第12話 小学校6年生 修学旅行2 一日目
律子先生の後に続いて俺たち6年2組の生徒が並んでいく。目的地は長谷駅だ。
よっしゃぁ!
俺はひそかに久しぶりの江ノ電に乗るが楽しみだった。
予定ではバスとはしばらくお別れで、江ノ電で鎌倉駅まで出て班別行動となる。
各自で買い物やお昼を終わらせて、午後2時に
駅のホームに児童たちがずらっと並んで江ノ電を待っている。
さすがに一学年分の児童が集まると騒がしい。っと、江ノ電の緑の車体がホームに入ってきた。
ワクワクしながら、春香や班員と一緒に乗り込む。
機嫌良く車窓から景色を眺めていると、春香が楽しそうに俺の顔をのぞき込んできた。
「なっくんってば、すっごくうれしそうだね」
「……わかる? 俺、この江ノ電が好きなんだよ」
「へぇ。意外かも。なるほどなるほど、なっくんは電車好きなんだ」
後半の声は小さかったが、俺の耳にはしっかりと届いていた。……いや別に
市街地の間をすり抜けるように江ノ電が走っていく。こんなに町との距離感が近いのは、他には
あっという間に楽しい時間は過ぎて、鎌倉駅に到着した。
俺たちは先生の誘導のもと、ホームの一角に集まった。
律子先生が手を叩いて児童の注目をうながす。
「はいはい。ではこれから班別行動になります。前にも注意したけれど、事件や事故に
人差し指をたてて、律子先生は注意事項を繰り返す。
「「「「はい!」」」」
児童たちが返事をすると、律子先生は立てた指を下ろした。
「では、班長さん。よろしくね。一端、解散!」
クラスのみんなが班ごとに分かれて改札口に向かっていった。
「じゃあ、俺たちも行こうぜ」
班長の啓介が、班員の俺たちと、宏、優子と和美が揃ったのを見て言った。
西口の改札を出ると駅前の風景に懐かしさを感じる。
なにしろ子供に戻ってからは初めてだからね。みんなはどこかソワソワしている。
「今の時間は……11時47分。先にご飯にする? それとも小町通りで買い物でもする?」
宏がそういうと、東口広場に出る地下道へ向かって歩きながらも、みんな悩み出した。
「う~ん、とりあえず小町通り歩きながら、適当に店に入ろっか?」
優子の一言で小町通り散策となった。
……まあ、先に行った連中が先にお昼に入っているだろうから、時間をずらした方がいいだろうな。
俺はそう思いながら、どうせなら昼は八幡宮に行く途中の蕎麦屋がいいだろうと思い、時間を確認する。2時に集合だから、遅くとも1時20分には店に入りたい。とすると、小町散策は一時間半くらいか。
腕時計を確認しながら、春香と並んで歩く。
東口に出て、不二家さんの脇から小町通りに入ると、思ったより多くの人たちが行き来していた。同じ学校の児童の姿も見える。
「ふへぇ。思ったより沢山いるね」
春香がそう呟いた。
みんなは左右のお店をキョロキョロしながら歩いている。正直に言って、俺はそこまで小町通りの買い物に興味あるわけではないので、さりげなくみんながバラバラに行かないように気を払った。
カフェやラーメン屋、店先に大きなソフトクリームが飾ってある甘味処に、有名な鳩サブレー。左右にふらふらと蛇行するように歩きながらお店を冷やかしていく。
「あ、これかわいい!」
春香がそう言って、いかにも修学旅行生向けといった雑貨が並んだ棚を指さした。
「どれどれ」
そういって見てみると、そこにはデフォルメされてご当地キャラのようになった大仏のキーホルダーだった。
……微妙。
内心そう思いつつも、一つ手にとってニコニコしている春香を見ていると、こっちも和む。
「う~ん。お土産何がいいかなぁ」
その向こうでは優子と和美が沢山の根付けをじっくりと見ている。男子連中はどこいった? そう思って店内を探すと、宏と啓介はその奥の手ぬぐいのコーナーにいるようだ。
ふむ。どうやらみんなはお土産をここで買うようだ。が、俺には食指が動くものがない。……たしかこの先に「まめや」があったな。俺的にはそこか、ラスクでいいかな?
「ね、なっくんはどっちがいいと思う?」
そういって春香が水色と黄色の大仏くんキーホルダーをぶら下げた。
「ええっと……、お土産?」
「うん。お父さんに」
ああ、おじさんにか……。どっちでも良さそうだが。
「俺なら水色かなぁ」
そういって俺は水色の方を指さした。こっちの方が鎌倉大仏っぽい色だし、いいだろ。
「ふむふむ。こっちね。……じゃ、これにしよっと」
春香はそういって黄色の大仏くんを棚に戻すと、レジに向かっていったので、やることのない俺もついて行く。
ちょうど同じ頃にみんなもレジに並んでいた。
「なっくんは買わなくていいの?」
春香にそう訊かれる。確かに俺だけここで買わないのも……。そう思って目の前の棚を見ると、起き上がり
「これにするよ」
そういって一つを手に取る。うん。なんだかかわいいし、うちの玄関に置くにはちょうどいいだろう。
「へぇ。こんなのもあったんだ。……私もこっちにしようかな」
そういって春香も起き上がり小法師を一つ手に取ると、俺に預け、大仏くんキーホルダーを戻しに行った。
戻ってきた春香がニコニコしている。
「えへへ。一緒」
そんな春香の向こうから、じとっとした4人の目線が見える。は、恥ずかしいよ。
会計を終えて店の外に出る。
「じゃ、そろそろお昼にしようぜ」
啓介がそう言った。さすがにコロッケやお団子が気になるほどお腹が減ってきている。
俺はすかさず言った。
「なあ、八幡宮の近くの蕎麦屋にしないか?」
「あら? 夏樹くんの行きたいところ? 私はいいと思うよ」
和美がそういう。結局、そこでお昼にすることになり、俺が先頭を歩く。
途中の「まめや」でお土産に豆菓子を追加して蕎麦屋に向かう。ちなみにみんなも豆菓子を買ったし、これでお土産はばっちりだろう。
お目当ての店に入ると、店内はゆるくエアコンがかかっていた。
今日は少し汗ばむくらいの陽気だから、エアコンの風が気持ちがいい。
幸いに席に空きがあったので、4人と2人で分かれて座る。っていうか、みんなさっさと4人席に座り、結局俺は春香と座ることに。
みんな、わかっているよとでも言いたげにニヤニヤして俺を見る。……いや、そういうのいいから。
メニューを見てそれぞれ注文をし終えると、みんなで修学旅行パンフレットを取りだして眺めた。
「今日はこの後、鶴岡八幡宮と国宝館。で、横浜中華街で夕食を取ってホテルと」
班長の啓介が予定を読み上げる。
「俺さ、横浜は初めてなんだよね。ちょっと楽しみ」
宏がつぶやいた。その正面に座っている優子もうなずいている。「うんうん。私もだよ。……東京なら行ったことあるんだけどね」
そうやってみんなで話し合っていると、それぞれが注文した蕎麦が運ばれてきた。
「「「いただきます!」」」
みんなでいただきますをして、早速、蕎麦を一箸とってお汁につけ、ずずずっとすする。蕎麦の香りと旨味が口の中に広がる。
「うまい!」
思わず口をついて出てきた。と、女子たちが温かい目で俺を見ている。
なぜ? と思ったが、優子と和美が小さい声で「案外かわいいかも」と話しているのが聞こえた。そ、そうか?
正面を見ると、春香が相変わらずニコニコして見ている。
「本当。おいしいね」
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