異世界で生き残るには? 選挙で勝て!

第9話 異世界で生き残るには? 選挙対策!

 ドンドン! ドンドン!


 俺は、その、ドアを激しくを叩く音に、疲れ果て、ぐっすりと眠っていたところを起こされる。

 なんだローゼたちか?

 そのうるさいノックの音を聞いて、

 ——今何時だと思ってるんだ!

 と、俺は思いながらも、枕元の目覚まし時計を見て……

「あれ?」

 もう昼なのに気づいてその言葉を飲み込む。

 ああ、そうか。昨夜は疲労困憊して部屋に戻ったらバタンと気絶でもしたかのように眠ってしまったのだったが、——そのまま寝つづけて、いつのまにか昼……

 随分と寝過ごしてしまったようだ。

 でも——そりゃそうだ。

 昨日は、真空の相転移と言う、このブラッディ・ワールド世界消滅の危機を、ローゼのスカラー場復活の大魔法で救うと言う、宇宙規模の大スペクタクル巨編的な事件が起きていたのだった。

 俺はその事件の対応(やったのはググるだけなので主に心労だが)に心底疲れてしまっていたのだった。

 だから昼まで、——もう十二時間以上も寝ていることになるが、まだまだいくらでも寝ていられそうな感じであった。

 と言うか、もう少し寝させて欲しいのであった。

 でも、サクアとローゼがやって来たのか? 


 ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!


 ああ、うるせー。

 でも、あの二人が来たのなら、出ないとさらにめんどくさいことになるな。

 もっとうるさくノックしてくるかもしれないし、ドア壊すかもしれないし。

 言うこと聞かない使い魔おれはローゼ様の恥なので無き者にしてしまおうとサクアが大鎌研ぎ出すかもしれない。

 うう、——なら、めんどくさいが、起きとくかと俺は思い、無理やり体を起こし、背中を曲げながら大儀そうにドアを開けるのだった。

 すると、


「こんにちわ! 町内会長のエライと言います」


 玄関の前に立っていた見知らぬおじさんがちょっと嘘くさい笑みを満面に浮かべながらそう言うのだった。

 俺はそれを聞いて、

「えっ? 町内会——会長?」

 異世界に来てまで、そんな生活臭溢れる組織があったとことにびっくりする。

 俺がこの世界ブラッディ・ワールドに、部屋ごと(ネットごと)ローゼに召喚されてからはや二ヶ月くらいたったけど、その間一度も、町内会なんてのに呼ばれたことも、そこから誰か訪ねて来たことも無いんだけど、——なんだか今になって唐突にあらわれた、なんだか胡散臭そうなおじさんであった。

「越して来られてから町内会から挨拶もできずにまことに申し訳ございません。なにしろこの二ヶ月くらいありましたものでご挨拶するにも街があんなありさまだったのでして……」 

 うっ。そのは、ほぼ殆どローゼが関わって、余計話をややこしくしてしまったもので、——ならその殆どの殆どは俺も混乱の一役をかっているわけで……

 なんだか町内会長のと言う時の語感にそんな含みが入っているようで俺は少しドキッとしてしまう。

 でも、

「いや、でも騒動にかまけて挨拶できずにいて本当にすみませんでした」

 と言って深くお辞儀をするオジさんだった。なんだか、この人、やたらと下手に出て来て気持ち悪いな。

 人が不自然に下手に出たりする時は、大抵なんか企みがあるものだが。

「あなたは、わざわざ異世界から引っ越して来られた方とお聞きしましたので、町内会としても最大限のサポートさせていただきますのでよろしくお願いします。」

「はい……」

「ただ町内会に入っていただくには条件がありまして……」

「……?」

 なんだろこの人、この後に町内会費とか請求してくるのかな?

 俺、この世界の金なんて何も持ってないんだけど。

 ローゼは、使い魔として召喚した俺を飯を食わせてればタダで使えるのが当然と思ってるようで、一緒に近くの食堂に行くか、適当な食材を買って来てくれるしかない。

 ちなみに、ローゼが好んで買ってくるのはジャガイモとトマトで、俺はそんなものがなぜ中世にあるのかとつっこみを入れたら、普通に昔からこの辺でとれると聞いて、この世界の創造者シナリオライター?の適当さを思い知るのだが……

 ——まあ、置いといて。

 俺は、何か言いたげな表情でニコニコと俺を見つめる会長に、金は持ってないから町内会費は主人のローゼに取りに行ってくれと言おうと口を開きかけるのだが、

「これを……」

 町内会長はなんだかあやしげな茶封筒をさっと手渡してくる。

 俺は、なんとなく嫌な予感がして、中を確かめようとすると、

「まあ、まあ、お納めください……でも町内会はクランプトン候補支持ですのでそこをお忘れなく」

「え?」

「……ふふ、この後の近所付き合いも選挙のほうもよろしくお願いします。我々は和を尊ぶ町内会です。ゆめゆめそれを見出すことなきようおきおつけください……それが町内会に入る条件になります。あなたも地域で寂しく孤立したくはないでしょう? それでは——」

 と言うと礼をして振り返り歩き出す町内会長。

「ちょと……」

 俺の呼び止める声には答えずに彼はさっさといなくなってしまう。

 残された俺の手には封筒が。

 何これ?

 俺はその封筒の中身を見るが……

 ——ん? 五千異円yen

 なんだ? お金入ってるよ。

 と俺が驚いていると、

「ふん、クランプトン陣営の選挙運動ですね。相変わらずこすい手を使いますね」

 いつのまにか横にいたサクアが言う。

「まだ選挙期間に入る前に個別訪問して町内会からの贈り物といってお金を渡す。かなりグレーですが、まあ現職市長を輩出する政党の次期候補とみられているクランプトンの肝入りだとするとまずは捕まらないでしょうね」

「はあ?」

 選挙? 

