第40話 るくるく

同じところをいったりきたりしている

さっきからずっとだ

いつか小さい頃に見たアニメで

壁に手を着いて歩くといいと聞いた


同じところだと思うのは

同じアニメでやっていたように

しるしをつけたからだ

壁に油性ペンでサインをかいた

そこにいつのまにか戻ってきているのだ


しるしは僕の下手くそな字でかいてあるから

他の誰かがかいたものじゃないだろうし

そもそもここで他の人と話したこともない

ただすれ違うだけの人が

僕の下手くそなサインを真似するはずもない


どうしてみんなはそんなに平気な顔をしているんだろう

こんなにるくるくまわっているというのに

僕はきっとなにか間違えているんだろう

すれ違う人は急いでいて僕の方を見ない

目の端に見えた空を見上げれば

壁が高くて登れそうもないのに

てっぺんを歩いている人が小さく見えた


そこから見れば

なんて小さくてバカなやつに見えるんだろう

この小さな世界でるくるくあるく僕は


雨が振ってきた

油性ペンは雨をはじいた

壁にらくがきをしてしまった

だけど

僕以外に誰か見つけるだろうか

こんなに小さなしるしを

僕の下手くそなサインを


見つけても意味がわからないだろう

ただのらくがきだと思うだろう

僕だって

迷わずに進めばこのしるしにたどり着けなくなる

いらなくなる

それまでのしるし

るくるくあるく

迷っていたことがわかる

そのためだけのしるし

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