世界地図買ったらエスニックで超自然な女の子達に民泊されたんだけど
明石竜
プロローグ
普段見慣れない世界の料理やグッズ販売の催しを見ると、なんだか楽しい気分になって来ないか?
「トムヤムクンとグリーンカレーかぁ。和雪(かずゆき)くん、やっぱり辛いの食べるんだね」
「うん、俺、熱帯地域の料理ではタイ料理のこの二つが特に好きだな。桜子ちゃんはサークー・ガティとブコパイと、ハウピアとオンデオンデと、ハロハロと、ロコモコも選んだんだね。けっこういっぱいだね」
「選び切れなくって♪ 熱帯は憧れの場所だよね。フルーツいろんな種類採れるし、ヤシの木とかハイビスカスとかガジュマルとか、植物も魅力的なの多いし、海もエメラルドグリーンですごくきれいだし。年中蒸し暑いことと虫が多いのは嫌だけど」
「俺は熱帯の昆虫も魅力的に感じるけどね。コーカサスオオカブトとかハナカマキリとかジンメンカメムシとか」
「私もジンメンカメムシさんは見てて楽しいなって思えるけど……」
六月第一水曜日。北摂のとある府立進学校、豊中塚高校のお昼休み。
ハワイ&東南アジアトロピカルフェア開催中の学食にて、一年三組の利川和雪は同じクラスの幼馴染、光久桜子と仲睦まじく会話を弾ませていた。丸顔ぱっちり垂れ目、濡れ羽色髪ナチュラルストレートヘア。背丈は一五五センチくらいで、おっとりのんびりとした雰囲気の子なのだ。
お互い会計は別々に済ませ、座席に向かい合わせに座ると、
「和雪くん、これ、似合うかな?」
桜子はメニューのおまけについて来た、赤いハイビスカスの髪飾りをつけて照れくさそうに問いかけてくる。
「うん、似合ってると思う」
和雪は一瞥すると、ちょっぴり緊張気味に答えた。
「ありがとう♪ この髪飾りハワイアン雑貨っぽくてすごく気に入ったよ。そうだ! 和雪くん、今日の放課後いっしょにここ寄ろう! 最近出来たおしゃれな雑貨さんなんだけど、このお店、ハワイのムームーとか、ロシアのマトリョーシカとか、ペルシャ絨毯とか、世界のいろんな雑貨を取り扱ってるんだって。世界各国の面白いお菓子もいっぱい売ってるみたいだよ。和雪くんが気に入る雑貨もいっぱいあると思うよ」
桜子は楽しそうにスマホでそのお店のホームページを開き、和雪にかざしてくる。
「面白そうだけど、雰囲気的に女の子向けっぽいから、やめとくよ」
和雪は苦笑いを浮かべ、乗り気でなかったものの、
「まあまあ、そう言わずにいっしょに行こう!」
「……分かった」
桜子ににこやかな表情でお願いされると断り切れなかった。
ってなわけで放課後、和雪は桜子に付き合わされ、学校から徒歩圏内にある世界の雑貨屋『エスニック・グッズ・ワールド』へ。
フロアは二階まであり、店内は広々としていた。
「民博のミュージアムショップより、遥かに品揃え良いな」
「そうだね。一日中眺めて過ごしても飽きない規模だよね。無駄遣いもしちゃいそう♪」
一階グッズコーナーはアジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、北米、南米。六つのエリアに分かれ、店内を回ると世界一周旅行気分が味わえるようになっているらしい。
マトリョーシカ、トーテムポール、ヴェネツィアン・グラス、イースターエッグ、ペルシャ絨毯、青白磁といった世界各国の民芸品や民族衣装、お菓子その他食品、楽器、翻訳された日本のマンガなどなど珍しく面白い雑貨が山のように並べられていた。
京扇子や伊万里焼、さるぼぼなど日本の伝統工芸品も。
二階グッズコーナーは地球儀や世界地図、運動会でお馴染みの万国旗などが売られている万国エリアだ。中央付近には巨大な地球儀が展示されてあった。
「外国人のお客さんもけっこういるね。あっ! このカラフルなキャンディー、美味しそう♪」
桜子はアメリカのお菓子などを籠に詰め、
「世界地図柄のグッズもいっぱいあるね。折り畳み傘とかクッションとかシャツとか。俺はこれ買うよ。けっこう安いし、開店記念の限定柄みたいだから」
和雪は万国エリアにあった税込七百円の地勢世界地図柄ハンカチを手に取り、桜子といっしょにレジへと向かっていくと、
「ねっ、姉ちゃん!」
カウンター越しにいた予期せぬ人物に、和雪はあっと驚く。
「あら和雪。桜子ちゃんもいっしょなんやね」
和雪の三学年年上の姉、雪英もちょっぴり驚いていた。
「こんにちは雪英ちゃん、ここでバイトしてたんですね。チャイナドレスがよく似合ってますね」
桜子は嬉しそうに微笑み、ご挨拶する。
雪英は高校時代までは黒髪ポニテ、丸顔丸眼鏡、一文字眉ぱっちり垂れ目な見た目が地味系文学少女って感じだったけど大学入学を機に、髪型はほんのり茶色染めセミロングふんわりウェーブにプチイメージチェンジした。けれども小四の頃から続く重度の萌え系アニメオタクな性格は変わらずである。幼児期からの趣味の絵もかなり上手く、将来の夢は漫画家。他にイラストレーター、声優、ラノベ作家にもなりたいなぁっとも思い描いてるみたい。
「桜子ちゃん、これはバイトじゃなくて、般教の東アジア史の講義の体験実習なの。このお店の店長さんがその講義の教授の娘さんって関係で。せやからうちが店員として働くのは今日だけよ」
「あらら、そうでしたか」
「実習参加は希望者のみやったけど、最低でも良の評価保証するって言うてたから参加することにしてん♪ 時間帯はバラバラやけど、他に十人以上は参加しとるよ。和雪と桜子ちゃんが買ったグッズ、きれいにラッピングしてあげるね」
雪英は慣れた手つきでテキパキとラッピング作業を済ませ、二人に手渡す。桜子には星条旗柄、和雪には万国旗柄の包装紙を使っていた。
「ありがとう♪ ラッピングのデザインも異国情緒溢れてきれいですね」
「まさか姉ちゃんがいるとは思わなかったな」
これにて店を出た和雪と桜子は、閑静な高級住宅街に佇むそれぞれの自宅へ向かって仲睦まじく歩き進んでいく。
桜子宅三軒隣な和雪は夕方六時半頃に帰宅すると、さっそく自室へ。
学習机の上はきれいに整理されていて、雪英同様勉強しやすい環境になっている。さらに所有する漫画やラノベ、アニメグッズもよく似た系統なのだ。雪英にはインパクトでかなり劣るものの。当初「女の子が見るアニメだから」と毛嫌いしていた和雪も小六の夏休みには嵌るようになってしまったわけである。
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