 このインチキ中世世界は、選挙で首長選ぶような民主主義世界なわけ?

 ここは、てっきり領主とか王様とかいて、貴族とかが小作料払わない農民にヒャッハーとかやってるみたいな世界かと思ってた。

 俺は、その話を聞いて、思ったよりも近代的なこの世界をちょっと見直すのだった。

 だが、

「……? 使い魔殿は、もしかして選挙を知らないのですか? そんな遅れた世界から来たのですか?」

「むっ! そうなのか?」

 サクアと、その後ろから現れた、ちんちくりん……いや大魔法使いローゼも俺をなんだか見下したような目で見ているのにちょっとカチンとくる。

 ちょっと、選挙をやってるくらいで、この偽中世世界の連中に民主主義の現代文明の一員たる俺がバカにされるいわれはない。

「なわきゃないだろ。俺の世界はとっくに民主主主義で市長だって首相だって大統領だって国民の選挙で選んでるよ。まあ世界にはまだ民主主義が怪しい国もあるが、少なくとも俺が住んでた日本はもう百年以上も国民の選挙で首長を選ぶようになってるよ」

 と言いながら、俺はポケットから出して腰位置に構えたさスマホでさりげなく検索。日本で選挙が始まったのが1889年で百年越えてるな。俺は適当に言った百年があってるのを確認してほっとするが、なんだ? 男女揃って二十歳以上が選挙権持つようになったのは終戦後の1945年。百年経ってないな。これは黙っておこう。

 ——とか思いながら顔を上げると、

「ほお? 百年ですか。なかなかやりますね。使い魔殿のような冴えない男のいる世界の割には思ったよりは文明は進んでいるようです」

 とサクアが言い、

「……っ」

 少しムッとして顔を強張らせながら俺は思う。

 何が冴えないだ。科学も文化も中世レベルのこの連中が、と。

 だが、それを説いても、そもそもの価値観が違う、——魔術がない俺の世界を蛮族の国と思ってるようなこの二人にはまったく話が通じないので、喉元まで出かかった声を俺は飲み込む。

 すると、俺の沈黙を自分の優位と思ったのか、すこし小馬鹿にしたような口調でサクアが言う。

「まあ、我々の街の市長はもう五百年以上も選挙で選んでいますがね」

 えっ? 五百年? クソメイドが自慢げに言うその年数を聞いて、「意外?」と俺は思ったのだった。

「もちろんこの世界ブラッディ・ワールドにはまだまだ選挙制度がなくて独裁者が暴権をふるっている国も多いですがね。それは認めましょう。しかし我が市は民衆による統治をこうやって長年にわたり守っている。それは自慢です。私もこの街の市民であることを誇らしく思いますよ」

 なるほど、俺の世界の中世にも選挙で市長選んでた都市国家とかあったし、そもそも古代ギリシャも民主制だったと言うか、——それが民主制の元だし、ならこの謎中世風世界でも選挙やっていておかしくはないのかもしれない。その歴史ある民主制にサクアは随分と誇りを持っているようだが、確かに五百年もそれが続いているのなら誇るべきことだと俺も思う。

「む! 誇り!」

 ローゼも杖をドンとついて嬉しそうな様子。

 町内会長が金持ってやってくるとか、選挙そのものは、なんだかあやしげな感じもするが、俺の世界の選挙だって清廉潔白って言い切れないどろどろしたとこも多いと聞くしな、昔はもっとひどかったとかも聞くし……

 ここは素直にこいつらに(たまには)感心しておくかと思うが、

「何しろ、選挙は便利ですからねー」

 ん? 便利?

 なんだか話の行方が怪しい方向に向かう。、

「これが隣の都市国家くにみたいに領主独裁だと、領主と利害合わないと良い目みれませんが、選挙ならローゼ様に都合の良い方良いですからねー」

 勝たせる? 随分と不穏なワードがでてきたが?

「ローゼ様の魔法の力を持ってすればなんでもないんですよね。投票の結果をことなんて。そうやって都合の良い候補に勝たせてあげて、そこでたっぷり恩を売ればよいんですよ。そうすれば……」

「ん!(なんでも思うがまま)」

「…………」

 やっぱり——。

 俺は深い嘆息をする。

 ああ、少しでもこいつらに感心した俺が馬鹿だった、と俺は思う。何が誇りだ。ローゼの魔法で不正やれて自分たちに都合が良いだけじゃないか、と俺は一気にこの街の選挙に関心を失くしかけるが、

「しかし、今回の選挙はそうはいきません……」

 と言うと、落ち込んだ様子になるサクア、

「む!(困った)」

 何が困ったのだろうか? ……珍しく落ち込んでるローゼの顔を見て、俺はその理由がちょっとだけ気になるが、なんとなく関わるとろくなことにならないような気がして、

「そうか……大変だな……でも俺まだ疲れているから……」

 と言うと、さっさとドアを閉じてしまおうとドアノブに手をかけるが、

「ふふ、でも大丈夫ですよね……」

「ぬ!(そのとおり)」

 ドアの前に足を出して、それを閉めさせないようにしたサクアが言う。

「我々には感心な使い魔殿がいるのですから!」

 俺は、いやらしくニヤリと笑いながら言うこのクソメイドサクアの言葉を、背中に悪寒がゾクゾクと走る、悪い予感マックスの中で聞くのだった。

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