第146話:とんでもすぎる、新仕様。❸

今回の選挙大戦コンクラーベでは『スキル』の使用が解禁された。


このニュースは修道騎士たちの間に波紋をもたらした。おそらく、『天使グリゴリ』の出現以来の「革新的な兵器ゲームチェンジャー」となるのは明確であった。

これまでは剣技や槍技を磨くことが重視されていたが、それを上回る武器となり得るからだ。


以下「スキル」の詳細を説明をするが、いきなりゲームのようなぶっ飛んだ大技を人間が繰り出しても気にしない方はこの説明は読み飛ばしてしまって差し支えない。


 「スキル」とは重力子アストラル世界の特徴を取り入れたものである。重力子世界アストラルと我々の住む電子世界マテリアルの一番大きな違いは、「電子世界」が「物理法則」がすべてを支配する世界であるのに対し、「重力子世界アストラル」は「意思」と「言葉」が「物理法則」を支配するところにある。


創造主の名は「我は『成る』という者なり」、あるいは「我は『成らせる』者なり」という意味を持つと言う。つまり「自分自身が望むどんな者にもなり」、「ほかの者を自分が望むような者に成らせる」ことができるのである。

仏教でいうところの「観世音」思想に近い。つまり、「条件」が整えれば自分が望む力を体現できるのだ。あるいは自分の意思を実現するために法則を従わせることができるのだ。


というのも、創造主オーサーの最初の創造物は「言葉」なのである。この「意思」を表現する「言葉」が生まれたことにより、宇宙全体に滞留していた「パワー」に方向性ベクトルが生まれたのである。それが「活動力フォース」であり、それは、電子世界マテリアルとその中のものに変換されていく。それを表したのが有名な一般相対性理論の公式「E=MC2」である。エネルギー(E)と物質(M)には相関性、つまり互換性があるのだ。

 余談だが、Cとは光速のことである。つまり、エネルギーと物質の媒介を果たすのが光なのである。よって光、つまり時間は一定であり、この世界観ではタイムリープのような現象は存在しない。


天使グリゴリ』の中にも不活性エネルギーが充填されており、これまでその一部を「武器」に変換してきたのである。残りの「エネルギー」は使い方が不明であったが、最初の大士師、宝井舜介=ガウェインの時代に解明され、魔獣討伐などで活用されてきた。

しかし、その悪用を恐れた「アーサー王と円卓」によって長らく封印されてきたのだ。


スキル」にはいくつかの特徴がある。

第1は 「防御強化」である。

バリアを全身に張りめぐらせることができ、物理的な衝撃を遮断できる。ただ、これは今までも「甲冑」として活用されていたことである。ただ「天使」同士の戦いになると、「絶対防御」されるのは「コア」となる人体だけである。それで、人体同士になっても戦い続けることがないように「戦死」判定システムが取り入れられたのだ。それをさらに強化できるのである。


第2は「攻撃力強化」である。

自分に関する重力を操れるため、キックやパンチ、斬撃や突撃、そのスピードや威力を増すことができる。無論、これも既出である。重力加速、OMG拳や「加重矢」のように粒子を転換したり、粒子から波長へ変換することによって可能になるのである。


第3は「変身」である。

自分の身体に纏った重力の鎧を変形させ、様々な形、ライオンでもドラゴンでも形を変えることができるのである。ただ、動きに関しては自ら習得する必要がある。ここが「魔法」と異なるところである。


第4は「物質操作」である。

 例えば、ゴーレムのようなものを作って自分を守らせたり、敵を攻撃させることができる。さらには馬やバイクやのような形態のものを作ってそれに乗って移動することもできる。

さらには、凜のように自在に矢を操って相手を攻撃することも可能だ。ただ凜のように複数のものを完璧にコントロールするにはC3が必要になる。

また、フィールドに障害物を構築することも可能だ。上位者になれは大きな建物も一瞬で建てられるだろう。


第5は「静態解放」/「動態解放」である。

炎撃、雷撃、冷撃のように静的なエネルギーを一度に動態エネルギーに変換する技である。ただ、「天使」には基本的には物理攻撃は効かないため、競技としてのポイントが加算される、という意味だ。また第4の特徴で扱った操作された物質に対して有効であると言える。その場合は逆の「動態解放」になり、作り出された障害物を排除することも可能である。


さらに第6は「複合技」である。これは1ー5を自在に組み合わせるものであり、絶大な効果から「必殺技」とも呼ばれる。


ただ、それには明確なイメージとそれを体現するための訓練が必要であった。例えば「カxカx波」を撃つ力があっても、それを貯めたり飛ばしたり、狙った先へ飛ばそうと制御するのには修行が必要なのと一緒である。


それを術式として定着に成功したのが二人目の大士師、不知火尊=パーシヴァルの時で、寡兵でありながらも、大国アマレクを相手に独立闘争を勝つ原動力になったのだ。その術式をパッケージしたものを戦後、フェニキアに借りた戦費を返すために惑星外に輸出してきたのである。

フェニキアもこの「天使」を売って利益を上げるために「宇宙船レース」の「戦闘パイロット」に取り入れ興行として成功させてきたのである。そして、そのフェニキアのパイロットたちが日夜研究し、様々なスキルを編み出してきたのだ。


その結果、通常空間での戦闘の方式をガラリと変えてしまうことになった。「物理攻撃」が全く効かない兵器、「天使」の登場で兵士や無人兵器による集団戦闘から、再び「騎士」という個人による戦闘へとシフトしていったのである。


それで、「エネルギー」を必武器の強化にを使いたいものは武器に「パラメーター」を振ればいい。また、必殺技に重きをおく者、スピードに重きをおく者。それは、まさに自分の「意志」によって決めることができるのである。


技の発動にはスフィアの場合はキング・アーサーシステムの認証が必要になるため、義眼の施術を受けていないものは眼鏡型のデバイスを使う必要が生じる。



以上、説明でした。


確かに、このスキルを実戦以外の競技の場で使用することは、天位以上の高位の騎士たちに概ね評判が悪い。自分たちが積み重ねたものが崩される思いなのだろう。


「じゃあ、誰でも天位騎士をぶちのめせる、ってこと? 例えば、俺みたいな戦闘の素人でも。」

期待のこもった目で透が尋ねる。

「期待させて悪いが、そうはならなぬ。」

グレイスが苦笑する。ラドラーが呆れたように説明した。

「強さの追求に王道はないからね。『スキル』とは積み重ねた心技体の修練の上に築かれるものなのさ。つまり脆弱な土台には弱いものしか建てることはできんということだ。」


「なんだ。」

がっかりする透にグレイスは苦笑しながら言う。

「しかし、これほどの功績がありながら、タイミングのせいで士師になり損ねるとは、ハワード卿もお気の毒なことだな。」


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