がんぎ
川を覗き込むと、なにかがしゃがんでいる。
小柄な男の背中のように見える。
私は土手を降りて、そこに近づいた。
草履が濡れて、ぞっとするほど冷たい。
日照り続きの浅い川でも足元は当然悪い。
月明かりではよたよたとしか歩けなかった。
男はやはりひとではなかった。
けむくじゃらの猿のようだが、頭に毛はない。
しゃがんでいたのは魚を食べていたからだ。
まだこちらには気がついていない。
もっと近づくことにした。
ここまで来ると、しゃぐしゃぐと魚を咀嚼する音も聞こえる。
食べているのはなんだろうか、
鯉か鮒か、
スッポンか、あるいは蛇かもしれない。
川底の丸い石が転がり、すねに泥がまとわりついた。
水が濁っているのは魚の血だろうか。
魚を飲み込むたびにそれの背中がぐうと動く。
葦の茂みから水鳥がばさばさと飛び去った。
私はそこで気づいた。
川で魚を獲っていたのはわたしで、
いまそれをそのまま齧っているのもわたしだと。
わたしの口元はうろこと血にまみれていた。
すぐに強烈な生臭さで、ひどく吐いた。
濡れた着物を引きずりながら、夜の川辺はもう歩くまいと思った。
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