第12部:「天使たちの黄昏《ラグナロク》」―決勝トーナメント準決勝&決勝戦編―
第220話:大人すぎる、前夜。❶
[星暦1554年10月30日。聖都アヴァロン。]
「リック。⋯⋯その、お前は俺がアマンダさんと、その、け⋯⋯結婚したい、とか言ったら、どう思う?」
珍しく一緒に飲まないか、と叔父のヘンリーに誘われて連れられて行ったバーでリックは叔父の決意を聞かされた。もちろん、これが「本題」なのだから。
「そうだね。俺としてはプロポーズは
甥っ子の意外な発言に、叔父は年長者の威厳もなく頬を上気させる。
「ど⋯⋯どうしてだい?」
「だって、叔父貴がいつアマンダさんに
自分たちの関係は極秘だとばかり思っていたヘンリーは衝撃を受けた。
「なに?誰とそんな賭けをしてるんだよ?」
リックはパン屋のドノバンをはじめ、店の常連、ロゼたち店のスタッフ、あげくはビアンカやマーリンまでも参加していることに呆然としていた。
「いったい、いつから⋯⋯気づいていたんだ。俺たちの関係に?」
リックはニヤニヤしながら説明してやる。
「そ⋯⋯そうか。」
ヘンリーは絶句した。
「だから浮気だけはやめとけよ、叔父貴、絶対にばれるから。……でも、いいのか? 叔父貴も知ってるんだろ、アマンダさんの秘密というか。」
リックはアマンダの脳内に宿る「スパイ」について聞いていたのだ。
「ああ。もちろん、知っているさ。俺も、
アマンダがルイに宿るもう一つの「人格」、シャルの母体であることは旅団内では共有された情報であった。そして、シャルがアマンダが無意識時の行動に関わっていたことも。
おそらくアマンダをスパイとして使っていたのは明白だった。それにもかかわらず、凜はアマンダを追い出そうと画策せず、「仮」本部である「カフェ・ド・シュバリエ」二階の道場を動こうともしなかったのだ。
[星暦1554年10月某日。]
「どうだね、ルイ、スフィアという国は?」
久しぶりに小衛星要塞ア・バオア・クーに帰投したルイに
「とても良い国ですよ。人々の国民としての権利と義務の意識がとても高いですね。ただ、どんな職種にも騎士と名がつくのはやり過ぎな気はしますけどね。」
「まあそうかもな。ただ『国民皆兵』は先進国家の基本だからな。遅れし国はまずそこから始めないといけないのさ。さてルイ、今回の
ルイは澄ました顔で答える。
「ハワード閣下にせっつかれでもしてるのですか? あのトリスタンの巧妙なところは、その主力の多くが外国人、それも要人の子女子息を組み入れているところです。下手に
「リチャード・ウインザーことリチャード・ヴィントハウス地位です。大戦後に準天位への昇格が既に決まっています。」
「強いのかね?」
「ええ。ただ、もの凄くムラっけのある男ですね。奉納試合では勝ったり負けたりでしたが、選
「付け入る隙は?」
その問いに長い前髪をかきあげながら答える。
「そうですね、守るべき家族が多い、というところでしょうか?彼は6人兄弟姉妹の一番上の子どもですから。」
ルイはそこまで言ってから、彼と自分の境遇を比べざるを得なかった。孤児として親に捨てられ、自分の1番の家族だったリーナを奪われた自分、そして再びそれを取り戻すために、遠く離れた別の惑星まで来た自分。
「すでに手配は済ませてあります。実はケイジ・マエダがすでに彼の家族と
すると
「彼に実行させるのかね?」
「まさか。ケイジは性格上、そういうやり方に加担したりはしないでしょう。それより準決勝で彼らと存分に対峙してもらう方が力を発揮できるでしょう。ですから、実行はすでにプロに頼んでありますよ。」
「『
「ええ。」
鉢屋衆とは「黙示録騎士団」にある裏仕事のチームの一つである。
[星暦1554年11月1日。聖都アヴァロン地上港。]
準決勝は聖槍騎士団が先にホームとなることになっていた。
「あ、ケイジさん!」
リックが手を振った先には前田慶次がいた。慶次にしては珍しく黒のスーツ姿である。ただ、とても窮屈そうに見えた。シャツの第2ボタンまで開け、暑そうに扇子で扇いでいた。
「秋だというのに暑くて敵わぬ。王都は涼しいのだがな。」
キャメロットは高原にあるため緯度の低い割には過ごし良いのだ。
「すまんが騎士団の点呼があってのう。終わったらまた合流しよう。そうだ、
そう言ってからリックに耳打ちをする。
「
リックは店へ戻るとトムにも手伝わせて料理を用意し、凜とマーリンを呼ぶ。金曜日は定休日のため、店は自動的に貸し切りであった。
「で、対戦相手と、しかも対戦前に宴会、というのはいかがなモノですかねえ。」
マーリンの苦言に手伝いに駆り出されたトムも頷く。リックはあっけらかんと言った。
「まあいいんじゃない。ダメならあちらの騎士団が止めるだろうし。もう、お互いわざと勝ちを譲り合うような段階は過ぎているしね。」
「待たせたのう。」
そこに慶次が「一団」を連れて登場した。綺麗な女性たち、そして酒樽を抱えた男たちであった。
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