第18話 絶望と希望

 霧雲が五味山と呼んだ青年は褪せたピンクと灰が混ざったような色のモヒカンで、ヘヴィメタルのような格好だった。ボロボロのソファでふんぞり返っている態度のデカさは、まさにごみの付喪神の王様だった。


「そんなことだろうと思ったが、やっぱり作戦は失敗したんだな、香太夫?」

「その口ぶり、最初からわっちがしくじるのを見越していたんでありんすね?」

「当たり前だ、逆に成功すると思ってたのか? 煙だからって頭軽すぎだろ」

「五味山、貴様ぁ‼」

 霧雲は煙の推進力を使い、猛スピードで五味山に襲い掛かる。


「バーカ」

 ギィッと笑った五味山が呟き指をパチンと弾くと、霧雲の頭上から大量のスクラップが落ちて来た。大量のちりやほこりが舞う。


「霧雲ー⁉」

 俺は叫んだが、返事がない。霧雲は煙々羅、煙の妖怪だ。煙に物理攻撃は効かないはずだ。でもいつまで経っても、霧雲はスクラップの山から出て来ない。


「 煙々羅だって実体化してるときがあるんだぜ。その時に不意を突いてぶっ潰せばいい話だろ? あーあ、ここに来なければこんなことにはならなかったのにな」


 これが塵塚怪王のごみを操る能力『塵芥戦術』。こんな奴に俺は勝とうとしてたのか。無理だ、勝てない。圧倒的に違い過ぎる。


「いいねぇ、その絶望した顔いいねぇ‼ さらに絶望させてやるよ。あそこに廃車の山があるだろ?」


 五味山が指さす先には確かに、廃車が積みあがっている。

「実はあの中に魔除けの鬼がいるんだよなぁ」

「如月が⁉」

「さぁ問題です。今から俺様は何をするつもりでしょうか?」

 五味山は卑しくに笑って、右手を上げ、指を鳴らす構えをしている。


 その時、俺の中には最悪の映像が浮かんだ。

「待て、やめろ‼ やめてくれぇー!!」

「時間切れー!! 正解は『魔除けの鬼をぶっ潰す』でしたー‼」

 五味山が指を鳴らすと、廃車の山が轟音をたてながら崩れていった。


 俺は膝から崩れ落ちながら、その光景を見ることしかできなかった。五味山は狂ったように楽しそうに飛び跳ねている。

「魔除けの鬼も香太夫もかわいそうだな。ちゃんと手を繋がねぇから俺様にさらわれるし、ここに連れて来るから俺様に潰されるし。さすが鬼門だな、テメェ」

「あ、ああ…」


 涙が零れる。嗚咽が漏れる。

「ぜーんぶお前のせいだ。テメェは不幸しか呼ばねぇ。不吉しか呼ばねぇ。テメェが生きてるのが悪いんだよー‼ ヒャハハハハ」


「違う!! 寅くんは鬼門じゃない‼ 寅くんは寅くんだ‼」

 その叫びは俺の後ろから聞こえた。聞いたことある声だった。よく聞く声だった。聞きたい声だった。


 後ろを振り向くと、一番会いたいヤツがそこにいた。

「如月? 本当に如月なのか? もしかして如月の幽霊?」

「本物の生きてる寅くんラブの如月南天ちゃんだよ‼」

 如月は笑顔でピースする。


「でもどうして? 潰されたんじゃ?」

「存在感を消して不法侵入した僕が助けたんだ。花魁の人ギリギリだったけど」

 

 如月の後ろから、霧雲を背負った薄影が出て来た。

「よっ丑門。ごめんね、おいしいとこ取っちゃって」

「…本当に図々しいなお前」

「妖怪の総大将だからね。僕の能力、犯罪以外にも役に立つんだろ?」


 すると、外から爆発音が聞こえて来た。

「今度はなんだ!? 付喪神たちは何してやがんだ⁉」

「女子は流行ものが好きですからね。中古家電なんて全部爆破してやりましたよ」

「誰だテメェは⁉」

「私は『可愛すぎる陰陽師はるるん』こと安倍晴瑠‼ ちなみに式神の金野は体調不良につき欠席!!」

 キメ顔でお札を構える晴瑠。


「ただの大学生風情がノコノコと『機死怪生』‼」

 わらわらと付喪神の大群が押し寄せてくる。


 なのに俺は希望を持っていた。俺はもう前の世界の俺とは違う。

「相手が誰だろうと負けねぇよ。たとえ付喪神の大群だろうが…」

俺はもう一人じゃない。俺には仲間ツレがいる。俺は立ちあがった。

「塵塚怪王だろうがな‼」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る