠す。

 そして、体が何かに引っ張られるような感覚がして、自分の体が変わるのがよくわかった。

 髪の毛が急に伸びて、キュッと結ばれる感覚。

 胸のあたりがむずむずして、膨らんでいく。

 腰が勝手にくびれて、大切なものが奪われていくような感覚。ムズムズするどこかの部分が非常に寂しくなっていく。

 僕が味わう最悪の感覚。

 どうしようもなく失われていくものと、出来上がっていくものが僕の何かを色々と変えていく。

 何というか、音で言うとボンキュッポン。スッ。という喪失感とできていく何かが僕の涙を誘う。


「なぜだああああああああああああああああああ」


「よく、自分の胸に手を当てて考えるんだな。阿呆な少年。お、レベルが100にもできる。流石、リメイクされているから上限上がる。これは隠しダンジョンもありそうだ」

 

 すごい冷たいアンリさんのセリフが聞こえる。


 最後に無表情に芽衣子は持っていた杖を投げ入れる。

 それを体が勝手に受け取り、杖自体もリボンに包まれてその形は女児向けのハート型のステッキのような姿に変わる。


 そして、ステッキを掲げた僕は自分の体をヒラリと一回転させて、スカートが風に舞う。

 ふと、窓の外を見るとそんなキメ顔の僕の顔の石像が立っている。

 とても恥ずかしい気持ちがあふれ出てくる。


「わーいぱちぱち。ハァ」


 棒読みかつ、何というか変身した僕の一部分に注目した中2少女は非常に深い、瘴気を吐くようなどんよりとしたため息をつく。


「何だ、揉むのか」


 その部分を一生懸命両手で僕は防ぐわけだが、肩を落とした芽衣子は床をける。

「ケッ、どうせ私は無いですよーだ」


「無いなら作ればいいのよ。バアアン!」


 といきなり、隣の部屋からエルフ耳の女がそろりとドアを開けながら、わざとらしい効果音を口で出しながらやってきた。


「タイミングばっちりでしょ」


 と言いながらやってくるあたり、非常に残念なエルフこと、ルディア。

 どんだけこの状況を見ていたんだろうか。

 というか、見ていたなら助けてくれ。


「ルディア。何かあったのか?」

 アンリさんが携帯ゲーム機の電源と落としながら、嫌そうに聞く。

 まあ、かっこ悪い出方とセリフがろくでもない予感しかしないので気持ちはよくわかる。


「ちょっと、魔女っ娘女神様で町興しイベントやりたい、その2!」


 ほら、ロクでもない話だった。

 そんな異世界ファンタジーのはずなのに、何というかめんどくさい現実感溢れる話が始まったわけです。

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