凱旋のはずがどうしてこうなった!?

 荒い息を整えながら剣を下ろした。なんかどどどどッて音がすると思って目線を上げると、王女とミリアムが先を争ってこっちにすっ飛んできていた。3メートル手前で飛びついてきたため思わずサイドステップで避ける。二人揃って顔面から地面を滑っていった。うっわ、痛そうだなあれ。


「何で避けるんですかあああああああああ!!」

「いやなんとなく?」

「貴方の身を案じた乙女が胸に飛び込んでいくんだから、しっかり受け止めるべき」

「いや、なんかもう押し倒されそうだったし」


王女が涙目になっているのは顔面を強打しただけではないようにも見えた。だから思わず手を差し伸べてしまったのかもしれない。

「ほれ」

「あ・・・ありがとうございます・・・ってまず貴方が避けなければ私そもそも転んでません!」

「気にするな、ただの条件反射だぐぎぇ」


いつの間にか背後に回りこんだミリアムが綺麗にチョークスリーパーを決めていた。

「だから浮気は許さない」

一騎打ちで体力と魔力が枯渇していた俺はあっさりと意識を刈り取られた。


 翌朝、オルレアン伯の持ち込んだ馬車を改造し前バルデン伯と元嫡子を放り込んだ。このまま王都ファルティエまで護送することになる。バルデン領の騎士団はレックスが伯爵嫡子となって指揮権を引き継ぐこととなった。オルレアン伯自身は領土に戻り、50の騎兵をこちらにつけてくれることとなった。オルレアン伯は子供はおらず、甥のカールを養子としており、彼の率いる部隊は王女の指揮下に入ることとなる。巡幸の往路と同じように、特に波乱もなく王都に到着した時はこっそり胸をなでおろしたのである。


 処遇が決まるまで休暇となったので、王都の官舎に戻ったが、いきなり次の日に登城の命令が来た。城門をくぐり、王に謁見用の待合室に通された時は嫌な予感が走った。しばらく待って王の執務室に案内されたが嫌な予感最高潮である。侍従がドアを開けると、満面の笑みを浮かべたイリス王女が出迎える。頭痛と胃痛を覚えてしまったのはこれも条件反射か。


「エレス卿か、楽にせよ。まずは王ではなく父として、娘の命を救ってくれたこと、感謝する」

「いえ、イリス殿下の知略あってこそです。私がやったのは敵に切り込んだくらいですよ」

「ほう、オーギュストを一方的に一騎打ちで打ち倒したと聞いたぞ。あやつは我が国でも五指に入る豪の者であるがな」

「大丈夫、陛下も貴方のことはご存知ですよ」

「そう・・・ですか。なるほど」


「ふむ、貴殿の存在はジョーカーになりかねんのだよ。イリスの存在と合わせてな。我が祖先たる始祖王クローヴィス陛下と同じ力を持つのでな」


「え??」


「あら?知らなかったのですか?貴方の使っているのは自己強化魔法。魔力を全身に巡らせることにより力、速さなどが数倍になる。そして始祖王しか使いこなせなかった魔法」

「いやー、そんな大層なものだとは思ってなかったわ」

「普通の魔法は、まず魔力を属性で染め上げ、力を具現化させる。私が使う支援魔法も聖属性の防御壁を作って防御力を底上げしたり、武器に属性付与して攻撃力を底上げする。けど、人間の性能を上げたりはできないし、やらない」

「えーと、それふつーにやってたんですけど・・」

「そもそも純粋な魔力を運用なんてどーやってやるんですかあああああああああああ」

「んー・・・こうぐわって流して、おりゃって感じで?」

「そうですね、貴方に聞いた私が愚かでした・・」


その会話を見た国王が目を丸くして、ニヤニヤと笑みを浮かべながらとんでもないことを言い放った。

「ほうほう、いつのまにやらいい雰囲気ではないか。わしは身分差など気にせんぞ。いっそ婚約しとくか?今回のこともあるしな」

その言葉を聞いたイリス王女が顔を真赤にする。何だ、照れる顔もかわいいな、って俺は何を考えてんだ。ふと王様と目があった。ニヤニヤしながら微妙に目が笑ってない。あ、親子だ、紛れも無く。


「ひとまずこの話はおいておくとして、此度の場は、わし個人としての礼が言いたかっただけだ。それ以外の他意はない。しかし、恩賞については後日、式典を設けて下賜することとなろう。言っておくが辞退などはするなよ?隣国の陰謀を未然に食い止めた功労者だからのう」


言いたいことはいろいろとあったがひとまず無言で頭を下げ、侍従が次の来客を告げに来たのを機に執務室から退室した。いかん、嫌な予感が全く離れない。


かっきり3日後、俺たちに登城命令が届いた。礼服に着替えミリアムたちと同じ部屋に通される。

謁見の間に通され、今回の騒動の功労者に恩賞が下賜された。

ただし、新バルデン伯のレックスのみは功罪が相殺されて、相続のみが認められた。

そして俺の名前が呼ばれた。


「騎士エレスどの、前へ!」

「はっ」

「この度の功績を認め、准男爵の爵位を授ける。トゥールの地100戸の所領を与える。及びラーハルトの家名を名乗るように!

続いて、王国兵ミリアム!騎士の位を与える。王国従騎士カイル、上級騎士とする。ラーハルト家騎士隊長に任ずる。イセノカミ・トモノリ。騎士の位を与える。ビゼンノカミ・ナガマサ、騎士の位を与える。王国兵ロビン、騎士の位を与える。またオーガ討伐の功績を認め、宝弓グリーンを授ける。勇者と名高いロクスリー卿が使っていたものだ」


 どうやら俺は地方領主に任じられたらしい。騎士になれば一応貴族の端くれということになる。准がつく爵位は当代限りで相続権はない。それでも領地付きの爵位は破格の報酬といえるだろう。

今回の戦いで参戦した兵たちはそのままラーハルト家の兵として俺が雇うことになったらしい。

これは漏れ聞いた話だが、王都にいる法衣貴族の皆さんが、新たな英雄の誕生を喜ばなかったようである。とりあえず王都から追い出して、領地経営に難癖をつけて放逐しようとしているとかなんとか。と、何故か宿舎にやってきた王女がプンスカしながら説明していった。


まーあれだ、また面倒事を抱え込んだようである。


やれやれ、どうしてこうなった・・・


退出して行くエレスを見ながら親子の会話がされていた。

「やれやれ、なかなかに厄介な男だな。貴族になって普通は喜ぶものだが、すっごいめんどくさそうな表情してたぞ」

「そうですね、あの方には迷惑な話かもしれませんが、こうやって重しを載せて縛り付けないと何処に行っちゃうか分かったもんじゃありませんし」

「そうか、そんなにあ奴と離れるのは嫌か。近いうちに現地視察を命ずるか?」

「あああああああ、いえ、そういう意味じゃなくてですね」

「イリスよ、お前年々母に似てくるのう・・」

「なにを言いますのお父様、いきなり」

「まあ、あれだ、ご先祖様も実は風来坊だったらしいぞ。それをいろいろ手をつくして婿に迎えたとか」

「お父様、そのお話、後でじっくり聞かせていただけませんか?」

そう言ってイリスは花のような笑顔を浮かべた。

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